元精神科看護師がレビュー

精神科病院の実態とは!? 2冊のコミックエッセイから読み解く、“偏見”と“理解”

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左から『精神病棟ゆるふわ観察日記』(宝島社)、『精神科ナースになったわけ』(イースト・プレス)

 精神科病院と聞くと、あなたはどんなイメージを思い浮かべるだろうか。「怖い」「暗い」「鍵のかかる場所に閉じ込められる」などといった想像をする人が多いかもしれない。

 そんな、ネガティブな印象を持たれやすい精神科病院だが、その実際はどのようなものであろうか。精神科病院のリアルを描いた2冊のコミックエッセイ、『精神病棟ゆるふわ観察日記』(宝島社、杉山なお)と『精神科ナースになったわけ』(イースト・プレス、水谷緑)から、精神科病院や精神疾患について考えてみたいと思う。

 いずれの作品も精神科病院を題材にしたコミックエッセイである。看護師視点とアルバイトスタッフという立ち位置の違いなどはあるものの、実際の体験をベースにしているという点は同じだ。

 ただし、この2冊には決定的な違いがある。それは、読者が精神疾患を“自分ごと”として捉えられるかどうか、という点だ。

 「観察」という名の、ネタ探し……病棟内の出来事は全て他人事

 精神科病院でアルバイトする筆者が実際に見聞きしたことを、ちょっと「楽しく」描いたという『精神病棟ゆるふわ観察日記』。病棟内で起こったこと、入院している患者の様子や発言、看護師などのスタッフとのやり取りを赤裸々に描いたものだ。

 病歴などはフィクションとされているものの、患者やスタッフの言葉、作中のできごとなどは、おそらくそのまま掲載しているのではないかと感じられる描写が多かった。タイトル通り、「観察」したものをネタにしているからだろう。

 普段なかなか知ることのできない精神科病棟の実際を描いたという点では、貴重な作品かもしれない。しかし、著者は精神科患者を奇異な存在として見ているのではないかという疑念が拭えなかった。一線引いた立ち位置から患者を観察し、「こんな面白い患者がいるよ」と友人にでも話すようなノリで作ったのだろう、そんなふうに感じた。

 精神科患者は、自分たちとは“別世界”にいる人たち。きっと著者はそのような考えでいるのだろう。

 精神疾患を「怖いもの」にする原因とは

 一方の、『精神科ナースになったわけ』は、精神科で実際に働いた看護師たちや病院などへの取材をしっかりと行って、作られているコミックエッセイである。精神科病院で働き始めたばかりの看護師の視点から、患者たちの様子が丁寧に描かれている。

 描かれている患者たちの行動は、一見すると理解できないものが多い。妄想からくる言動やリストカット……なぜそんな言動をするのか、本当に妄想はあるのかなど、疑問に思っている人もいるだろう。本書では、その「なぜ」についても、患者と看護師の対話の中で触れている。

 対話を重ねる中で一つひとつ理由を探ると、彼らなりに理由があって、そういった行動などに至るのだと知ることができる。すると、精神疾患は「わからないもの」ではなくなり、わかるようになれば「怖いもの」でもなくなるのだ。

 私自身も精神科で看護師として働いていた1人であるが、患者1人ひとりの背景や病状を見ながら関わるなかで、決して精神疾患は特別なものではないと感じていた。病気になるかどうかは、紙一重。いま健康な人だって、いつか発症するかもしれないし、身近な人が実は病気を抱えていたということもある。

 本書の中でも触れられているが、精神科病院の入院患者に最も多い疾患である統合失調症は、およそ100人に1人の割合で発症する。ある程度の規模の学校や企業なら、1人や2人いてもおかしくない数字なのだ。

 精神疾患を抱える患者は、別世界にいる人たちではない。病気であること以外は、私たちと何も変わらない。そして、思っているよりも身近で、人間らしい人たちであることを教えてくれる1冊である。

 “知る”きっかけが、偏見をなくすことも助長することもできる

 これまで、精神疾患を持つ患者たちは、隔離される傾向にあった。病院に入院したまま外へ出られなかったり、自宅の一部屋に押し込められていたりしていたという歴史がある。その流れが、現在も精神疾患に対する理解が進まない一因だろう。

 その理解の低さが垣間見えるのが、『精神病棟ゆるふわ観察日記』だ。患者をひとりの人として捉え、なぜそのような思考や行動になるのかを少しでも理解しようとしていたら、このような描写はしないだろう。場合によっては、これを読んでさらに精神科の患者たちへの偏見を助長してしまうのではないかと感じた。

 精神科医療は今、患者が地域で暮らせるように支援していく方向で進んでいる。病院のベッド数を減らし、できるだけ退院して自宅や施設などで過ごせるようにしていこうとしているのだ。そこで絶対に必要となるのが、社会の理解である。

 どんな病気を抱えているのか、どんなふうに接したらいいのかなどをほんの少しでも知ることで、精神科の患者たちが地域で暮らし始めることに対する抵抗も低くなり、サポートもしやすくなるのではないかと思う。

 その“知る”きっかけとなるのに、『精神科ナースになったわけ』はうってつけな内容であった。本書で描かれる患者の人間らしさや本音、看護師とコミュニケーションを重ねる様子は、理解だけでなく共感を生むだろう。

小松亜矢子(こまつ・あやこ)
1984年生まれ。自衛隊中央病院高等看護学院卒、元精神科看護師。22歳でうつ病を発症し、寛解と再発を繰り返して今に至る。そんな中、自分自身のうつ病がきっかけで夫もうつになり、最終的に離婚。夫婦でうつになるということ、うつ病という病気の現実についてもっと知ってほしいと思い、ブログやウェブメディアを中心に情報発信中。



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