コラム
【連載】傍聴席から眺める“人生ドラマ”

“超セレブタウン”東京・港区で起きた「死体遺棄」事件――87歳の姉を3カ月遺棄した、85歳被告の言い分

2021/05/03 15:00
オカヂマカオリ(ライター)

(C)オカヂマカオリ

 そんな中で、裁判とまったく関係ないところで気になったのが、裁判長の質問でした。拝見したところ立派な中年男性ですが、「日に日に変わってゆくお姉さん(の遺体)を見て、どんな気持ちでした?」という質問が、仏教で無常を説く「九相図(美女がどんどん腐って骨になる様子を9段階で現した図)」的で宗教を感じさせたり、「お姉さんの誕生日が9月8日なので、その日に(亡くなったことを)言おうとか?」などと、“記念日好き”を連想させる内容で、人柄が見えてきます。

 なお、この質問に被告は、「お姉さんを見かけない」という通報を受けた高齢者相談センター職員の訪問に、最初は「姉は寝ている」と言って追い返してしていたものの、死後3カ月で遺棄が発覚。訪問されるたびに「今日こそ言おう、と思ってたけど勇気がありませんでした」と話していました。

 遺体が室内にあったのは初夏から真夏なので、エアコンをかけても腐臭がすごかったことが想像されますが、それでも外部にSOSが出せなかったのはなぜだったのか。親類縁者もない姉弟の、小さな世界が壊れてしまう恐怖があったのでしょうか。

 家を一歩出ると、ハイブランドの路面店や豪邸、大手企業のビルが林立する街、港区。そんな雰囲気についていけない老いた身には、なおのこと家族が大切に思えたのかもしれません。

 今件は微罪のうえ、初犯だったため、即日判決が出ました。懲役1年、執行猶予3年。猶予期間が明けるのは、被告が88歳になる時ですが、そこまで元気で、お姉さんの供養を続けてほしいと思います。

オカヂマカオリ(ライター)

絵も描くライター。傍聴デビューは結婚詐欺師のクヒオ大佐。興味を持った方は古書店で『裁判トリセツ』(インフォバーン刊)を探してみてください。

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最終更新:2021/05/03 15:00
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