[連載]悪女の履歴書

11歳少女はなぜ友人を殺めた? 「佐世保小6女児同級生殺害事件」と少年犯罪の現在

2016/04/03 21:00

■ごく普通で自己主張の弱い少女像
 A子は両親と姉、そして祖母と佐世保市の山間の小さな集落で暮らしていた。しかしA子が2歳の時、父親が脳梗塞で倒れ障がいが残った。家にいることの多かった父親は、躾に厳しく教育に熱心だった。またそれまで専業主婦だった母親は、父親の病気をきっかけに仕事に出て、一家は毎日の生活に追われていたという。だが、両親によるA子の虐待や育児放棄などは確認されていない。

 山間部に住んでいたA子は、1日に数本というバスで学校へ通い、友人と遊ぶこともままならなかったのだろう、パソコンに傾倒していった。父親は自分とは別に子ども用にパソコンを買い与えている。A子はパソコンに没頭した。ホームページを作り、オカルトサイトにアクセスした。

 父親に障がいがあるとはいえ、これだけで家庭環境に問題があるとは言えないだろう。オカルトサイトにしてもこの年齢で興味を示すことも珍しくない。事件後、A子に面談し会見を開いた児童相談所は「ごく普通の女の子。ごく普通の家庭に育っている。成績もよく、頑張り屋」だと語っている。一方で、ごく普通ではあるが、自分をうまく表現できず、自己主張が弱い子どもだとも。

 A子は14歳未満の「触法少年」だったため、児童相談所の決定で、長崎家裁佐世保支部に送られ、長崎少年鑑別所に収容された。この際もA子は冷静だったという。食事も残さず食べ、読書をして過ごす。被害者のB子に対しては「会って謝りたい」と言っているが、しかし反省している様子ではなかった。そして面談した人々に「幼い印象」を残していたという。

 実際、事件の前年、A子が5年生の時の担任教師は彼女の印象をこう語っている。

「あの子の素直な笑顔と、事件が重ならない。(略)感情の起伏はあったんですが、すぐにカッとする子というのはほかにもいました。『この子だからやった』という話ではないと思うんです」「居場所がないということもない。暗いという印象もなかったんです」(『謝るなら、いつでもおいで』集英社/川名壮志著)

 ただA子とB子の間にトラブルがなかったかというとそうではない。

 パソコンの得意なA子は自分のホームページを持つと同時にB子にもそれを指南し、チャットもやっていた。それは仲良しの女の子同士のたわいもない会話だった。この頃、A子は熱心に読んでいたホラー小説『バトル・ロワイアル』(太田出版)を模し、「バトル・ロワイアル外伝」を書き始め、そこにB子を登場させた。

またホームページにB子がA子について「ぶりっこ」と書き込み、トラブルになっていたという情報もあった。

■強い自己主張と攻撃性の表出
 少女が当時、どんな思いで生活していたのか。それに触れるこんなブログが残されている。

「ヒッマだぁぁぁぁぁぁぁ〜><
しかもアイス食べたから寒い><
さっむ! ひっま!
ぁ〜暇暇暇暇」
「つーか私のクラスうざってー。
エロい事考えてご飯に鼻血垂らすわ、
下品な愚民や
失礼でマナーを守っていない奴や
喧嘩売ってきて買ったら『ごめん』とか言って謝るヘタレや
高慢でジコマンなブスや
カマトト女しったか男
ごく一部は良いコなんだけど大半が汚れすぎ
寝言言ってんか?って感じ
顔洗えよ」

 当時A子は熱心だったというミニバスケットボールの部活を、家の事情で辞めたことで時間を持て余し、クラスメートに対しても独りよがりな不満を抱いていることがわかる。そして事件後に児童相談書から「自己主張が弱い」と評されたA子だが、一方でネットという仮想空間、そして文章の上ではその印象はガラリと変わる。自己主張と攻撃性。そんな印象を強く持つのだ。

 また別の女児を加えた数人で交換日記もしていたが、ここでもトラブルが起こっていた。
 それはA子の日記に記した「NEXT」という表記だった。5月頃からA子は文章の最後に「NEXT」と英語表記を挿入しはじめたのだが、それを他女児たちもマネし始める。しかしA子はそれに激怒したという。

「NEXTの使用は禁止。パクらないで」

 A子にとって、これはある種のプライドだったのか。しかしこんなことで激怒したA子を他女児たちは敬遠した。そんな中、B子だけはこう反論している。

『思春期病棟の少女たち (草思社文庫)』
小6の頃を思い出すとなんだかしんどくなる
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