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沢尻エリカを断罪し、面白おかしく消費するワイドショーが見落としてしまうもの

2019/11/18 20:00
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

 11月16日、女優の沢尻エリカ容疑者が合成麻薬のMDMAを所持していた疑いで警視庁に逮捕された。都内の自宅から見つかったMDMAについて、沢尻容疑者は「私のものに間違いない」と話し、容疑を認めている。NHKの報道によれば、「10年以上前から大麻やMDMA、LSD、コカインを使用していました。有名人が薬物で逮捕されるたび私も危ないと注意していました」と供述しているという。

 沢尻容疑者は2020年の大河ドラマ『麒麟がくる』で織田信長の正妻となる帰蝶(濃姫)役をつとめ、すでに第10話までを撮影。NHKは放送開始日の見直しや代役探しなど対応に追われ、撮り直しに向けて動いているという。また、沢尻容疑者は15日から放送の「Indeed」新CMにも出演していたが、同社のYouTube公式チャンネルでは動画が削除されるなど、各方面に影響が及んでいる。

 沢尻容疑者が薬物に手を染めていたことが発覚したことで「ガッカリ」との落胆や失望、厳罰を求める声などが大きくなっている。テレビの情報番組でもコメンテーターが彼女への批判を述べており、“お決まりの流れ”が展開されているといえるだろう。薬物使用者の罪や罰にばかりフォーカスし、個人を厳しく糾弾する一方で、違法薬物を取り巻く多くの問題が見落とされていないだろうか。

「遊び半分でやったのが続いているだけ」?
 沢尻容疑者逮捕の翌17日、生放送の『シューイチ』(日本テレビ系)では、沢尻容疑者の親友という女優の片瀬那奈が「悲しくて、ショックで、何で、驚きと渦巻いていて。これだけ近くにいて何も知らなかったのは本当に悲しいし、裏切られた気持ち」と声を震わせた。

 18日放送の『スッキリ』(日本テレビ系)では、MCの極楽とんぼ・加藤浩次が沢尻の行動を厳しく批判。

「沢尻容疑者はやんちゃなイメージで、いろいろあって、そして落ち着いて仕事頑張ろうとしているふうに世の中には見えていたと思うんだけど、やんちゃな部分を隠して、それは夜クラブなどに行って薬などをやっている。でも仕事のときになったらいい顔しておくって、二面性になっていただけな気もしてしまう」
「自分で自分のキャリアをどんどん傷つけて、もう1回やり直す、1から頑張る、またこういうことをやってしまう。繰り返してしまう状況。過去を振り返るとわかるね」

 同番組では、コメンテーターの橋本五郎氏が「(薬物を)やらざるを得ない状況、仕事に行き詰まるとか、いろんなことがあったのか、きっかけは何だったのか」と推察する場面もあったが、加藤は「仕事に行き詰まっている人はいっぱいいますよ」「遊び半分でやったのが続いているだけ」と断罪。「細かい理由を周りが考える必要はない。10代20代のころに遊び半分でやっていたことの延長じゃないですか」と憶測含みの持論を展開していた。

 また、TBSは逮捕の一報からすぐに沢尻容疑者の逮捕前夜のプライベート映像を流したが、18日放送の『バイキング』(フジテレビ系)もまた、彼女のプライベート映像を放送。逮捕間近という情報は数日前から流出していたのだろうか。『バイキング』は沢尻容疑者が過去、“お騒がせ女優”として結婚離婚騒動などがあったことも今回の件に絡め、人格否定的な内容だった。

 このように、沢尻容疑者に対して「ガッカリした」「女優業が好調だったのに、バカをやって」という論調が幅を利かせている。しかし一人の人間の転落劇をバラエティ的に消費するだけの報道でいいのだろうか。

薬物依存は強い意志で克服できる、という誤解
 18日のNHKニュースによれば、警視庁は7年前に沢尻容疑者に近しい人物から「違法薬物を使っている」との証言を得ていたという。これが事実だとすれば、沢尻容疑者は数年間にわたって薬物を使用していたことになる。薬物依存症は病気であり、個人の強い意志の力で克服できるというのは誤った思い込みだ。適切な治療が必要となる。

 著名人の違法薬物関連での逮捕はセンセーショナルなゴシップのように扱われてしまうが、それは本人だけでなく依存症当事者の治療を妨げることも懸念されている。有志団体が策定した「薬物報道ガイドライン」には、マスメディアが「避けるべきこと」として次のような項目がある(一部抜粋)。

<薬物依存症であることが発覚したからと言って、その者の雇用を奪うような行為をメディアが率先して行わないこと>
<逮捕された著名人が薬物依存に陥った理由を憶測し、転落や堕落の結果薬物を使用したという取り上げ方をしないこと>
<「がっかりした」「反省してほしい」といった街録・関係者談話などを使わないこと>

 しかし今回の沢尻容疑者逮捕を伝える多くのテレビ番組は、こうしたNG事項を率先して破り、沢尻容疑者が薬物依存に陥った理由を憶測し、「がっかりした」「反省してほしい」とのコメントを使い、彼女の雇用を奪う動きをしている。

 唯一、17日放送の『新・情報7daysニュースキャスター』(TBS系)では、安住紳一郎アナウンサーが、沢尻の経歴を振り返りつつ、「しっかり治療してもらいたいなと思いますね」と“治療”について言及していた。

 薬物依存症患者を晒しものにして批判したり、厳罰を与えることで問題が解決するのならそんなに簡単なことはない。だが実際には解決しないのだ。であれば特にマスコミは、社会における依存症への偏見や誤解をほどくべく理解を求める方向に、舵を切ってほしい。

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なぜ背景に目を向けないのか?
 また、沢尻エリカ容疑者が数年前から違法薬物を使用していたとすれば、彼女にそれを供給する人物がいたということになる。使用が発覚した個人を責めたとしても、薬物が蔓延する社会的な背景が改善するわけではない。

 脳科学者の茂木健一郎氏は18日、沢尻容疑者の逮捕についてTwitterに意見を投稿した。

<問題の本質は、沢尻エリカさんという一個人がドラッグを使っていたというところにあるのではなく、そもそもドラッグはどこから流通してきたのか、今ドラッグはどれくらいまん延しているのか、その結果どのような弊害が生じているのかという全体像であって、沢尻さん1人を悪者にして糾弾しても仕方ない>

 薬物使用者の逮捕は、違法薬物の蔓延という社会問題からしてみれば枝葉の問題だ。とりわけマスメディアにはその根本的な社会問題にも切り込んでいく姿勢が求められるのではないか。背景に踏み込めば、「薬物を使用する人間が悪い」「供給する組織が悪い」「生産する人々が悪い」……等々、一面的に善悪を判断できるほど単純な問題ではないこともわかる。その複雑性も含めて、議論の対象だ。

 沢尻容疑者に関する報道は現状、彼女の失敗を面白おかしく消費しているに過ぎない。そのようなやり方は物事を良い方向には進めないだろう。本質的な報道を求めたい。

最終更新:2019/11/18 20:00
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