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台湾、アジア初の同性婚法制化から1年――Netflix映画『先に愛した人』が映す偏見のリアルと、社会変化

2020/03/14 15:00
AKO(ライター)

同性婚の法案成立前夜にヒットした台湾映画『先に愛した人

台湾、アジア初の同性婚法制化から1年――Netflix映画『先に愛した人』が映す偏見のリアルと社会変化の画像2
『先に愛した人』で男性の愛人役を演じたロイ・チウ。10年ほど前は「台湾のタッキー」と呼ばれていた。(Getty Imagesより)

 法案が成立する少し前、18年11月に同性婚をテーマにしたNetflix映画『先に愛した人』(原題:誰先愛上他的)が公開された。

 主人公である高校生・チェンシーの父は、自分がゲイだということを家族に告げ、家出する。数年後、父がガンで亡くなったことを知らされるも、保険金の受取人が変更されていることが判明。怒り狂った母親が訪ねたのは、父親の「愛人」で、小劇団の監督を務める男・アージェの自宅だった。母親は「男のお前に保険金を受け取る資格はない」「この泥棒猫!」と怒鳴り散らすも、アージェは「なんのことだ」と素知らぬ顔。その後、母親のかんしゃくに耐えられなくなったチェンシーは、アージェのマンションに転がり込み、行動を共にすることに。「父の愛人」だったという男を通して、父親の本当の姿を目の当たりにする……といった物語だ。

 リアルな台湾の街並みを舞台に、同性愛に対する偏見、家族の苦悩を赤裸々に描いた本作は、「異性婚しか認められていない中で、公的な書類もなく、保険金すら受け取れない」という同性カップルが抱えるシビアな現実を突き付けてくる。

 中でも、息子が同性愛者だと知らないアージェの母親が「ずっとガールフレンドがいないものだから心配していたの」と悪気なく語るシーンは、「常識」=「異性愛」という固定概念をリアルに示している。そして、「自分の家族が同性愛者だったとしても受け入れることはできるのか」「人々はどこか他人事なのではないか」という問題提起を、観る者に問いかけるようでもある。

 本作は、現地の映画ファンからの、「楽しく見終えたはずなのに心から離れない何かがある」「鑑賞時はバスタオル必須」といった評判に後押しされ、中華圏を代表する映画賞である金馬奨に作品賞、主演男優賞、主演女優賞、新人賞、新人監督賞、オリジナル脚本賞、主題歌賞、編集賞、の計8部門でノミネートされた。ヒステリックな母親役を演じたシェ・インシュエンが主演女優賞を受賞したほか、主題歌賞、編集賞も獲得。また、19年の米アカデミー賞国際長編映画賞に台湾代表作として出品もされた。ノミネートこそ逃したが、選考委員会は、本作がジェンダーの多様性とそれをめぐる問題をユーモラスに反映している点を指摘し、「台湾が今まさに向き合っている権利平等のマイルストーンと生命力が示されている」と評価した。現在、日本でもNetflixで視聴することが可能だ。

 ジャックさんの事件から4年、法案可決からもうすぐ1年がたとうとしている。『先に愛した人』が多くの観客に観られ、街なかで堂々と手を繋ぐ同性カップルを目にする機会も徐々に増えてきた。また、新型コロナウイルス危機の中で指揮をとり「マスク不足の回避」を徹底したことで、日本でも有名になったIQ180の”天才IT大臣”オードリー・タン(唐鳳)は、自身がトランスジェンダーであることをすでに公言している。これらに鑑みると、本当に少しずつだが、台湾の社会が変化しているようにも思える。

 しかし、現行の法制度では、婚姻が成立したとしても血縁関係のない子どもを養子にできないし、同性カップルが子どもを持つための規定も整備されていない。そもそも、同性婚に対する偏見そのものがなくなったとも言い切れない。課題はまだまだ残されている。それでも法制化された以上、台湾の人々はこれからも同性婚、しいてはLGBTQの問題についてさまざまな議論を重ね、考えていくだろう。そうした議論はやがて、日本にもポジティブな影響を及ぼすかもしれない。

AKO(ライター)

AKO(ライター)

日本×台湾ハーフのフリーライター。海外エンタメのほかにネイル、コスメ、アニメ漫画と多趣味な為常に金欠です。ライターの他にもイベントプランナー、中国語翻訳、グッズデザインなど色々お仕事してます。

https://note.com/akochanppp

最終更新:2020/03/14 15:00
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