[官能小説レビュー]

人の温もりを感じる「当たり前」の日常が尊い、コロナ禍の心を癒やす官能小説『癒しの湯 若女将のおもてなし』

2021/02/01 21:00
いしいのりえ
『癒しの湯 若女将のおもてなし』(葉月奏太・著/実業之日本社)

 収束の兆しが見えない新型コロナウイルス感染拡大の中、日本人の性欲は減少傾向にあることが明らかになっている。しかし一方で、1カ月のセックス回数が20〜29回の層が、コロナ禍の中で増加したという統計()が出た。

 平均的な性欲の持ち主は性欲が減退し、一方で、元来性欲が強い者は、この混沌とした世の中で生き残ろうとするためにセックスを求めている。

 約1年間コロナ禍で翻弄され、心身ともにヘトヘトになってしまった平均層にとって、今もっとも縁遠いのは官能小説という存在であろう。しかし、全ての常識がひっくり返った今、「密」を切実に感じたくなる作品をご紹介したい。

 今回ご紹介する『癒しの湯 若女将のおもてなし』(葉月奏太・著/実業之日本社)は、北海道の片隅にある小さな温泉宿が舞台だ。

 上司に不正の責任を擦りつけられ、結婚寸前であった同僚の恋人からも振られてしまった主人公の田辺は、自暴自棄になり、吹雪の中ハンドルを握り続けていた。札幌から5時間、車がスタックしてしまい、あてもなく銀景色の中を彷徨っているところを助けてくれたのが、温泉宿の若女将を務める桃香であった。

 案内された温泉宿には、田辺以外にも「訳あり」の女性たちが宿泊していた。豪雪の影響で足止めを食ってしまった田辺は、数日間温泉宿に世話になる。会社からの辞令を待ちながら温泉で体を温め、桃香をはじめとした宿泊客たちと触れ合い、自分自身と向き合う時間を重ねる。

 次第に田辺は桃香への愛情を感じて告白をするのだが、桃香も田辺と同じように、密かに「闇」を抱えているのであった――。

 心に傷を負った者たちが自然と集まった温泉宿で、田辺が女たちと体を重ね、癒やし合う本作は、コロナ禍の今に刺さる作品だ。人の温もりを感じるという当たり前のことが禁忌となっている今、温泉に浸かっておいしいものを食べ、誰かに抱かれて包まれることが何よりも愛おしく感じる。

 一刻も早く「当たり前」の日常を迎えたい。官能小説では普遍的なシチュエーションを描いた本作は、非日常を生き続ける「今」を癒やす一冊である。
(いしいのりえ)

最終更新:2021/02/01 21:00
文庫 癒しの湯 若女将のおもてなし
切実に温泉に行きたいよ

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