[連載]悪女の履歴書

「婚期を逃したハイミス」の時代に生きた、伊藤素子の「犯罪の影に男あり」


Photo by euke_1974 from Flickr

(前編はこちら)

■「30歳を過ぎ、貯金も尽きた女には後がない」

 犯行当日の3月25日。出社した伊藤はオンラインを操作し、事前に開設しておいた4つの架空口座に計1億8,000万円を入金した。時間にして30分もかからなかった。銀行を出て大阪、東京と移動し、5,000万円の現金を引き出した。そして羽田空港から香港を経由して、マニラへと逃亡。1カ月後に必ずマニラに行く、という南との約束を胸に。

 この間、南は直接自らの手を汚してはいない。事前に架空口座を作る際も、伊藤に手続きをさせ、自分は通帳に指紋を残さないようにした。犯行当日も、最初の約束の時間に現れなかった南。その理由は自分のアリバイ工作のためだった。伊藤が1人で銀行を回っていた頃、知り合いに頼んだり、代議士に面会したりしてアリバイ作りをしていたのだ。その後伊藤と合流し5,000万円を手にした南は、そのうちの一割にあたる500万円だけを伊藤に渡した。また羽田空港への同行まで拒否している。「一緒に行ったら目立つから」という理由だった。自分だけ逃げられればいい。その証拠に約束の1カ月を過ぎても南はフィリピンに行くことはなかった。

 6カ月の9月8日、伊藤素子はマニラで、南は日本で拘束された。既に南に裏切られたことを知っている伊藤だったが、マニラで、マスコミの取材に対し「好きな人のためにやりました」と答えたのだ。

 この事件で浮かび上がってくるのは、男の卑劣さと同時に、時代の価値観に翻弄された1人の女性の姿だろう。
 
厳格な両親に育てられ、オクテで真面目な少女時代。気が進まない銀行への就職も「教師の善意を断れない」と流されるまま。そして、20歳から12年間のドロ沼のような不倫は、「処女を捧げてしまったからには、この男に捨てられたら今後結婚なんて望めない」という論理が伊藤を支配した。南のケースも同様だ。「貯金がゼロになってしまった。そんな30歳も過ぎた女が今の男に捨てられたら後がない」――。伊藤は本気でそう思った。そして“最後”と信じた男に言われるまま、犯罪行為に走った。それが彼女の生きた時代と境遇だった。しかし伊藤の価値観はなにも特異なものではない。当時の報道からもそれは窺い知れる。

「ハイミス」「行き遅れ」「婚期を逸した女」。特にハイミスの使用度は驚くほど高い。「女性の犯罪はハイミスが多い」「ハイミスの欲求不満」――。

 伊藤の義兄も雑誌の取材に応え、こんなコメントを残している。

「婚期が遅れた女性のあさはかさをつくづく感じました」「女の虚栄心から、結局は抜き差しならなぬ犯罪の泥沼に落ち込んでしまった」。

 法廷での論告求刑でも然り。「婚期を逸し平凡な生活に嫌気がさし、マンネリからくる職場に対する不満があった」。

 これが当時の30歳を過ぎた未婚女性を取り巻く世情である。昭和57年7月27日、伊藤素子は懲役2年6月の判決を言い渡された。一方主犯とされた南は懲役5年というものだった。

 2年後の昭和59年8月、伊藤は模範囚として仮出所し、1990年には事件のことを承知しているというサラリーマンと結婚したという。

「犯罪の影に男あり」

 当時この事件を語る際に必ず使われた文言だ。あれから30年以上がたつ。当時の伊藤と同様の“ハイミス”(未婚女性)は、現在35%以上。ハイミスという言葉も死語になって久しい。また犯罪構造も変化していった。特に詐欺や横領事件において、女に貢ぐために男が犯罪に走るという逆転現象が起こっている。アニータを巡る14億5,000万円巨額横領事件、キャバ嬢に貢ぐため6億円を横領した男――。「犯罪の影に女性あり」だ。こうして伊藤の詐欺事件を振り返れば、時代の変遷を感じられずにはいられない。

 伊藤の手記『愛の罪をつぐないます』(二見書房)にこんな記述があった。

<私は、川を流れる枝木でした><うねりの中に巻き込まれ、流れていったのです><私は、意志も感情もない、薄汚れた人形のようになって、流されていったのです>

(取材・文/神林広恵)

現代では出産という呪縛に変わりました

しぃちゃん



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