[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

Netflix『梨泰院クラス』理解を深める3つの知識! 「梨泰院・財閥・クラス」の社会的背景とは?

2022/07/15 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

『梨泰院クラス』というタイトルが“皮肉”に聞こえるワケ

 『梨泰院クラス』というタイトルは、セロイを中心に仲間たちが夢をかなえていく和気あいあいとしたイメージを喚起するかもしれないが、ドラマでの発音を聞くと、それは「学校」の「class=클래스(クレス)」ではなく、「階級」という意味の「class=클라쓰(クラス)」を指している。この「클라쓰(クラス)」こそ、「俺はお前とはクラスが違う」といった具合に、相手を見下すニュアンスを含んだカプチルの表現なのだ。その根底には、少しでも相手の上に立とうとする韓国ならではの儒教的な階級意識が潜んでいるのは言うまでもない。

 そう考えると、長家より上の「クラス」を目指すセロイも、学歴を持たない梨泰院クラスの仲間たちの下克上成功物語に熱狂する視聴者も、結局は上昇志向と階級意識から逃れられていないではないかと、つい意地悪な見方をしたくなってしまう。「梨泰院」という「差別のない自由な」街を意図したはずの場所が、成功や金持ちの代名詞としての意味を拡大させているのも皮肉に聞こえてくる。

 さらには、誰よりも優秀で頭がさえ、あらゆる意味で時代の最先端を走る女性として描かれるイソが、セロイに対しては「すべてを捧げる」「夢をかなえてあげる」と繰り返す様子は、古典小説『春香伝』で両班(朝鮮時代の貴族)のために命懸けで尽くす春香(チュニャン)の姿がオーバーラップしてしまい、「何も新しくないじゃないか」と文句を言いたくなる。人々をとりこにする物語は、最終的には保守的な思考を持ってしまう……というのは、深読みしすぎだろうか。

 いずれにしても、『梨泰院クラス』は国境を超えて数え切れない人々の生活を彩り、コロナ禍の暗い気持ちに寄り添ってくれた。いくらオリジナルが人気だからといって、そのリメークが必ずしも支持されるとは限らないし、作り手にとってはむしろ困難さを伴うだろう。歴史も社会的背景も異なる日本で、『六本木クラス』は果たしてどのように受容されるのか、今後の展開を楽しみに見守りたい。

崔盛旭(チェ・ソンウク)
1969年韓国生まれ。映画研究者。明治学院大学大学院で芸術学(映画専攻)博士号取得。著書に『今井正 戦時と戦後のあいだ』(クレイン)、共著に『韓国映画で学ぶ韓国社会と歴史』(キネマ旬報社)、『日本映画は生きている 第4巻 スクリーンのなかの他者』(岩波書店)など。韓国映画の魅力を、文化や社会的背景を交えながら伝える仕事に取り組んでいる。

最終更新:2022/07/15 19:05
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