[連載]マンガ・日本メイ作劇場第14回

輪廻転生という萌え要素を回収できなかった、メイ作『天よりも星よりも』

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『天よりも星よりも』1巻(赤石
路代、小学館)

――西暦を確認したくなるほど時代錯誤なセリフ、常識というハードルを優雅に飛び越えた設定、凡人を置いてきぼりにするトリッキーなストーリー展開。少女マンガ史に燦然と輝く「迷」作を、紐解いていきます。

 たぶん現実では叶えられないけど、実現したらいいなという夢ってなんだろう。それは「超能力者になる」じゃないだろうか。恐らく誰でも1度は、「なれたらいいな」と考えたことがあるはずだ。しかしどんなに金を積んでも叶えられないのがこの願い。バブル期、金さえ出せばたいていのものは手に入ると思われていたこの時代に、少女マンガでめっぽう多かったのが超能力者の話だ。

 一方で、やっぱり金を出しても手に入らないけど、ちょっと天から電波が降り注いでくれば叶えられる夢がある。「私は××の生まれ変わりだったのよ!」というやつだ。「実は生まれ変わりでした」という話は、結構少女マンガに多い。たいていの場合は「2人はくっつくべきなのよ」「だって過去にも愛し合ってたからさ」という、「運命」を根拠づけるための道具になるわけだが。

 この、超能力+生まれ変わりネタっていうのが、また少女マンガによくあるんだが(『ときめきトゥナイト』/池野恋、集英社とか『ぼくの地球を守って』/日渡早紀、白泉社とか)、その中で群を抜いてメイ作なのが、この『天よりも星よりも』(赤石路代、小学館)である。

 主人公・美緒は、水を自由に操ることができる超能力者である。そして彼女を追いかけ回すのが忠臣くん。彼は火をコントロールでき、同じ超常的能力を持つ美緒が欲しくてたまらない。邪魔する者を次々と焼き殺してしまう冷血漢である。

 しかし美緒には、気になる男子がいる。このあたりからメイ作の匂いがぷんぷんしてくるので要注意である。なんと彼は、高身長の体育会系のクセして、普段は女装をして学校に通っているのだ。誰も怪しいと思わないんだろうか。しかもハンググライダーで登校とかしちゃう目立ちたがり屋である。なぜ誰にも目撃されないんだろうか。

 そしてある日を境に彼は、染めていた髪を切り、地毛の色に戻しただけで、「颯」という名の男として学校へ登場する。なぜクラスメートは誰ひとり彼の正体に気付かないのだろうか。みんなえらい薄情だな。

 さて、美緒がそんなハンググライダー好きの不思議女装男と恋仲になっていると、当然気に入らないのは忠臣くんだ。突然彼は、起死回生の一発、「俺は織田信長の生まれ変わりだ」とか言い出すのである。ええっ!?

 確か最初は、「なんの因果か、わけのわからない力を持って生まれた仲間」だから美緒が欲しい、と言っていたはずだが……。忠臣くんの「信長生まれ変わり作戦」が登場すると、今度は「美緒も実は誰かの生まれ変わりらしい」みたいな話になる。この辺の展開は、かなり突き抜けていて読者を置いてきぼりである。

 結果的には、美緒と颯までも日本史上の超有名人の生まれ変わりだということが分かり、2人は運命で固く結ばれていたことが発覚するのだ。それが誰なのかは、マンガを読んでのお楽しみだけど、まーイメージ的にはかなりのイケメンと美女である。

 そうなると分からないのは、織田信長とのつながりである。美緒と颯が生まれ変わりによって強く惹かれ合っているのだとしたら、なぜ忠臣は美緒を追いかけ回すのか。ちなみに美緒と颯の前世は、信長とは時代も土地もかすりもしない人たちなのである。

 ラストは街ひとつ焼け落ちるほどの大火事の中、美緒が「私たちはこんな平和な時代に生まれて」とかあさってなことを言いながら、地震や津波をくぐり抜けて「天よりも星よりも君が好き」みたいな壮大なポエム(これもかなり唐突)をうたって終わる。読み終わって思うのは、「一体何だったんだろう?」ということだ。

 なぜ、信長の生まれ変わりというのなら、そこに全部照準を合わせなかったのか。乙女萌えのテーマである超能力や歴史ファンタジー、生まれ変わりネタを使っているにもかかわらず、全体を覆うこの不統一感が、惜しみなくこの作品をメイ作に押し上げているのである。

■メイ作判定
迷作:名作=7:3

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和久井香菜子(わくい・かなこ)
ライター・イラストレーター。女性向けのコラムやエッセイを得意とする一方で、ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、就職系やテニス雑誌、ビジネス本まで、幅広いジャンルで活躍中。 『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。

『天よりも星よりも 』

人がいっぱい死ぬ、結構びっくりなお話でした

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