[女性誌レビュー]「婦人公論」2023年8月号

なぜ楳図かずおは“年を取らない”のか? ホラーな食生活を「婦人公論」で明かす

2023/08/06 16:00
島本有紀子(ライター)
「婦人公論」2023年8月号(中央公論新社)の表紙画像
婦人公論」(中央公論新社)2023年8月号

 「婦人公論」8月号(中央公論新社)が発売中です。今月号の特集は「小さな『初めて』が毎日を楽しく変える」。仕事や子育てが一段落してくる読者世代に、「年齢やお金を理由にやりたいことをあきらめていませんか?」と問いかけています。

 同誌いわく、新しい体験による刺激は「脳を活性化し若々しさの源にもなる」のだそう。恋に仕事にパワフルな中高年がたくさん登場する今号の中身、さっそく中身を見ていきましょう!

<トピックス>
◎林真理子×湯川れい子 女性は三兎も四兎も追える
◎ルポ 平凡な日常に恋が彩りを添えて
◎楳図かずお×酒井順子 新しい作品を生み出す原動力は

中高年の藤井風、大谷翔平人気を思い知る

 巻頭では、数々の「初めの一歩」を積み重ねてきた女性代表として、音楽評論家・作詞家の湯川れい子氏(87歳)と、作家の林真理子氏(69歳)が対談しています。バブル期のエネルギーをまだ蓄えているかのような、パワフルな2人。湯川氏は60歳を超えてから、子育て・介護・看取りを終え、離婚もし、持病も完治したといい、「60を過ぎてからが一番自由」「女性は人生後半、二兎、三兎、四兎でも追える」と読者を鼓舞しています。

 中でも一番楽しいのは「“推し”の追っかけ」だそうで、そのお相手はシンガーソングライターの「藤井風さん」。藤井風、中高年女性からの支持も厚く、同誌の読者アンケートでもよく名前が挙がっている印象です。「ミーハーは女の底力ですね」と言う湯川氏に、林氏は「じゃあ、『大谷翔平さん素敵』と思い続けていたらいつか会えるかしら」と夢を膨らませています。そういえば前々号でも、うつみ宮土理が「翔平くんの汗になりたい」と語っていました。藤井&大谷は、「女の底力」をも支える大変な存在であるのだなと思いました。

妻子ある74歳ジゴロに片思いする72歳が心配

 続いて見ていきたいのは、ルポ「平凡な日常に恋が彩りを添えて」。小学校の同窓会で再会した男性と再婚した61歳、妻子ある74歳男性に片思いする72歳、ピースボートの船旅で8歳年下の男性と出会って事実婚した88歳と、3パターンの老いらくの恋体験談が紹介されています。

 中でも気になったのが、妻子ある74歳に惹かれる72歳パート勤務のミハルさんです。ミハルさんは夫、両親が次々と他界して孤独を感じていたとき、地元の小学校主催の「昔の遊び教室」で講師をすることに。そこでお手玉担当となったミハルさん、竹とんぼ担当の74歳サトシさんが子どもたちと無邪気に遊び回るのを見て「一種の一目惚れ」をしてしまいます。

 後日、スーパーの魚売り場で偶然再会。サトシさんから「ねぇ、めざしはないかな?」「刺身は何が好き?」などと話しかけられ、「仔犬と出会った瞬間みたいに、胸がキュンとなりました」と彼にハマっていきます。その後は流れでスーパーの休憩コーナーへ。そこでサトシさんは、自販機のコーヒーをおごってくれたそうです。

 これは恋の始まりか――!? と思いきや、話すうちにサトシさんは妻・息子夫婦・孫と同居していると知ります。ミハルさんは「心の中で『片思いだけは許してください!』とお願いしつつ、メールアドレスを教えてもらった」そう。それ以来、3日に1通と決めてメールしており、「あなたは素敵な女性です。僕が独身なら放っておきません(笑)」と書かれたメールは大事に保存。2、3週間に1度お茶する仲を保っているそうです。

 しかし、無邪気に小学生と遊び、鮮魚売り場でのトークと自販機のコーヒー1つだけで女性を虜にし、思わせぶりなメールで喜ばせるサトシ74歳、なかなかのジゴロでは。ミハルさん的女性を数人抱え、妻と息子夫婦もあきれていたりして……。ミハルさん、どうか一線を越えないように! 自分を大切に! と呼びかけたくなりましたが、恋で人生が豊かになっているのなら余計なお世話なのかもしれません。

楳図かずおは“不老不死”? 86歳の意外な食生活

 最後に見ていくのは、エッセイスト・酒井順子氏が漫画家・楳図かずお氏にインタビューする「新しい作品を生み出す原動力とは」です。

 昨年、27年ぶりの新作を発表した86歳の楳図氏、「梅雨時は、髪の毛がピンパラピンパラヘナヘナしちゃって」と言っていますが、おなじみのボーダーTシャツを着て、表情も明るい。十数年前の「まことちゃんハウス騒動」でワイドショーを騒がせたころから年を取っていないように見え、もしや不老不死なのでは? とも思わせます。

 そんな楳図氏、若さの秘訣については「働いてください! あとは体を動かしたり、食事に気をつけたりはしたほうがいいね」と意外にもまともな答え。「自然食品を選んだり、たんぱく質をちゃんと摂るようにしていますね」と食生活にも気を使っているようです。

 一方で、「同じ食材を1週間のうちに2回は食べない」と独自のルールも定めているそう。理由は「食べるということは、弱い生き物たちの命をいただいているということ。そういうことをしたら、復讐を受けるだろうと思っているからです。まあ、1週間食べなければ呪いも解けるかな、と」。一気にホラー味が出てきました。

 しかし、そのルールが結果的に多くの食材をまんべんなく摂ることにつながり、妖怪的な活力を支えているのかも? 食生活を整えることの大切さを楳図氏に教えられる日が来るとは……妙な感慨のある記事でした。



島本有紀子(ライター)

島本有紀子(ライター)

女性ファッション誌ウォッチャー。ファッションページから読み物ページまでチェックし、その女性誌の特性や読者像を想像するのが趣味。サイゾーウーマンでは、「ar」(主婦と生活社)と「Domani」(小学館)レビューを担当していた。

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最終更新:2023/08/06 16:00
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