[官能小説レビュー]

「官能」とはほど遠い、滑稽なセックスを描く松尾スズキの『108』

『108』(講談社)

 セックスという行為は、捉え方によって無数の解釈ができる。だからこそ、昔からずっと小説の題材として描かれているのだろう。シリアスな表現にもなれば、男女の激情にも描かれる。また昨今ではセックスを題材としたコミカルな小説も多く見かける。

 筆者がこれまでに紹介した官能小説にも「バカバカしさ」を追求した官能小説が多々あったが、今回ご紹介するのは松尾スズキの作品『108』(講談社)である。本作は今秋に、松尾自身が監督、主演、脚本を担当した映画『108〜海馬五郎の復讐と冒険〜』として公開が決まっており、原作を読了したファンからは「一体どうやってこの作品を映画化するのか?」と、早くも注目が集まっている。

 主人公は、松尾の作品に度々登場している人物・海馬五郎。脚本家である海馬は、とあるオーディション会場でひとりの若い女に声を掛けられる。稽古場の踊り場で見せられたのは、妻が偽名を使って投稿したフェイスブックのアカウント画面であった。

 元女優の妻・綾子は、彼が脚本を書いた作品に出演していた事で知り合い、結婚をした。7年前に結婚をして女優も辞め、夫に尽くしてきた彼女は今、海馬ではなく、若いコンテンポラリーダンサーに夢中になっていたのだ。

 自宅に戻り綾子を問い詰めると、彼女はあっさりと白状した。

 フェイスブックに書かれていることはすべて「大切な妄想」だと言い、ダンサーとのセックスを妄想して生きることを許してくれ、と打診される。そして綾子が見せた左腕には、ダンサーの名前に蛇がデザインされたタトゥーが入っていた――。

 妻の投稿を読み進めるごとにダンサーへの深い愛が感じられる。海馬は、あまりにショックを感じて離婚を考えるが、仮に今離婚をした場合は、彼が持つ財産の半分である1000万円を、財産分与として妻に支払わなければならなくなる。

「冗談じゃない――」

 妄想とはいえ、壮大なる「不貞」を働いた綾子に対して、海馬は一文を払うつもりはない。ならば、と、海馬は自分の「不貞」で財産の2000万円を使い切ろうと計画するのである。目標にした不貞相手の人数は108人。人が持つ煩悩でもあり、綾子が綴る妄想上の不貞に「いいね!」が付いた数でもあるのだ――。

 作中で描かれているセックスを読み進めてゆくと、海馬の気持ちがふと憑依してくる。セックスとは、何とバカバカしい行為なんだろう――本来持つ快感や心地よさなど生み出さない、ただ滑稽なセックスが、これほどの数描写されると圧巻だ。

 本作は、読めば読むほど「官能」から遠ざかりたくなる、独特な切り口の「おバカ官能小説」である。
(いしいのりえ)

最終更新:2019/04/08 19:00
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