芸能
[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

韓国映画『バッカス・レディ』4つのセリフが示す、韓国現代史の負の側面を背負う高齢売春婦の悲しすぎる人生

2022/02/25 21:15
崔盛旭(チェ・ソンウク)

 脳梗塞で倒れて体が思い通りにならないから殺してくれだと? 物忘れがひどくなったから死にたいだと? 妻が先立って寂しいからあの世に行きたいだと? ふざけるな! 私の人生に比べれば、おまえたちはどれほど幸せな人生を送ってきたことか。わかるか? おまえたちにはわからないだろう。こんなことくらいで死にたいだの、殺してくれだの、あきれて物が言えないよ。どこまでもバカな男たち、だったらいくらでも殺してやろうじゃないか。

 心優しいミスクだが、その奥には、こんな無意識が渦巻いていたのではないだろうか。韓国現代史の陰で常に犠牲を強いられてきたミスクには、男たちの死への願望は、「贅沢な甘え」としか映らなかったに違いない。

 ちなみに、90年代後半、戦時中に日本の従軍慰安婦だった女性が初めて名乗りを上げて以来、韓国にとって「慰安婦」は日本との歴史問題にとって極めて重要な存在となり、神聖化されることになる。そして、韓国がアメリカのために法を犯してまで用意した「米軍慰安婦」はあらゆる意味で邪魔とされ、その名は抹殺された(※)。ミスクのような存在は、最後までお国の都合でもてあそばれたのだ。

※2010年代に「基地村浄化運動」に関する資料が公開され、歴史に埋もれてきた問題として浮上した。また、14年に元慰安婦たちが国家賠償訴訟を起こし、2審では初めて国家の責任を認める判決が出た。しかし、現在も最高裁で係争中。その後、元慰安婦たちの名誉回復と生活支援の救済法が発議されたが、進展がない。

崔盛旭(チェ・ソンウク)
1969年韓国生まれ。映画研究者。明治学院大学大学院で芸術学(映画専攻)博士号取得。著書に『今井正 戦時と戦後のあいだ』(クレイン)、共著に『韓国映画で学ぶ韓国社会と歴史』(キネマ旬報社)、『日本映画は生きている 第4巻 スクリーンのなかの他者』(岩波書店)など。韓国映画の魅力を、文化や社会的背景を交えながら伝える仕事に取り組んでいる。

最終更新:2022/02/25 21:15
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