納得の顔ぶれ

現役のプロが選ぶ、演技がウマいジブリ声優4人は? 『千と千尋』の夏木マリは「素晴らしかった」

2024/01/15 12:10
勅使河原みなみ(ライター)
写真ACより

 1月5日、日本テレビ系の「金曜ロードショー」枠で、2001年公開のスタジオジブリ作品『千と千尋の神隠し』が放送枠を40分拡大し、ノーカットでオンエア。ジブリ映画の中では歴代最高となる316.8億円(興行通信社、以下同)を記録し、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の404.3億円に次いで、歴代興行収入ランキングで2位に君臨している大ヒット作だけに、これまで何度もテレビ放送され、今回で11回目となった。

 オンエア中、SNS上は映画制作の裏側や物語に関連した雑学などが飛び交い、大盛り上がり。ジブリファンやアニメファンがさまざまな観点から作品の魅力を紹介していた。そんな中、出演声優たちに注目し、当時のアフレコ映像を振り返りつつ、その演技力を称賛する声もあった。

 ジブリ映画には、俳優や有名人など、本職以外の人も声優として参加しているが、その中で、特に演技力を評価されているのは一体誰なのか――。プロの現役声優数名に話を聞き、多く名前が挙がった4名を紹介する。

『千と千尋の神隠し』湯婆婆/銭婆役・夏木マリ

 まず1人目は、前述の『千と千尋の神隠し』で湯婆婆/銭婆役を演じた夏木マリ。主人公・千尋(柊瑠美)が働く湯屋「油屋」の主で強欲な魔女・湯婆婆と、その双子の姉で心穏やかで思慮深い銭婆の一人二役を担当した。

「俳優は、声や表情、体の動きなど、全身で芝居を完成させますが、声優の芝居は『声』のみで全てを表現しなければならないため、俳優が声優としての演技をすると、どうしても『薄く』なってしまいがち。我々が、俳優の声優挑戦に違和感を抱く最大の理由は、彼ら・彼女らが、声だけで100%の演技をすることに慣れていないため、表現力が乏しくなってしまうからなんです」(現役声優A)

 しかし、夏木の演技は「素晴らしかった」とA氏。

「声優としての奥行きのある芝居はもちろんですし、キャラクターごとに少々声を作って演じ分けていました。声を変えて演技をするのは、本職の声優以外にとっては難しいはず。しかし、夏木は何の違和感もなく湯婆婆と銭婆というキャラクターを作り上げていました」(同)

『もののけ姫』ジコ坊役・小林薫

 続いて名前が挙がったのは、1997年公開の『もののけ姫』でジコ坊を演じた小林薫。帝からの勅命でシシ神の首を狙う組織「唐傘連」のリーダー格であり、主人公・アシタカ(松田洋治)やヒロイン・サン(石田ゆり子)と敵対する役どころだ。

「夏木と同じ理由で、小林薫のジコ坊も素晴らしかった。丹精な顔立ちの小林とは似ても似つかぬ風貌のジコ坊というキャラクターを、不気味かつコミカルに作り上げていました。ほかにも『もののけ姫』に出演していた俳優は、モロ役の美輪明宏やエボシ役の田中裕子など、声の演技が上手な方が多かった印象です」(同)

『千と千尋の神隠し』青蛙役、『ハウルの動く城』カルシファー役・我修院達也

 『千と千尋の神隠し』で「油屋」の従業員・青蛙役や、木村拓哉の声優デビュー作としても話題を呼んだ『ハウルの動く城』(04年)で、木村演じるハウルと一心同体の火の悪魔・カルシファーを演じた我修院達也にも、高評価が集まった。

「カルシファーも良かったですが、『千と千尋の神隠し』の青蛙役は、生意気でキュートな青蛙の魅力を引き出していて非常にうまかった。声優としての芝居に彼の声はぴったりハマるし、本格的に声優仕事をしてもいいのでは? と感じるほど、非常に質の高い芝居をします」(現役声優B)

『千と千尋の神隠し』坊役、『ハウルの動く城』マルクル役・神木隆之介

 最後に名前が挙がったのは、俳優業のほか、今や声優としても大活躍中の神木隆之介。8歳という若さで『千と千尋の神隠し』の坊役を好演し声優デビューを飾った彼は、以降も『ハウルの動く城』のマルクル、『借りぐらしのアリエッティ』(10年)の翔と、ジブリ作品にたびたび出演しているが、「『ハウルの動く城』までの演技がとても良かった」(現役声優C)という。

「子役として、自由に伸び伸びと楽しみながら演じていたように思いますし、またその芝居がそれぞれのキャラクターにぴったり合っていました。『借りぐらしのアリエッティ』出演当時は17歳と、それなりに年を重ねていたため、おそらく『どのように演技すればいいだろう』と頭で考えるようになり、声優の演技を勉強する“過程”の演技だったという印象が強い。ただ、ジブリ作品ではありませんが、上白石萌音とダブル主演した新海誠監督の『君の名は。』(16年)は、声優としての芝居を自分のものにしていましたし、とても上手になったと思います」(同)

 なお、『借りぐらしのアリエッティ』は、「主人公・アリエッティ役の志田未来の演技が抜群に良かった」(同)とのこと。

「俳優が失敗しがちな声の芝居といえば、“距離感の取り方”。彼女はそれが絶妙で、勘の良い方だなという印象でした。また、演技のウマい・ヘタ云々を超越した家政婦、ハル役の故・樹木希林さんは、抜群の存在感で役を自分のものにしていて素晴らしかった。俳優やタレントさんにああいう芝居を見せられると、本職の私たちもとても勉強になります」(同)

 今回名前が挙がった俳優たちのように、プロから高い評価を得る“芸能人声優”は現れるのか、今後も注視していきたいところだ。



勅使河原みなみ(ライター)

独自に集めた情報をもとに、声優に関する記事を執筆しているライター。好きな食べ物は浸し豆。

最終更新:2024/01/15 12:10
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