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石橋貴明がテレビから「戦力外通告」受けた理由を無視する『情熱大陸』

2021/02/01 20:00
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

 石橋貴明がテレビから「戦力外通告」を受けた時の苦悩を『情熱大陸』(TBS系/2021年1月31日放送)のカメラの前で吐露した。「精神的にもあまりよくなかった」というその時期、定年を迎えたような気持ちになっていたという。

 石橋貴明は2018年3月に『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)が終了したときのことをこのように振り返っている。『とんねるずのみなさんのおかげです』時代も含めると30年以上にわたって続けてきた冠番組の終了は、石橋にとって非常に大きな出来事だった。

<やっぱり『みなさんのおかげです』っていうのは、人生のほとんどを懸けていたぐらいの番組でしたし、それが終わってしまって、精神的にもあまりよくなかったです。その後テレビの仕事も少なくなってきてしまって、本当に戦力外通告だなと。やりたくてもできないっていうのは、ちょっとどうしようもない。『このまんま終わってしまうのかな』っていう思いはかなり強かったですね。『ユニフォームを脱がされてしまったな』っていう。60歳をちょっと前に、実質、定年だなっていう感じはありました>
<まだ自分はやりたいのに、仕事がないっていうのは、どうにもぶつけようがないっていうか>

 『みなさんのおかげでした』終了後の石橋の評判は、芳しくなかった。2018年4月から始まった『石橋貴明のたいむとんねる』(フジテレビ系)は23時以降の放送時間帯で2年続けたが、昇り調子になることなく終了。石橋が現在レギュラーを担当する地上波の番組は平日深夜枠の『石橋、薪を焚べる』(同)のみだ。

 しかし現在の石橋は生き生きしている。公式YouTubeチャンネル「貴ちゃんねるず」が成功しているからだ。『みなさんのおかげでした』から共に仕事をしてきたプロデューサーのマッコイ斉藤氏が担当した「貴ちゃんねるず」は2020年6月に配信を始めて以降、破竹の勢いで人気を獲得し、現在はチャンネル登録者数150万人を誇っている。

 「貴ちゃんねるず」がそれだけの人気を獲得した理由は、テレビの冠番組のように数字を気にすることなく、石橋が「面白い」と思うことを追い求める姿勢にあるのだと石橋本人は分析する。事実、石橋自身はチャンネル登録者数をまったく気にしておらず、それよりも視聴者がどんなコメントを書いているかを意識しているようだ。

<テレビは視聴率っていうものを取らないとお話にならないわけで、それを目指してやっていたし、(YouTubeになって)そこはちょっと気が楽になったというか。『そこは気にしなくていいんだな』と。一番最初にテレビに出始めた時みたいに、自分たちが面白いっていうことを出すっていう、シンプル(なかたちに)に戻れた>

とんねるず「保毛尾田保毛男」の大炎上
 確かに「貴ちゃんねるず」はチャンネルを開設してすぐ人気になった。石橋がテレビのみにこだわるプライドを捨て、新しい地平へ飛び込んだことが評価されているようだ。だが、とんねるずがテレビから「戦力外通告」を受けたのは、決して視聴率だけの問題ではなかったのではないか。そのことに切り込まない『情熱大陸』には疑問が残る。

 とんねるずの番組では、肉体的にも精神的にも他者を傷つけて笑いものにするパワハラ芸やセクハラがしばしば繰り広げられていた。そして、起こるべくして起きたと言えるのが、2017年9月に放送された『みなさんのおかげでした』30周年特番での「保毛尾田保毛男」大炎上である。

 ビートたけしをゲストに招いたコーナーで石橋は「たけしに呼ばれ往年のキャラで登場」とのコンセプトで、28年ぶりに保毛尾田保毛男を復活させた。このキャラクターは性的マイノリティを戯画化したものだ。かつて番組の人気キャラクターであった保毛尾田保毛男だが、同時に性的マイノリティへの偏見・差別を助長させるキャラでもあった。

 番組はそれを復活させ、たけしが保毛尾田保毛男に対して「よくいるよ、小学校の時、こういう親父が公園で待ってたんだ、よく。みんなで石投げて逃げたことあるんだ」といった発言をするシーンもあった。

 この番組内容は2017年時点で大きな議論を呼び、フジテレビの宮内正喜社長(当時。現会長)が放送翌日の定例会見で「もしこの時代と違っていて、見た人が不快な面をお持ちであれば、テレビ局として大変遺憾でおわびしなければならない」と謝罪。だが、視聴者が不快だからお詫びを求めていたわけではないだろう。

 『みなさんのおかげでした』の終了は翌年3月だった。

 また、『情熱大陸』では最近のテレビ業界の「働き方」に関して石橋貴明が愚痴を漏らすシーンもあった。

<働き方改革だとかいって、いまはテレビのスタッフも8時間以上働かない。ADから先に帰すみたいな。それは今の社会の流れでしょうがないのかもしれないけれど、ルールなのかもしれないけれど>
<人より早くたくさん稼ぎたいっていう人間は、じゃあいつ仕事を覚えるんだって。いまもそうですけど、やんなきゃダメなんですよ。つべこべ言わずやらなきゃダメなんですよ。つべこべ言っているうちは、もうしょうがないです>

 しかし過重労働が人間の心と体に与える影響を軽く捉えすぎている節があるだろう。スター街道を走ってきた石橋は多くの優秀なディレクターやプロデューサーと切磋琢磨してきただろうが、そこにあるのは「強者の論理」だ。

 YouTubeで「貴ちゃんねるず」が人気を得た理由のひとつに「いまのテレビからは消えた過激な演出が見られる」という要素がある。

 YouTubeはテレビに比べれば閉じられたメディアのため炎上しにくく、「貴ちゃんねるず」では前述した保毛尾田保毛男のような騒動は起きていないが、それでも配信開始から半年ほどで早くも何回か物議を醸した。

 新型コロナの影響で苦境に陥る飲食店を救うため、石橋がお店に行って試食し、宣伝する「東京アラートラン」で問題が起きている。7月に配信されたこのコーナーの初回では、石橋がお店の運営などを酷評。石橋の発言に煽られた視聴者がコメント欄でお店を中傷し、なかには口コミサイトを荒らす人まで現れたという。

 8月23日に配信された企画「24分間テレビ ~石橋が地球を救うかも~」も波紋を呼んだ。

 これは同日に裏で放送されていた『24時間テレビ 愛は地球を救う』のパロディで、石橋がお台場から国技館に向かって24分間走る内容だ。石橋が走るなか、本家『24時間テレビ』風に著名人からの応援コメントが読み上げられるのだが、そこで清原和博の違法薬物使用を茶化すような演出があったのである。

 もちろん清原と石橋は言わずと知れた盟友。彼らの関係性があってこその演出であるにしても、視聴者間で疑問の声が飛び交った。

 テレビは視聴者の“クレーム”やそれを嫌うスポンサーの意向に縛られ、“コンプライアンス”を遵守するから「つまらない」という論調がある。面白いことをやりたいのに、コンプラが邪魔をする。クレームを入れる視聴者が悪い。窮屈な世の中だ。

 そんなふうに今のテレビを嘆くタレントの声、テレビ局員の声、視聴者の声が様々なところで聞こえるようになって久しい。だがその見方は、根本的なところを見誤っているのではないだろうか。

 偏見や差別を助長する、演者に危険なことをさせる、そうした演出が「過激で面白い」という価値観こそ、見直した方がいいのではないか。そもそも「YouTubeならコンプラ関係なく何でもあり」というわけでもないはずだ。

最終更新:2021/02/01 20:00
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