カルチャー
トークイベント「居場所・つながり・新宿二丁目」レポート

虐待も愛情も人を殺せる。殺されないためには――中村うさぎ×伏見憲明×こうきトークショーレポ

2019/01/30 16:00

 熊谷さんのいう“へその緒”とは、つまるところ、愛情に裏付けられた親とのつながりのことだろう。しかし、そのつながりを断ち切ったとき、すべからく穏やかでいられるとは限らない。中村さんは次のように考察する。

「親との太いへその緒があると、恋愛関係などで同じくらい太くて強烈な絆を求めがちですよね。私自身、親から自立した直後は男への依存が強かったと思います。それで最初の結婚にも失敗しましたし。年を重ねたからこそ、他人との太い関係はやめておこうと割り切れますけどね」

 捉えようによってはリスキーな依存関係を回避するため、熊谷さんはつながりを分類することを勧める。

「こうきさんがセックスだけの関係だけではなく、仲間を求めたことに近いかもしれませんが、私は生きるために欠かせないつながりと親密なつながりとを区別したいと思っています。私にとって、前者は介助者との関係なので、お気に入りのヘルパーさんを意識的に作らないようにしているんです。でも、生きる上では後者の親密なつながりも欠かせません。それは恋愛や性的に結ばれたいという相手。日本の家族制度はその2つのつながりをパッケージ化していますが、『分けましょうよと』思ってしまいますね」(熊谷さん)

 2人のトークを受けて、「そもそも太い関係性にあまり関わってこなかった人生なので、いいなとは思うんですけど、どういうものなのか不思議なので、現実味がないですね」と話すこうきさん。しかし、伏見さんとの“親子関係の再構築”を経て、少しずつ感情に変化が出てきたという。

「僕にとって、こうきは子どもみたいな感覚で、経験できなかった親子関係を楽しませてもらってるんです。ちょっとしたお母さん気分みたいな。ただ、これはバーのオーナーとスタッフという雇用関係があって成り立っているもの。何もないと、ただのうざくておせっかいな“おばさん”ですよね。心配になると電話したり、旅行に連れて行ったり、肉体関係もないのに何やってんだって思いますけど、時給の何パーセントかには、疑似親子費用も含んでいるということで(笑)」(伏見さん)

 それに対してこうきさんは、「僕も親がいたら、こういう気持ちなのかな。伏見さんが将来的に歩けなくなったり買い物へ行けなくなったりしたら、僕が手伝おうかなと思っています」と答える。

 人は孤独の中では呼吸ができない。へその緒から与えられる酸素が絶妙な配分で胎児を生かしているのに対し、人間同士のつながりは調整が難しい。薄すぎでも濃すぎでも呼吸困難になりかねず、やっかいだ。

 生まれながらに親子愛を否定されたこうきさんだが、新宿二丁目で息を吹き返した。それは、偶然の出会いによってもたらされたが、人のぬくもりを諦めなかったからこその必然だったのかもしれない。トーク終了後にあらためて読み返したこうきさんの絵本からは恐怖ではなく、過酷な状況でも生きようとする強さがにじみ出ているように感じた。
(末吉陽子)

最終更新:2019/01/30 16:00
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