コラム
私は元闇金おばさん

不動産転売のホスト風青年に踊らされた女――闇金社員が見た、その悲劇的末路

2023/12/19 16:00
るり子(ライター)
写真ACより

 こんにちは。元闇金事務員、自称「元闇金おばさん」のるり子です。

 昨今、株式相場と国内不動産価格の上昇が著しく、バブル期のことを思い出す機会が増えました。当時、私が勤めていた貸金業者の従業員やお客さんも、株式や絵画、不動産、ゴルフ会員権など、自分の好みに合わせた投資に励んでいたのです。

 なかには、当社で借りた高利資金を頭金にワンルームマンションを仕入れて、まもなく転売して利益を図る人たち(ブローカー)もいました。他人のふんどしで、いかに楽をして金を稼ぐか。当時のお客さんは、そんな人たちばかりで、みんなが詐欺師に見えたものです。今回は、バブル期に起業し、まもなく夜逃げした青年社長についてお話ししたいと思います。

お坊ちゃま社員「スピー君」の初仕事

「設立からまもない不動産屋なんですけど、社長の人柄もいいですし、いい保証人が出てきたので検討していただけないでしょうか」

 あれは、時代が平成に入って、まもなくのことでした。入社から3カ月ほど経過しても、いまだ新規契約の取れていなかった新入社員の大橋さんが、ようやくアポの取れた不動産業者から申し込みが入ったと伊東部長に相談しています。

 北関東にある某金融会社(高利)社長の、ひとり息子だという大橋さんは、当時26歳。厳しい取り立てをすることで評判の金田社長のところで修業をすれば立派な跡取りになれると、父親の紹介で入社したお坊ちゃん社員です。

 大学まで伝統派空手の有力選手だったそうで、とても大きな体をしていますが、常にボケっとしているため、まるで強そうに見えません。北関東から片道2時間かけて通勤してこられる上、持病に蓄膿症を抱えておられたこともあって、いつも眠たそうにしているのです。

 実際、テレアポ中に受話器を持ったまま「スピー、スピー」と笛の音に似た鼻鼾をかいて居眠りしてしまう毎日で、いじわるな藤原さんから「スピー」というあだ名まで付けられていました。

「キミは稼ぎがない上に、交通費も高いから、そろそろ利益を出さないといけないよな」
「はい、申し訳ございません」
「立派な跡取りになるんだろう? 受話器片手に居眠りしている時間はないぞ」
「はい、申し訳ございません。以後、気をつけます」

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