[官能小説レビュー]

娘の立場から、父と母、そして愛人の三角関係を描いた『あちらにいる鬼』に感じる運命

『あちらにいる鬼』(朝日新聞出版)

 妻とその夫の愛人は、この世の誰よりも敵対する間柄になりそうな気がするけれど、実は腹を割って話し合うと、学生時代から知り合いだったかのように強い友情で結ばれることがあるという。これは筆者が実際に婚外恋愛の取材を経て、たびたび聞いた事実である。

 同じ男に惹かれたことから「奪い合う」という形で知り合う女同士は、当然最初は仇同士になるだろうけれど、ライバルである相手のことを調べてゆくうちに、気がついたら相手のことを認め、いつしか知りたい、話がしたいと感じるようになることもあるという――それはもちろん「同じ男を愛しているから」である。

 筆者にとって近年稀にみる衝撃作であった『あちらにいる鬼』(朝日新聞出版)は、多くの読者の心を強く揺すぶったのではないだろうか。

 本作の主人公となるのは3人の男女。作家である男とその妻、そして男の愛人となる作家の女――文学を嗜む日本人であれば誰もが気づくだろう、作家・井上光晴と愛人関係にあった瀬戸内寂静の話を、光晴の娘である井上荒野が書いたという衝撃作である。

 本作は、作家である白木の妻である笙子の視点と、人気女流作家みはるの視点で構成されている。白木とみはるは、とある講演旅行で知り合い、愛人関係となった。惹かれあう2人は肉体関係を持ち、いつしかかけがえのない存在となってゆく――。

 表題となる「鬼」は、白木のことである。笙子とみはる、2人にとっては「鬼」と感じられる彼を通じて響き合う、「妻」と「愛人」という女たちの想いが綴られている。

 当然ながら本作はフィクションである。しかし、モデルとなる登場人物たちの間に存在していた「娘」という立場から、荒野は独自の解釈で物語を綴ってゆく。もっとも衝撃であったのは、白木とみはるは強い愛で結ばれており、その関係性は単なる肉体関係だけではなかったこと。そして、笙子は白木に「愛されていた」と感じられる点である。

 本作はもちろん光晴の娘である荒野の「フィクション作品」として受け止めなければならないのだが、読者としては無数の想像が繰り広げられてしまう。愛人へも、妻へも隔てなく愛情を注ぎ、2人の女に対して平等に愛を感じさせていた白木。「鬼」である白木とみはるが「書く」ということを通じて一層惹かれあった――そして今、娘である荒野が「書く」ことで、母と、父の愛人の人生を昇華させている。

 母と愛人、そして娘も「鬼」に惹かれ、書かずにはいられない運命に翻弄されている……そう感じさせられる一冊であった。
(いしいのりえ)

最終更新:2019/07/15 19:00
あちらにいる鬼
妻と愛人の強い友情という不思議

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