砂糖ダメ牛乳ダメ反ワクチン…過激な自然派育児、入り口は伝統的抱っこ紐信仰だった

2019/06/18 20:00
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

 「いまどきの抱っこ紐は、子どもの健全な成長を妨げる」「昔ながらのおんぶ・抱っこを見直すべき」。抱っこ紐を布教する界隈で、そんな主張があることをご報告させていただいたのが、前回の記事。育児界隈では、粉ミルクや紙おむつ、スマホ、レトルトなどのいわゆる「便利アイテム」は、堕落の証拠とばかりに叩かれがちですが、それが抱っこ紐にまで及んでいたとはなぁと「昔ながらの教」のヤバみを見せつけられた思いです。

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 エルゴベビー(以下、エルゴ)を代表とする「ストラクチャー(あらかじめ形成されているの意)タイプ」の抱っこ紐を問題視し、それらを使う親たちを不安にさせるようなお説を発信していたのは、育児雑誌「クーヨン」や、Facebook上のグループである「だっことおんぶを語る会」、抱っこ紐を販売するWEBショップなど。この記事に対し、エルゴで抱っこをしていたらディスられたという体験談も多数届きました。中でもひどかったのは「(エルゴで抱っこしていたら)脳がぐちゃぐちゃになる」とまでいわれた話。「バカっていう方がバカなんだよー」という子どもの返しのようですが、その発言をした方の脳がどうかしているレベル。

昔ながらの日本文化最高…!?
 もちろん1枚布タイプや紐を使って「昔ながらの抱っこ・おんぶ」をしている人たちすべてがそうしたヘンテコな主張をするわけではなく、むしろ「好きで使っているだけなのに、一緒にされては困る」という人もいるでしょう。そこで今回は、抱っこ紐の使い方を広める活動をする中で、おかしな主張に出会ってしまった体験談をお届けしていきましょう。話をしてくれたのは、抱っこ紐インストラクター活動をしているワーキングマザーH子さんと、同じくインストラクターであり理学療法士でもあるF美さんです。

 H子さんが抱っこ紐インストラクターとなったのは、1枚布タイプの「ベビーラップ」と呼ばれる「ディディモス」にどハマりしたのがきっかけ。素材の違いから生じる使い勝手の違いに興味を持ち、あれこれ試したくなり次々と購入。サイトを見るとディディモスの抱っこ紐は安くて1万円代、高くて3万円弱。抱っこ紐後もまだまだ、子ども乗せ電動自転車やらベビーカーやら、子ども移送アイテムが必要になってくるのに、スタートダッシュかましましたのう……というのが私の率直な感想です(注・肯定も否定もしてません)。

 そうやって爆買いする中で不便に感じていたのが、通販しかなく商品の現物が見られないこと。また、使い方を教えてもらえる場所も少ない。必然的に自力で調べていくうち、あらゆるタイプの抱っこ紐について勉強したくなり、インストラクターという肩書を得て使い方を広める側へと足を踏み入れていたと話します。

H子さん(以下、H子)「もともとギミックやガジェットが好きで、コレクター気質。子どものためというエクスキューズで買い物ができることも大きく、歯止めがききませんでしたね(笑)。抱っこ紐は最初5WAYタイプがうまく使いこなせず、匿名掲示板の育児板で評判のいいものをチェックしたりと、試行錯誤していました。そんな中、話題に上っていた1枚布タイプを使ってみると、思いのほかハマり、ますますのめりこみました」

 勉強と練習を積み重ね「抱っこ紐業界」へ踏み込むと、次第にインストラクター仲間が増えていきます。そしてさまざまな抱っこ紐を学ぶ講座へ参加するなか、1枚布タイプの使い方を身に着けよう、広めようとする人たちに「自然派ママ」の多さを実感。しかも、過激派……。

H子「もちろん全員ではありませんが、ベビーラップやスリング、おんぶ紐の使い方を広めたいという人たちは、『昔ながらの日本文化最高!』というタイプの人がとにかく多くて。そういった志向そのものはご自由になのですが、抱っこ紐インストラクターという肩書で、巷のお母さん方に指導をする立場の人たちが偏った情報を発信し、エルゴをはじめとするいまどきの抱っこ紐を見下すような動きがあるのが本当にイヤなんです。

基本私たちは、日本小児整形外科学会が推奨している『コアラ抱っこ※』を基本とし、一部が勧めている『横抱き』はしません。ですから抱き方そのものはエルゴ系だろうがベビーラップ系だろうがたいして変わりはないハズなのですが、『1枚布タイプは、エルゴよりもっと密着できる!』みたいな主張をする方がたくさん。そしてエルゴユーザーのお母さんたちに対しては『今はエルゴしか使えないなら仕方ないけど、いずれは兵児帯で抱っこ・おんぶするまでの高みまで登ってきてよね!』といわんばかりです。

