トークイベント「居場所・つながり・新宿二丁目」レポート

虐待も愛情も人を殺せる。殺されないためには――中村うさぎ×伏見憲明×こうきトークショーレポ

2019/01/30 16:00

虐待も愛情も人を殺せる。殺されないためには依存先を増やす

左から、中村うさぎさん、熊谷晋一郎さん、マダム・ボンジュールジャンジさん、伏見憲明さん、こうきさん

 親の愛情を知らずに育ったこうきさんは、「高校時代から寂しさを埋めるように、体のつながりにのめり込んでいった」と振り返る。しかし、セックスだけの関係にもむなしさを感じるようになり、仲間づくりのためHIVをはじめとしたセクシャルヘルスに関する情報を発信するaktaでボランティアをするようになる。そこでの活動を通して伏見さんに誘われ、バーに勤務、さらにそのバーの常連である中村さんとも知り合った。

 伏見さんと中村さんの後押しもあり、クラウドファンディングで自らの生い立ちを描いた絵本を出版することになったという。ここでは絵本の細かい描写は控えるが、なんともかわいらしいタッチの絵でありながら、おどろおどろしく、筆者はページをめくるごとに背筋がゾッとするトラウマ級の感覚を抱いた。

 それは、こうきさんが幼少期から連綿と続く「ぐちゃぐちゃにしてやる、自分の気持ちをぶつけて破壊するっていう気持ち」を表現しているからに他ならない。中村さんも「こうきくんの絵を初めて見たときに、こういう絵を描くんだと衝撃を受けました。この子の抱えるものに興味を持ち、代弁できたらと思いました」と話す。

 また、脳性麻痺で手足が不自由ながら、東京大学先端科学技術研究センター准教授として障害者の差別問題に長年取り組んでいる熊谷さんは、生い立ちは違えど、こうきさんに共鳴すると話す。

「障害者を健常者に近づけることを目的にしたリハビリ施設に通っていたのですが、暴力や抑圧と紙一重の日々。3歳の頃から全部焼き尽くす、夜な夜なかめはめ波(漫画『ドラゴンボール』に出てくるエネルギーを放出する技)で施設を焼き尽くすようなイメージにふけっていました」(熊谷さん)

 こうきさんの絵本には、自立を連想させる象徴的な絵がある。家を追い出され、行き場がなくなった当時の自身を描いたものだ。孤独のピークに達しながらも、なぜか安らいだ表情であることをめぐり、トークテーマは「真の自立とは何か」に移っていった。

 「こうきくんの両親ほど抑圧的じゃなかったものの、父親とは対立関係だった」と打ち明ける中村さんは、子どもの頃から一日でも早く自立したいと思っていたという。

「自立が人間の最高目標と考えていて、経済的にも精神的にも1人で生きていることに重きを置いていました。でも、病気をしてからは、夫に支えられないとコンビニにも行けない状態。苦しくて泣いたこともありました。そんな時、熊谷さんが『自立は依存先をたくさん増やすこと』とおっしゃっていたのを耳にして、目からウロコでした。依存はいけないっていうけど、ちょっとずつ増やしていかないと、生きるのが苦しくなるんですよね」(中村さん)

 また、「俗に言う、普通の家庭に育ち、学校もそこそこ楽しんでいた」と話すのは、aktaを切り盛りするジャンジさん。しかし、トランスジェンダーというセクシュアリティもあってか、「自分が自分として、そこにいない感じ」は常にあったという。

「早くから家を出たいと思っていて、新宿二丁目に来て初めて、ほっとする感覚はありましたね。自分らしく居られる場所が、探しても見つからないなら自分でつくろうと思って、性別やセクシュアリティ、国籍を超えて集まれるパーティを企画するようになりました」(ジャンジさん)

 それに対して、親からの深くも重い愛情を受けて、逆に「愛情に殺される」と感じていたという熊谷さん。身体的に介助がない生活は厳しいながらも、1人の開放感を味わいたいと18歳で家を出ることを決意したそう。

「開放感はあったんですけど、依存先が親という1カ所しかないような状態だったので、へその緒を切断したような気持ちでした。ただ、それによって息ができた。外に出たから、いろんな人とつながれました。依存先が少ないと、たとえば暴力を振るわれても逃げ先がないので、いつでもだれでも切れるようにしておいた方がいい。そのため、依存先は増やした方がいい。相反するようですが、自立するためにも依存先は必要になると考えています」(熊谷さん)

 三者三様の経験を踏まえて、「自立せざるを得ない不幸もあれば、自立させてもらえない不幸もある」と伏見さん。

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