『狂人失格』刊行記念 中村うさぎインタビュー(前編)

「これまででいちばん醜悪な作品」中村うさぎが語る女の自意識とは 

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 買物依存症、ホストクラブ通い、整形手術、デリヘル嬢になったかと思えばSMの女王に――。自らを暴き立てるかのように書き続けてきた中村うさぎが、はじめて他者との関わりを書いた私小説『狂人失格』(太田出版)。

 「京大のマドンナ」を自称し、臆面もなく「私は作家」と言い張っては、ネット上でツッコまれまくっている”電波系”ネガティヴ・アイドル、優花ひらり。彼女に「共著で本を出しませんか?」と、著者が持ちかけたのを発端にして巻き起こった一大騒動。その騒動の渦中で著書が見たのは、自意識にがんじがらめになった、女たちの鏡地獄だった。嫉妬、羨望、コンプレックス、自己顕示欲ーー女性特有の自意識とは? 著者・中村うさぎに訊いた。

中村うさぎ(以下、中村) これまででいちばん醜悪な作品だと思う。書かれてある私自身も優花ひらりも、その経緯も、すべてね。私はさんざん自分のキタナイところを排泄物みたいに出しては見せてきたけど、大切な友だちを失うかもって危惧したのはこの本が初めて。

――優花ひらりという他人を利用したという意識があるからですか?

中村 そうだね。ネット上で笑い者になってる優花さんにちょっかいを出して、本物の作家にしようとしたわけだから。それともう一人、ある女流作家への私のコンプレックスや憎しみが溢れてる。その人にどう思われようと構わないけど、私のことを好きでいてくれる友だちがこれを読んだらね、嫌われるだろうな。

――そこまでの恐れを感じながら、優花ひらりとの出来事を書くことにためらいはありませんでしたか?

中村 いつかオトシマエをつけなきゃって思ってた。そもそも私が一体どういうつもりで優花さんにちょっかいを出したのか、だいたい誤解されてたし、私も説明しなかった。ちゃんと書ける自信もなかった。だけど隠してるって思われるのも嫌だし、私としては書かないまま墓場にもってっちゃいけない問題だったから、リスクは大きいけど書かせてもらった。優花さんにも女流作家にも、自分に対しても、自分の中で折り合いをつけるのにすごく時間がかかったね。

――中村さん、優花さん、女流作家の三人とも自己顕示欲が強いところが共通してますよね?

中村 そうね。だけど優花さんのように、自己顕示欲がありながら、あんなに自意識のない人もいないんだよ。私に似た人なのかと思って近づいたら、自己投影不能だった。その結果がこの本。こう言っちゃ失礼だけど、そこが彼女の「狂人」たる所以なんだよ。
 それと、女流作家と私が似てるのは「自分嫌い」。自分の凡庸さを憎むあまりに、どこからがネタでどこからが本音かわからないような奇矯な言動を繰り返す。そこで近親憎悪が発動するんだよね。彼女が欲しがってる文壇的な権威を私は軽蔑してるんだけど、でも一方で、彼女がそれを手にすることに嫉妬してる。私はそれを欲しくないけど、他人がそれをもつのが憎い、みたいなね。自分の嫌なところを投影してる女がまんまと何者かになっていくのが憎いんだろうね。

――そういった嫉妬や足の引っぱり合いには女性特有の自意識が関係あると思いますか?

中村 あると思う。けど足の引っぱり合いは男性もするよね。ホリエモンが栄華を極めたあとに犯罪者になっちゃったでしょう。あのときのマスコミの喜びようを見たら、男は足の引っぱり合いが大好きなんだって思った。女にも上昇への羨望はもちろんあるけど、でも男の社会と女の社会はちがう。
 男の社会って自虐が通用しないじゃない? 「俺なんてこんなにバカですよ」って言ったら額面どおりに受け取られて、いじめられたり軽く見られたりする。むしろ「いやぁ、困っちゃったよ」なんて言いながら「モテてモテて困る」とか「どんどん金が入ってきて困る」とか、小自慢でマウンティングし合ってるのが男の社会。女でそれをやると、たちまち総スカン喰うよね。女の世界では自虐する者こそ王になる。生き抜いていけるんだよ。そのちがいは何なんだろうね。
 私と女流作家の関係はまさに女独特だって気がする。彼女は自虐もするけど、根底に自慢が流れてるのが嫌なんだろうね。

――うさぎさんが、これまでやってきたことは自虐の最たるものにも見えるんですが、根底に自慢の感情があると思いますか?

中村 私の買い物依存とかホストクラブ通いとかって、まったく自慢にならないよ。たしかにブランド物を持ってるときは、周囲に対して「私はシャネルを着てます!」っていう自慢がある。だけど借金して買ってることを晒した時点で自慢にならない。だって借金してまでブランド物を買う根性たるや、ものすごく卑しいじゃないですか。私はそういう人をバカだなと思うしさ。ホストに騙されたことにいたっては、はっきり言って人生の汚点です。だけど、そこに横たわる私の上昇志向なりコンプレックスなり、「愛されたい」欲望なりは、書いとかなきゃまずいって思うんだよね。本当は隠すことだってできるし、「ホストに愛された」って書き換えることもできる。隠してれば自慢になりうるのに、言ってしまうから自慢にならない。それが私の自虐なんだろうね。

――隠すのは醜いことですか?

中村 隠してるほうが賢いとは思うし、「嘘はバレなきゃ嘘にならない」って理屈も世の中にはある。でも「嘘つきは泥棒のはじまり」って言ってさ、嘘は、私にとって罪だから。それは美学じゃなくて、好き嫌いや羞恥の問題でもなくてさ。善悪の問題なんだよ。私は自分の中の倫理に背くことはできない。
 優花さんについて好きなのは、彼女は嘘がつけない人なんだよね。勘違いはしてるけど嘘はつかない。そこに関しては、私は優花さんを尊敬してる。

後編につづく

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『狂人失格』(太田出版)/中村うさぎ
作家志望の電波系ネットアイドル、優花ひらりとの接触から始まった事件。中村うさぎが画策したのは文壇への復讐か、優花ひらりの代理殺人か、それとも自分殺しだったのか。自意識にがんじがらめになった、女たちの鏡地獄が見えてくる。私小説の新境地。

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