高橋ユキ【悪女の履歴書】

舌を噛み切り、喉に包丁を突き立て……団地ママ友3人の深い情欲と恨み【福岡 レズビアン殺人事件:後編】

2021/08/28 17:00
高橋ユキ(傍聴人・フリーライター)

第三の主婦の登場

 それは事件の起きた年のはじめごろ。当時30歳の主婦・悦子さんと、紀子さんが一緒に天神に買い物に行く姿や、映画を見に行く姿が近所の主婦たちに頻繁に目撃されるようになった。美里が紀子さんの家を訪ねても「いま、内職のことで人が来てるから」と追い返し、悦子さんとの逢瀬を楽しむようになったという。

 当の悦子さんは当時、週刊誌の取材に赤裸々に紀子さんとの関係を語っていた。花柄のエプロンのすそを丸めながら、ぽつりぽつりと答える。

「1月の中旬ごろ、団地内の子ども会の会合で話をするようになってからです。
 うちの主人も仕事の関係で月に何日も家をあけます。一度、家を出ていくと、1週間から10日も続けて帰ってこないこともあります……。私の子どもも大きくなって……私の手から離れたいまでは、私も家の中でひとりぼっちの生活なんです。
 そんな気持ちのときなんです。誘われたのは……」

 と話して悦子さんはうつむいた。彼女は紀子さんの誘いに応じ、ママ友を超えた関係になった。悦子さんは当時、やめようという気持ちもあったが、関係を続けたという。紀子さんは、かつて美里が言ったような文句で悦子さんを安心させていた。

「紀子さんは『女同士だと、体の線はくずれないから』って口癖のように言ってましたし……いろいろ、私の心配を取り除くのに気を使ってくれたんです。
 私自身もそういうことが、とても“素晴らしい”と感じるわけではありませんけど……紀子さんが2、3日訪ねてこないと、妙に……ソワソワした気持ちになるんです」

 弱々しい語りだった悦子さんが、低くしっかりした声で続けた。

「それは事実です……。私の方から自然に、紀子さんの家に足が向いてしまうんです」

 そして涙をこぼした。

つけびの村
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