コラム
老いゆく親と、どう向き合う?

「わが母ながら立派」と思っていたが……同居する弟夫婦は「他人以下」、父の介護に一人で取り組む心情は聞くに聞けない

2021/09/12 18:00
坂口鈴香(ライター)

 さらに、江口さんを悩ませているのが両親と同居している弟夫婦との関係だ。父親の言動や母親の行動が同居している弟夫婦に知れたら、より関係がこじれてしまのではないかと危惧する。

「母が父のためにがんばらざるを得ないのも、弟夫婦が両親のことをまったく顧みないからです。農家だから日中は忙しいというのもありますが、そうでなくても両親とはほとんど接触がありません。ただ一緒に住んでいるというだけで、両親が事故に遭っていても、家で倒れていても気づかないんじゃないかと思うくらい。こうなるともう他人以下ですよね」

 母親と電話で話せるのも、弟夫婦がいない昼間だけだ。夜は弟家族に気を遣って、電話をすることさえままならないという。

「何のための同居なんでしょうね。そういう私だって遠くにいて何もしてやれない。心配することしかできなくて、もどかしいです」

 知性派の母親の趣味は短歌だ。地元の新聞に投稿しては、掲載されたと江口さんにコピーを送ってきてくれる。

「その短歌がまた切ないんです。年を取ることの悲しさや、認知症が進む父のことが切々と詠まれていて、つらくなります。母が運転していることがわかる歌もあるので、批判されるんじゃないかとヒヤヒヤすることもあります。こんなご時世ですからね」

 心情が吐露された短歌を娘に見せて、どうしてほしいと思っているのか、江口さんは母親の真意をはかりかねている。聞きたいけれども怖くもある。聞くに聞けないと苦笑した。

坂口鈴香(ライター)

終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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最終更新:2021/09/12 18:00
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