善意の暴走
H子「以前、エルゴの販売元であるダッドウェイの方に来ていただき、使い方などを教えていただく集まりがありました。するとその手のインストラクターたちは『所詮、企業の人。抱っこのなんたるかが、まったくわかってない』という感じで、先方のレクチャーも話半分で聞き流している。こちらからお願いして教えていただく態度じゃないんですよ」※コアラ抱っこ=赤ちゃんがM字型開脚で養育者の胸にしがみつく形になるように、正面&縦で抱く形

 中でも最も困惑しているのは、いまどきの抱っこ紐をディスるインストラクターたちはもれなく、砂糖ダメ牛乳ダメ反ワクチンホメオパスたまにヒプノセラピーやオステオパシーもたしなみます、といったタグがついていること。

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H子「そうすると、抱っこ紐を習いに来るお母さんたちがそういったいわゆるトンデモに染まっていく。しかもこういった人たちはNPO法人とかを作りお役所とかにも食い込もうとすることに熱心なんです。子育てを助ける知恵を広め、世のお母さんたちを楽にしてあげたい!! という気持ちからだというのはわかるんですが、どうしてもトンデモ物件とセットになりがちなのが、今本当に頭の痛い問題です」

 この現象はH子さんの周りだけでないようで、抱っこやおんぶの情報を発信する某同好会ではベビーウェアリング※※の教室や講習会が増えている現状を踏まえ、声明文も出しています。
※※ベビーウェアリングとは=日本語にすると「赤ちゃんをまとうこと」。赤ちゃんを「運ぶ」のではなく「一体となる」という意味がこめられている。

「ベビーウェアリングを自然派・スピリチュアルから明確に切り離します」ーーそこではこんな事情が語られています。

・さらしや兵児帯、スリングやベビーラップといったいわゆる布系の抱っこ紐を使った抱っこやおんぶこそが、理想的なベビーウェアリングだと考えている人もいる。ある意味原始的なツールであるこれら布系抱っこ紐の支持者の中には、少なくない割合で自然派やスピリチュアリストが存在する

・するとベビーウェアリングを伝えていく中で「ベビーウェアリングやってる人は反ワクチン」「紙オムツやエルゴを使っていると怒られそう」と言われることもあり、胡散臭い、選民意識を煽るものと受け取られてしまうことも少なくない

・そもそも養育者が「赤ちゃんのために」何かをすることでアイデンティティの確認や自己実現を図ろうとするのも、不健全

 完結かつ控えめな表現の後ろに、日頃のご苦労がにじみ出ておりましたねえ……。しかし「わかるわかるー」といいながら、ぶっちゃけこの記事もそういった偏見を増長させかねない要素もあり、そのさじ加減が難しいところです。

過激インストラクターの事件簿
H子「インストラクター仲間のトンデモな実例を挙げれば、助産院で水中出産したお子さんが重度のアトピーなんですがステロイドはもちろん使っていなくて、温熱療法オステオパシーインストラクターなどもやっていました。他の方は、子どもたちにワクチンを打たせず、本人はヴィーガン。身につけるもの食べるものはすべてオーガニックで、子どもの教育はシュタイナー。あとはおむつなし育児をやっている方もたくさんいます」

「おむつなし育児」もこの界隈では定番なのか、「だっことおんぶの研究所」というHPに掲載されている全国のインストラクターのプロフィールを片っ端から見ていくと、おむつなし育児も教えられます! というメンバーの多いこと多いこと(ウワサではここに反ワクチン、ホメオパスもかなりいるという情報も)。

H子「過激な自然派インストラクターのひとりは自然を過信しているという典型的なタイプで、アトピーの子どもが離乳食はじめたてのころ、会食の場でピーナッツバターを平気で食べさせた事件がありました。その場にいた仲間は皆、内心『ヤバいんじゃないの!?』と驚いたのですが、何か主義があっての上だと思うと何もいえなかったんです。ところがその場で子どもにあっという間にアレルギー症状が出て、会食は即お開き、彼女はそのまま病院へかけこみました。

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ヒプノセラピーに手を出したインストラクターも、困った方向へ突っ走っています。『あなたが妊娠できないのは、心の中にブロックがあるから』とか始めてしまって。その他自己啓発セミナーっぽいコーチング講座に夢中のインストラクターと組み、助産師や保育士などの育児支援者対象の抱っこ講座に力を入れる人たちもいて、トンデモがどんどん広がっていく……なんだかなぁ……という感じです」

 講習会に来るお母さんたちの間では「昔ながらの抱っこ・おんぶで体幹が鍛えられる」という効果が大人気。口々に、『うちの子どもは、紐がなくてもしっかり猿みたいにしがみつくことができる。体幹がしっかりできたのは、おんぶ紐のおかげ。今までおんぶ紐を使ってきて本当によかった』と絶賛するそう。さらに小学校に上がり、ちゃんと椅子に座っていられることも『正しいおんぶ・抱っこのおかげ』と感謝するのだとか。椅子に座っていられないケースの問題は、体幹以外の部分にも原因がたくさんありそうですが、それを「私が楽していまどきの抱っこ紐を使ったせい!?」なんて、いらぬ責任を感じるお母さんたちも出てきそうです。

