芸能
[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

パルムドール受賞『パラサイト』を見る前に! ポン・ジュノ監督、反権力志向の現れた韓国映画『グエムル』を解説

2019/12/27 18:00
崔盛旭

 もうひとつ、気になったのは「母の不在」だ。映画にはヒョンソの父と祖父が登場するのに対して、母と祖母は描かれない。これもヒョンソの死と同じ文脈で考えると、ポン・ジュノ監督は「母の不在」と韓国における米軍の歴史を重ね合わせているように見える。

 独立直後の1945年に遡る米軍の駐屯は、韓国建国よりも古い歴史を持っている。全国の主要都市に置かれた基地と、それを囲むように形成されていった基地の町では、米軍相手の売春婦(米軍「慰安婦」や基地村女性と呼ばれる)を含む韓国人女性たちが、米兵にレイプされたり殺されたりする事件が多発してきた。中には92年に殺されたユン・クミのように、レイプ後に信じられないほど残忍な殺され方をした例もあるが、公になった事件はごく一部で、被害の全貌は明らかにされないままだ。だが前述したように、協定によって韓国側はユンの事件当時、容疑者の米兵を拘束することすらできなかったし、その後も大きなジレンマを抱え続けてきた。

 10代から60代にまで至る被害女性たち、言い換えれば「母」になり得た、そして「母」であった女性たちを守れず、死に追いやった韓国社会。本作における母の不在は、そうした韓国の歴史を象徴しているといえるだろう。

 ポン・ジュノ監督はあるインタビューで、本作の英題が「Monster」ではなく「Host」であることについて、「ホストには宿主だけでなく主人という意味もある。誰が主人なのかを問うために、政治・社会的な含意を込めて名付けた」と語っている。なるほど、ソファ(SOFA=在韓米軍地位協定の略)に座ってくつろいでいる「Host」は誰のことか? そしてその存在にしがみついている「Parasite」は?

 ポン・ジュノ監督は、新作『パラサイト 半地下の家族』では、どのような「韓国」を見せてくれるだろうか? ますます楽しみになってきた。

崔盛旭(チェ・ソンウク)

1969年韓国生まれ。映画研究者。明治学院大学大学院で芸術学(映画専攻)博士号取得。著書に『今井正  戦時と戦後のあいだ』(クレイン)、共著に『韓国映画で学ぶ韓国社会と歴史』(キネマ旬報社)、『日本映画は生きている 第4巻  スクリーンのなかの他者』(岩波書店)など。韓国映画の魅力を、文化や社会的背景を交えながら伝える仕事に取り組んでいる。

最終更新:2020/02/25 13:40
アクセスランキング

今週のTLコミックベスト5

  1. 塩対応な私の旦那様はハイスペックな幼馴染!?~トロトロに甘やかされて開発される体~
  2. 交際ゼロ日で嫁いだ先は年収5千万円のスパダリ農家~20歳、処女を弄ぶ優しい指先~
  3. お花屋さんは元ヤクザ~閉店後の店内で甘く蕩ける~
  4. 体育会系幼馴染は世界一の溺愛男子~全人類の好感度がある日見えたリケジョの私~
  5. 淫魔上司は不器用な溺愛男子~インキュバスが魅せる激甘淫夢は人外の快感~
提供:ラブチュコラ
オススメ記事
サイゾーウーマンとは
会社概要
個人情報保護方針
採用情報
月別記事一覧
著者一覧
記事・広告へのお問い合わせ
プレスリリース掲載について
株式会社サイゾー運営サイト