コラム
【連載】オンナ万引きGメン日誌

「あの人、見覚えがある……」万引きGメンが捕まえた熟年女性、その正体にスーパーの社長も絶句

2019/01/26 17:00

 顔見知りを見かけることもなく無難に前半の業務を終えて、閑散とした店内を見ながら休憩に入ろうか考えていると、どこか見覚えのある熟年女性が売場に入ってきました。

(あれ、あの人……、誰だっけ?)

 絶対に見たことがある人なのに、年齢のせいなのか、どうにも思い出せません。遠目から気付かれぬように、顔を見ながら記憶を辿ってみても、まったく思い出せないのです。すると、持ち手つきのサラダ油(198円・税抜)の前で足を止めた熟年女性は、片手に3本ずつ、合計6本のサラダ油を手にすると、嫌な目付きで後方を振り返りました。万引きを特集するテレビ番組的にいえば、まさに「ちょバリ(超バリバリに挙動が怪しい)」といった様子で、この人が誰なのかということは、もはやどうでもよいことになりました。

(きっと、やる)

 そう確信した私は、絶対に気付かれない位置から、熟年女性の行動を見守ります。出口付近ですれ違った女性店員と、軽く挨拶を交わしたところをみると、恐らくは常連客なのでしょう。なに食わぬ顔で、女性店員が店内に戻るのを見届けた熟年女性は、少しだけ顔をひきつらせながら後方を振り返ると、6本のサラダ油を持ったまま店の外に出ていってしまいました。できる限りの早足で追いかけ、道路を横断しようとする熟年女性に追いついた私は、その背後からそっと声をかけます。

「こんにちは、店内保安です。お客様、なにかお忘れじゃないですか?」
「ひっつ……、な、な、なんですか?」
「なんですか、じゃないでしょう? そのサラダ油、お支払されてないですよね?」
「はあ? あっ、そうだ! ごめんなさい、うっかり忘れていました……」

 どこか芝居染みた口調で、意外と素直に犯行を認めた熟年女性は、その場を取り繕うように踵を返すと店内に向かって歩き始めました。

「ちょっと、待って。事務所は、こちらですよ」
「ちょっと忘れていただけなんですよ。お金払ってきますから、勘弁してください」
「なにも買わずに、それだけ持ち出しているんだから、そんなの通用しませんよ。事務所に来てもらえないなら、いますぐ警察を呼ぶことになりますけど、いいですか?」
「…………」

 携帯電話を手に通告すると、どうやら降参したらしい熟年女性は、ガックリとした面持ちで事務所への動向に応じました。手錠をはめられたような格好で、6本ものサラダ油を持ち歩く姿は異様で、どこか滑稽に見えるほどです。

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