 理学療法士でもあるF美さんは、問題点をこう整理してくれました。

F美「昔ながらの派が主張するいまどき抱っこ紐に対する懸念の前提は、『正しく使えていない』ことでしょう。しかし怪我なく普通に使っていれば、何の問題もありません。『しがみつく力を養う』といっても、もっこやさらしなどのおんぶ紐も足を固定するわけですし、逆にストラクチャータイプのキャリアのほうだってガッチリホールドされるほどの固定力はありません」

余計な情報に左右されないで
F美「ストラクチャータイプの使用で問題が生じる原因は、キャリアの置いてある小売店が販売員を商品説明に取られたくないので、説明のいらない商品が求められることにもあるように思えます。いまどきの抱っこ紐は養育者も赤ちゃんも疲れにくく、成長を阻害しない姿勢がとれるなどの利点がある調整機能が増えていますが、日本の販売店においてそれらは『売るのに面倒な機能』とすら思われ充分な説明がされにくい。と、抱っこ紐の製作を行っている企業から聞いています。すると販売の段階で商品価値が下がり、おかしな言説につけこまれるのではないでしょうか。しかし昔ながらの抱っこやおんぶが謳っている『すごい効能』は、子どもが動き出してからいくらでもリカバーできることがほとんどで、だから何? というものばかりです。

いまどきの抱っこ紐はサイズ選びや適正使用ができないことによるトラブルが、個別で生じやすいのは確かでしょう。もし、お子さんやご自身に違和感があるなどの場合は、抱っこやおんぶのインストラクターに知恵を借りるのはとても有効なことでもあります。販売スタッフからは得にくい、よりオーダーメイドな使用感が身体を楽にしてくれると思います。その際は『子どもの成長が危ない!』みたいな脅すようなトークをせず、有益なことだけを伝えてくれる人をぜひ選んでください」

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 昔ながらのおんぶ・抱っこで親子の絆! 愛着形成! とかいいますが、そもそも昔も養育者と赤ちゃんはそうべったりでもなく、労働の邪魔だからと布に包まれて桶や籠に入れられていたなど、放置されていた文化もあります。

F美「昔の子どもたちの体幹の強さが、おんぶだけの効果かどうかは定かではないと感じています。子どもの多かった時代は、みんな赤ちゃんの扱いに慣れていたので、シンプルな紐であっても動作は容易だったでしょう。でもいち保育者としての主観でいわせていただくと……紐って痛い。親も子も、現代の知恵を使ってもよくない? いろいろな方を見てきて思うのは、キャリアとスリングを使い分けられている人は、それなりに抱っこスキルが高い。そういうバランスの取れた方たちには余計な情報に左右されず伸び伸びと日常を過ごしていただきたいと願います」

 ちなみにかの有名な「トコちゃんベルト(過去記事参照)」や「まんまる抱っこ」※※※をどう思うか? という質問に対しては、H子さんF美さん2人そろって「異端」とバッサリ。※※※「まんまる」の姿勢にしてあげると子宮内にいたときと同じ姿勢になるので、赤ちゃんが安心する。育てやすい! と謳われる、育児法でのこと。丸い姿勢で横抱きにすることを基本とする。

F美「多くは小児整形外科学会に則り、股関節保護のためスリングでの横抱きは推奨していません。さらに子どもの発達を無視した、1歳まで立位を取ってはいけない、というような主張は異端すぎて宗教だと思うほかありません。『首の負担をサポートする』と変な枕みたいな物をつけられる方が、よっぽど負担では?」

 このほか、育母塾という社団法人が発信する「まぁるい抱っこ」という流派もあり(カンガルー抱きという前向き抱っこを基本とするらしい)、母親に厳しいことを言うことで有名なんだとか。過去、「まんまる抱っこ」からは「おとなまき」なる奇怪なヒーリング法が生まれましたが、おかしな言説やトンデモの動きこそ、おとなまきのごとくどんどん布にくるんで「しまっちゃうおじさん」に片付けていただきたいものです。

これが、おとなまきだ!
 ぶっちゃけ、布に包まれてお母さんにぴったりはりついている赤ちゃんは、国宝級のかわいさです。「昔ながらの抱っこ(&おんぶ)最高おおお!」となる気持ち(だけ)は理解できますが、その他の根拠なき効果についてはほぼ蛇足。スピ界では「ブロック外し」が人気ですが、こちらはブロックをかけて、余計な呪いはシャットアウトしておきましょう。

最終更新:2019/06/18 20:00
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