妊娠したら高校退学? 妊娠・出産・育児をしながらの通学は不可能じゃない

2018/04/02 20:00

 全国の公立高等学校で、妊娠した生徒が引き続き通学の希望などをしていたにもかかわらず、学校側が退学をすすめた事案が、平成27年4月から平成29年3月までの間に32件あったことが文部科学省の調査によって明らかになった。妊娠を理由に退学処分を下したというケースは確認されなかった。学校側のこうした対応は、生徒の教育の機会を奪うだけでなく、貧困化を促しかねない。

 なお、学校側が自主退学を勧めたもののうち、生徒または保護者は通学、休学または転学を希望していたが、学校が退学を勧めたケースが18件、生徒または保護者に今後の明確な希望はなく、学校が退学を勧めたケースが14件だった。文科省は全国の教育委員会等に対し、適切な配慮をするように指導するという。

 調査対象期間で学校側が生徒の妊娠を把握した件数は2098件(全日制1006件、定時制1092件)。このうち「産前産後を除く全ての期間通学」していた生徒は最も多い778件で、「真に本人(又は保護者)の意思に基づいて自主退学」した生徒が二番目に多い642件だった。

 学校側が生徒や保護者の意思を尊重しないことも問題だが、学業と育児を両立できるような支援体制が不十分だったために、退学を選択するしかなかった可能性も十分に考えられる。実際、学校が退学を勧めた理由をみると、母体の状況や育児を行う上での家庭状況から学業を継続することが難しいと判断したのが18件、学校における支援体制が十分ではなく、本人の安全が確保できないと判断したのが8件あった。

 「産前産後を除く全ての期間通学」していた生徒が最も多かったことを考えると、それぞれの家庭環境に違いはあれど、妊娠・出産・育児をしながら高校に通学することは不可能ではない。本人が通学等を希望しているのであればその意思を尊重するべきであるし、また退学を希望している場合も、妊娠等と通学の両立が不可能ではないこと、学校側が支援体制を整えるなどの配慮が可能であることを伝えるべきだろう(実際、「全ての期間通学した生徒」に対して、授業内容の代替、病院との連携、託児所の設置や紹介などを行った学校は多数ある)。

 自主退学を促すことは、教育の機会を奪うだけでなく、貧困化を促すことにもつながってしまう。「平成29年賃金構造基本統計調査」によれば、学歴別にみた女性の平均収入は、中学卒が187.6万円、高校卒が210.9万円、高専・短大卒が254.8万円、大学・大学院卒が291.5万円と中学卒と高校卒だけでも20万円以上の差がある。なお、この調査は、特定の産業・規模の事業所を対象としているため、その他の産業・規模、そして働いていない女性は含まれていない。平均収入はもっと下がることが考えられる。

生徒たちの性に関する人権が疎かにされている
 3月23日、東京都議会文教委員会で、古賀俊昭都議(自民党)が、足立区の区立中学校で行われた性教育に対して「学習指導要領にそぐわない」と指摘し、東京都教育委員会が足立区教育委員会に指導するというニュースが流れた。

関連記事:性教育で「避妊」「中絶」を取り扱うことは不適切? 15年前と変わらぬ都議と東京都教育委員会

 この区立中学校が問題とされたのは、「妊娠が可能となることを理解できるようにする」「妊娠の経過は取り扱わない」と定めている中学校の学習指導要領の内容を超えて、「性交」「避妊」「人工妊娠中絶」といった「妊娠の経過」にあたる言葉を使ったことにあった。

 「性交」「避妊」「人工妊娠中絶」といったトピックを扱わない性教育など不十分なものだろう。区立中学校がとった事前アンケートでは「高校生になったらセックスしてもよい」と答えた生徒が44%いた。望まない妊娠や性感染症の予防のために正しい知識を教育するのは、高校に入ってからではなく、中学校の時点で行わなければ手遅れとなる。だが東京都議会文教委員会に限らず、文科省も積極的な性教育の推進には及び腰なままだ。

 なお、文科省は今回の調査結果を各都道府県の教育委員会等に向けて通知する際、3点の留意事項を添えていた。そのうちの「日常的な指導の実施」には「妊娠による学業の遅れや進路の変更が発生する場合があり得ることにも留意が必要であることを踏まえ、学習指導要領に基づき、生徒が性に関して正しく理解し適切な行動をとることができるよう性に関する指導を保健体育科、特別活動で行うなど、学習教育活動全体を通じて必要な指導を行うこと」とある。問題はまさにその学習指導要領にあるのではないだろうか。

 支援体制が不十分なまま、妊娠した生徒の一部が、自らの意思を尊重されず「自主退学」を迫られている。さらに積極的な性教育が推進されない中で、文科省は中学校で「妊娠の経過」を扱わないとする学習指導要領にそった指導を学校など教育機関に促している。ちぐはぐな環境の中で、犠牲となるのは生徒、保護者そして生まれてくる子どもたちだ。

最終更新:2018/04/02 20:00
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