崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

大泉洋ら出演『焼肉ドラゴン』から学ぶ「在日コリアン」の歴史――“残酷な物語”に横たわる2つの事件とは

2021/05/07 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

“ホームドラマ”の背景にある2つの事件

<物語>

 1969年、高度経済成長を達成し、大阪万博を控えた日本。大阪の空港近くの集落に小さな焼肉店「焼肉ドラゴン」があった。店を営むのは、太平洋戦争に動員され左腕を失った金龍吉(キム・サンホ)と、大混乱の済州島から日本に逃げてきた高英順(イ・ジョンウン)。龍吉は静花(真木よう子)と梨花(井上真央)、英順は美花(桜庭ななみ)をそれぞれ連れて再婚し、2人の間には長男・時生(大江晋平)が生まれ、6人で暮らしている。

 幼い頃の事故で片足に障害を負った長女・静花は結婚を諦めているが、次女・梨花は李哲夫(大泉洋)との結婚を控えている。しかし、静花と哲夫は元恋人で、いまだに気持ちが残っていることを知る梨花は、哲夫とのケンカが絶えない。一方、クラブで働く三女・美花は妻帯者の長谷川(大谷良平)と不倫関係にあり、日本人の私立学校に通う末っ子・時生は、いじめが原因で失語症になってしまった。

 決して平穏とは言えないものの、仲間や常連客たちと一緒に、明るく生きてきた一家。そんなある日、大きな悲しみが彼らを襲う。いじめや不登校が重なって留年した時生に、龍吉が負けずに学校に通うよう言い聞かせたところ、絶望した時生は橋の上から飛び降り自殺を遂げたのだ。さらに、“日本人から買った家”に住んでいるという龍吉の主張が役所に受け入れられず、立ち退きを余儀なくされ、店まで取り壊されることに。そして大阪万博から1年、それぞれが人生の選択をした家族は散り散りになりながらも、希望を胸に長年暮らした場所を後にするのだった。

 本作を手がけた鄭義信(チョン・ウィシン)監督は、劇団「新宿梁山泊」の主宰者として演劇界では名高い存在だが、映画では主に脚本家として活躍してきた。もともと戯曲として書かれた『焼肉ドラゴン』は、2008年に日韓共同で舞台上演されて高く評価されると、その後も再演を重ねた鄭監督の代表作。その映画化に際し、初めて映画監督を務める流れとなったのだ。

 人気俳優らが集い、在日コリアンの一家のしたたかな生きざまを時にコミカルに、時にシリアスに描いた本作は、一見普遍的なホームドラマのようにも見えるが、一歩踏み込んでみれば、そこには激動の歴史が横たわっていることがわかる。とりわけ、穏やかで優しい父親・龍吉が淡々と語る、家族の背景にある2つの事件「帰国船の沈没」と「済州島の虐殺」から、在日コリアンの過酷な物語をひもといてみよう。

焼肉ドラゴン
ほんの数十年前の話なのが恐ろしいよ
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