コラム
“中学受験”に見る親と子の姿

「テストの点改ざん」「親のお金を盗む」中学受験どころではなくなった、元優等生女子の復活劇

2018/11/25 16:00

小5までは優等生、なのに問題行動は出始め……

 もう1つ、別のケースを紹介しよう。花音ちゃんは小3から受験塾に通いだした利発な女の子。中学受験は母である明日実さんの希望であったそうだ。

 花音ちゃんは5年生までは最上位クラスにいたものの、徐々に下位クラスに移動し、6年生の段階では下から数えた方が早いクラスが定位置となっていたそうだ。

 その頃から、花音ちゃんに問題行動が出始める。テストの得点を改ざんしたり、親の財布からお金を盗むようになり、明日実さんもその度にコンコンと花音ちゃんを諭していたそうだが、泣いて謝るわりには同じことが繰り返される。

 明日実さんは筆者に当時の心境を教えてくれた。

「もう受験どころじゃないなって……。成績が悪いより何より、親にも先生にも、平気で嘘をつくってことが許せませんでした。親子のバトルは激しくなり、主人との夫婦喧嘩も絶えなくなっていったんです。その内、主人は家に帰って来なくなりました」

 そんな明日実さんをさらに追い詰めたのが、ご主人と花音ちゃんからのある言葉だったという。当時のことを思い出したのか、明日実さんは目に涙を浮かべて話を続ける。

「主人も花音も口を揃えて、言うんですよ。全部、私が悪いって……」

 もう何もかもが嫌になったという明日実さんは、花音ちゃんにも何も言わずに退塾届を提出。これで成績を気にすることも、点数で座席を決められてしまうこともなくなった花音ちゃんは、さぞかし自由を満喫すると思いきや、「そうではなかった」そうだ。

「退塾届を出したのは6年生の9月のことなんですが、11月の頭あたりに、塾の室長から電話があったんです。『どうです? お母さん、もう1回、花音にチャンスを与えませんか?』って。聞けば、退塾したはずの教室に花音は毎日のように顔を出して、ただ室長の横に居させてもらっていたんだそうです。びっくりしました……」

 明日実さんは、その時「私は花音の気持ちを、まったくわかろうとしていなかった」と感じたという。

 花音ちゃんは、ほかの受験生よりも早い、3年生入塾。「ずっと勉強を頑張ってきたのに、このままでは志望校に受からない。大好きな先生たちの期待に応えられない。そのストレスをどうしていいのかがわからなかった。でも、受験はやめたくない」と、室長先生にポツリポツリと語っていたそうだ。

 室長先生は、明日実さんに「お母さん、花音は『なぜ勉強するのか?』『どうして私立中学に行きたいのか?』『そのためには何が必要か?』……紆余曲折を経て、ようやくわかってきたところです。これは彼女にとって、決して無駄な遠回りではありません。人生にとって、とても大きなことを学んだんですよ」と語り、背中を押してくれたという。

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