『女ぎらい』刊行記念インタビュー(前編)

「環境が整ったなんて希望的観測」上野千鶴子が女性の社会進出の実態を暴く

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『女ぎらい―ニッポンのミソジニー』
(紀伊國屋書店)

 数度の改正を経た男女雇用機会均等法により、育児休暇など雇用者の権利が確保され、法律上は女性にとって働きやすい社会に近づいたと言われている。しかし、不況における将来への漠然とした不安が”婚活”ブーム、「母になる」ことこそ女性の幸せだとする「ママ崇拝」まで引き起こしている。かつてフェミニズムは、女性をそうした「家庭」の中に閉じ込める社会を弾糾し、真の男女平等を訴えた。揺り戻しとも取れる現代の風潮に、フェミニズムは何を寄与するのだろうか。日本のフェミニズムを長きにわたり牽引する上野千鶴子氏を直撃取材。データから社会を分析する社会学者である氏に、アラサー女性として肌で感じる問題点をぶつけてきた。

――上野さんの近著『女ぎらい―ニッポンのミソジニー』(紀伊國屋書店)を興味深く拝読しました。上野さんがおっしゃるミソジニーという感覚は、サイゾーウーマンをはじめ、女性をターゲットにする媒体が避けては通れない課題だと痛感しました。

上野千鶴子氏(以下、上野) ミソジニーとは「女性嫌悪」「女性嫌い」とも訳されます。でもそれよりしっくり来るのは「女性蔑視」でしょうか。男にとっては「女性蔑視」だけど、女にとっては「自己嫌悪」ですね。女の人生は男性目線で評価され、自分の価値を自分の物差しで計ることさえできない。そういう、自分でコントロールできない状況に立ち向かうのは大変だから、メディアが提供する情報に安住したい気持ちになるのではないですか。

――そして最近、女性のミソジニーが「自己嫌悪」から「女性嫌い」へと変化していると思うのです。フェミニズムのように女同士が連帯できない。女自身が自らを細かくカテゴリー分けして反目し合っているように思います。

上野 あら、私だって女性に嫌われ、無視されてきたのよ。あなたたちだって、「うるさいオバさん」って思って取材にきたんでしょ? 昔から女の足を引っ張るのは女、と言われてきました。ただ、今はその足の引っ張り合いが複線化してきたんじゃないかしら。かつては女の評価軸が単線だった。ちょっと古すぎる例えかもしれないけど、その昔、女学校には「卒業顔」っていう言葉があったんです。女学校って3年間あるんだけど、卒業まで誰にも選ばれずに中退しなかった女性を称して「卒業顔」。

――なんて直接的な表現……。

上野 キレイな娘は女学生時代に目をつけられて売れていく。女は経済力のある男に選ばれることで評価が決まる時代だったから。今は林真理子さんや勝間和代さんみたいに、自力でリッチになる女性のモデルが出てきて、結婚だけが幸せじゃないということが分かってきたでしょう。でも評価軸が増えた分、それが錯綜しているんでしょうね。

――それが同性への攻撃性を強めているのですか?

上野 あの人は仕事ではサクセスしたけれど、結婚には失敗したとか。現代では、少なくとも女は「仕事」と「結婚」という二つの軸でサクセスすることを求められている。それは私たちの時代にはなかったことです。失礼ですが、あなたはおひとりさま?

――結婚して、子どもが一人います。

上野 仕事中の子どもの面倒は誰がみているの?

――保育園と、実家の親にみてもらっています。

上野 それはラッキーね。でも、そこまでしてもらった親を、今度は施設なんかに入れられないですよ。

――母は先生が『女ぎらい』で書かれている、「お母さんが子どもの面倒をみるから、あなたは外で仕事をしなさい」と言うタイプですね。

上野 あなたはお母さんの「作品」なのね。でもあなた、出来高払いで雇用保障がないフリーライターでしょ。年金だって払うの大変じゃない? 相当稼ぎのいい夫をゲットしたの?(笑)

――なんとか生活してます。でも子どもを抱えて仕事をするのは、やはり大変です。産後の復職や、最近では「イクメン」などに代表される男性の育児参加など、以前に比べたら育児の環境は整ったと言われているのに、なぜでしょうか。

上野 社会学者はデータをもとに論じるのが仕事。「育児環境が整った」なんて希望的観測に過ぎません。出産後の離職率は7割。産後もフルタイムで仕事を続ける女性の割合は30年ほぼ横ばい。その理由は、女性の雇用スタイルが正規職から非正規職へと変わったことで、育休が取れなくなったから。だから辞めざるを得ない。それから夫の家事協力も30年間ほとんど変わっていません。諸外国と比べると非常に少ない。要するに、日本の女はパフォーマンスが高くて、夫の不機嫌な顔を見るくらいなら家事も育児も自分でやってしまう。そういう不満が積もり積もって爆発した女が離婚する。データはそう言ってます。

――女性が社会進出を果たし、産後も仕事が出来るようになったというのは、幻想なのですか?

上野 それもデータで反証しましょう。女性の社会進出の実態は、男女雇用機会均等法が成立した85年頃までは中高年女性によるパート労働者の増加でした。若い女は相変わらず結婚前の腰掛けで、出産後退職していくパターンです。結婚前の一時就労はスタンダードになって、家事手伝いが激減しただけ。それにより、収入は多くはないけど、実家暮らしで高い可処分所得を持つ女性が増えた。晩婚化もこれに拍車をかけました。均等法以降は一握りの総合職女性の陰で、一般職と呼ばれる女性たちの働く場が崩壊し、これが派遣労働へと流れ込んでいく。女性の労働力参加はたしかに増えたけど、とても割の悪い働き方ばかりです。たしかに一部の女性は育休をとることもできるようになったけれど、それも雇用保障のある正規労働者だけ。その数はどんどん減っています。
(文=西澤千央、後編へ続く)

『女ぎらい――ニッポンのミソジニー』

ミソジニー。男にとっては「女性嫌悪」、女にとっては「自己嫌悪」。「皇室」から「婚活」「負け犬」「DV」「モテ」「少年愛」「自傷」「援交」「東電OL」「秋葉原事件」まで……上野千鶴子が男社会の宿痾を衝く。

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