[官能小説レビュー]

部下に妻を寝取られ、自慰に耽る中年男の悲哀――『不貞の季節』が最高にエロい理由

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『不貞の季節』/文藝春秋

■今回の官能小説
『不貞の季節』(団鬼六、文藝春秋)

 愛する者の裏切り行為は、時に人のマゾヒスティックな気持ちを呼び覚ます。例えば恋人が、自分以外の女とセックスしていると気付いた時、例えようのない悲しみと怒りに包まれながら、どこかその半面「愛する人が、ほかの女を抱いていた」という現実に、えも言われぬ“官能”を感じることはないだろうか。ほかの女をどう抱いたのか――? そんないやらしい好奇心を抱いてしまう自分が、どこかに存在してしまうこともある。

 SM作家の第一人者である大御所・団鬼六の自叙伝的小説『不貞の季節』(文藝春秋)は、当時40歳だった鬼六に起きた、衝撃的な日常が赤裸裸に描かれている。

鬼六は、中学校教師を辞め単身上京し、SMの世界に生きることを決める。その挑戦は、驚くほどトントン拍子に進み、鬼六はその世界で頭角を現してゆき、ついにはSM雑誌や写真集の出版を手掛ける制作会社「鬼プロ」の設立にこぎつける。そこに緊縛師として入社してきたのが、川田という男だ。一流商社出身でルックスも良く、女優からの評判も上々。緊縛師としての腕もよく、京子という大学生の愛人を世話してくれた川田に、鬼六は絶大な信頼を寄せた。

 しかし、そんな川田に、鬼六は妻を寝取られることになる。鬼六の妻は、教師をしていた頃に知り合った、6歳年下の美人英語教師。鬼六の成功とともに、彼を追って東京に出てきた妻は、ある日「旧友が開校する英会話塾の手伝いに行きたい」と鬼六に打診。週に2回の英会話塾の手伝いに、川田も駆り出されることとなったのだが、2人はいつしか不倫関係を結んでいたのだ。

 その事実を知ってしまった鬼六は、作家ゆえの好奇心か、妻とのセックスの一部始終を、詳細に川田から聞き出す。彼の口から語られる妻は、性欲にまみれ、セックスに溺れる雌そのものだった。そして鬼六は、川田に妻とのセックスをレープレコーダーに録音するように命じる。そして、愛する妻がほかの男に抱かれる声を聞きながら、鬼六は何度も何度も自慰に耽るのだった。

 自分の仕事である緊縛に嫌悪感を表していたのに、川田にはそのプレイ許していた妻。自分には開くことのなかった性を、川田にはあられもなく開放していた妻――2人はその後離婚し、別々の道を歩むことになる。

 SM界の大御所・鬼六ゆえ、私生活でもアブノーマルなセックスを好むのかと思われがちだが、実はそうではない。ノーマルな正常位をしながら、頭の中でアブノーマルな妄想を掻き立てることで満足を得られるタイプだったという。

 そんな鬼六が、ほかの男に抱かれる妻のよがり声を聞き、涙を流しながらも狂ったように自慰に耽る姿を本書で目の当たりにし、これこそ究極のマゾヒスティックな感情なのだろうと思った。

 さらに、そのマゾヒズムを加速させるのが、鬼六が「作家」である点だ。信頼していた部下に愛する妻を寝取られたという悲しみ、本能的にうずく妻のいやらしさに欲情し、興奮してしまう悔しさ……そんな多方面から押し寄せる感情を、鬼六が昇華させるには、筆で文字にしたためるしか方法がない。この「作家として、性の世界で生きる空しさ」こそが、この作品の重要な官能になっているのではないだろうか。

 性をめぐって湧き出す感情とは、不可解で未知なものである。鬼六が、たとえ自身にとって格好の悪い出来事だとしても、作品としてそれを後世に残した姿は、悲しくもありながら、どこか滑稽で明るい。そんな相反する感情を同時に抱いてしまう1冊である。

エロくてでもピュアって苦労しそう!!

しぃちゃん

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