インタビュー【後編】

【森下くるみ×伊藤和子弁護士対談】AV業界の問題を浮き彫りにしたのは外部の声「無関心」という悪

2019/12/27 19:00
池守りぜね(ライター)
(左)森下くるみさん(右)伊藤和子弁護士

  2019年の下半期、大きな話題を集めたドラマがある。それが、動画配信サービス「Netflix」のオリジナルドラマ『全裸監督』だ。80年代に活躍したAV監督・村西とおる氏の自伝がモチーフになった作品だが、同ドラマでは引退してかなりたつAV女優・黒木香さんの半生と当時の活躍ぶりにもスポットが当てられている。

 前編では、Netflix側が黒木さんの了承を得ることなくドラマを制作したと言われており、それが世間で「人権侵害では?」と物議を醸した件について、元AV女優で文筆家の森下くるみさんと、NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長の伊藤和子弁護士に話をお聞きしたが、後編ではお二人に、AV業界全体の問題についてうかがった。

前編:『全裸監督』黒木香さんから考える「AV女優の人権」とは

過去作品は自分の知らないところで販売され続ける

――森下さんは、AV女優として活動していた作品の販売停止を行いましたよね。どのような経緯から販売停止を行ったんですか。

森下くるみさん(以下、森下) 二次使用に関して、きちんとした契約がなかった時代にデビューしたので、20年近く前に撮影した作品がいつまでも使い回されていて……。直接のきっかけになったのは、コンビニで販売されていた雑誌の付録に1998年のデビュー作がついていたことですね。販売するといった連絡もなければ、いくら売れても出演者には1円も入ってこない。そんな時、二村ヒトシ監督に「いまだに私の女優時代の作品が、二次使用で売られている」と話したところ「引き下げてもらえばいい」ってアドバイスしていただいて。その後は、AV人権倫理機構が販売停止を請け負っていることを知り、ホームページからフォーマットをダウンロードして、書類を作って送付。私の場合は、メーカー2社からしか出ていないので連絡が取りやすかったのか、ネットで配信されていたものに関しては、書類を申請してから1~2カ月で削除されました。まだ販売され続けているものがあるので、引き続き声を上げていこうと思います。

伊藤和子弁護士(以下、伊藤) 販売停止に関しては、販売や配信が続く限り時効になりません。今、“自分”が困っているならば、差し止めを求めることは可能です。しかし、AV業界では1回撮影すると、いつまでどこの販売元から、どのような形態で販売され続けるのかわからないという問題も発生してきました。例えば、A社が潰れると、作品の版権がほかの会社に譲渡されて、自分が知らない間に、全然違うAV女優の名前やタイトルに差し替えられ、その作品が売られていたりするケースも。さらに、海外のサイトで無修正版を配信されたり。そうすると、なかなかその映像流出って、止められないんです。

――先ほど、「契約がなかった時代」とお話されていましたが、詳しくお聞かせください。

森下 私がデビューしたのが98年で、契約書自体を見ことがなかったんですね。メーカーと、当時所属していた事務所は契約を結んでいたはずなのに。書面の確認もできずにいきなり専属女優として活動しはじめたという(苦笑)。幸い大きなトラブルはなかったのですが、不利な状態で活動していました。監督やスタッフと信頼関係があったので、AV強要問題などで取り沙汰されているような、殴られたりとか、恫喝とかもなかったですが。

――事前説明と撮影内容が違うといったトラブルはありましたか。

森下 ありましたよ。私の場合は「それは違うんじゃないですか。聞いていないので、できません」って話して、監督と気まずい雰囲気になって、撮影を止めたことも。あとは撮影を止めたくないという気持ちが勝り、「ずいぶんハードな内容だな……」って思いながら行ったプレイもあります。長い時間を使って事前に打ち合わせをしても、現場でどうなるかわかりませんからね。つい許容範囲以上のことを受け入れてしまって、正直辛かったなってことが何度か。また、『全裸監督』でも描かれていましたが、無修正が流出したケースも聞いたことがあります。知り合いの女優さんのマスターテープが流出してしまって、モザイクのかかっていない動画がネットに上がってしまうというトラブルが起こりました。

伊藤 私が担当したケースだと、現場で「こんなシーン聞いていません。私はできない」と監督さんに伝えても、撮影を止められないという事例が多くありました。監督さんによっては、女優さんと男優さんのどちらにも暴力を振るう人もいるみたいで、泣きながら撮影したという方もいますね。過去には、現場でトラブルが起こり、警察を呼んでも取り合ってもらえなかったという話もありました。

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