[再掲]弁護士が解決! テレビの疑問法律相談所

高齢者運転事故で7人死傷も不起訴処分――池袋、87歳暴走事故はどう判断されるのか?

2019/04/24 19:03
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

 4月19日、東京・池袋にて乗用車が暴走し、母子2人が車にはねられたことにより死亡、男女8人が重軽傷を負う事故が発生した。車は2つの交差点で赤信号を無視し、ブレーキもかけずに通行人を続々とはねていたと報じられている。この車を運転していたのは、87歳の旧通産省工業技術院・飯塚幸三元院長で、いわゆる“高齢者ドライバー”だった。

 池袋事故の犠牲者である女性の夫であり女児の父親は、24日に会見を開き、「最愛の妻と娘を突然失い、ただただ涙することしかできず、絶望しています」と苦しい胸の内を明かしている。また、「少しでも運転に不安がある人は、“車を運転しない”という選択肢を考えてほしい」と、痛ましい事件が再び起こらないよう訴えた。

 しかし、飯元元院長はこれだけの大きな事故を起こしたにもかかわらず、現行犯逮捕とはならなかった。車に搭載されたドライブレコーダーには、事故直前に「どうしたんだろう?」という音声が記録されていたとの報道や、自身もケガを負っていると報じられていることもあり、ネット上では「認知症なのでは?」「このまま不起訴になりそう」という声もある。

 16年には、88歳の男性が集団登校中の児童の列に軽トラックで突っ込み、7人が死傷する事故が起こっているものの、男性がアルツハイマー型認知症だったことで、“不起訴処分”になった事例がある。サイゾーウーマンでは、認知症者が起こした事件・事故について、弁護士が「どこから罪に問えるのか」解説した記事を掲載している。決して他人事ではないこの問題に向き合うため、再掲するこの機会に、ぜひ読んでいただきたい。
(編集部)

————————————————————————————

(初出:2017年8月11日)

<今回の疑問>
認知症の人や高齢者が事故や事件を起こした場合、「法的責任」の境界線とは?

 2017年8月2日、仙台市の民家の駐車場に停められた乗用車内で、3歳の男児がぐったりした状態で見つかり、病院で死亡が確認された事件。死因は熱中症の可能性が高いとされている。

 この事件では、祖母が車内に男児がいることを忘れて、その場を離れたとみられており、ネットでは「認知症では?」などの声も上がっているが、認知症の加害者が事件や事故を起こした場合、どのような刑罰になるのだろうか? 近年、高齢者による自動車事故などが増えていることもあり、認知症者の責任能力について、アディーレ法律事務所の吉岡達弥弁護士に聞いた。

「犯罪の成立には責任能力が必要です。犯罪行為時に善悪の判断ができず、自分の行動を制御する能力が欠如している状態を『心神喪失』といい、心神喪失状態の行為を処罰することはできません。また、善悪の判断や、行動を制御する能力が著しく低い場合のことを『心神耗弱』といい、心神耗弱者の行為については刑が減刑されます。例えば、認知症の状態で自動車を運転し、傷害事故を起こした場合には、過失運転致傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)が成立します。しかし、心神喪失であれば処罰されませんし、心神耗弱であれば刑が減刑されます」

 では、過去の高齢者による事件、事故はどのように判断されているのだろうか? また、認知症で罪に問われなかった判例などはあるのだろうか?

「2016年に集団登校中の児童に軽トラックが突っ込み、7人が死傷した事故で、88歳の男性が自動車運転過失致死傷容疑で送検されましたが、不起訴処分になっています。男性はアルツハイマー型認知症で、刑事責任を問えないと判断したとみられます。また、減刑されたものとしては、(1)80代後半の男性がデパートで起こした窃盗事件。犯行当時、認知症の影響で行動制御能力が著しく減退しており、心神耗弱状態であったとして減刑。(2)30代女性の窃盗事件で、女性が認知症で心神耗弱状態にあったということで刑を軽くした。以上のような例があります」

 身内にも起こりうる高齢者や認知症の事件や事故を防ぐために、家族も然るべき対応が必要だろう。

アディーレ法律事務所

最終更新:2019/04/24 19:03
認知症の人を理解したいと思ったとき読む本 正しい知識とやさしい寄り添い方 (心のお医者さんに聞いてみよう)
決して他人事じゃない
アクセスランキング