『七人の敵がいる』ブックレビュー

母親たちのつながりに依存するPTAという組織、「本当の敵」はどこにいる?

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『七人の敵がいる』(加納朋子、集
英社)

 現在放送中のドラマ『七人の敵がいる!』(フジテレビ系)をご覧になったことはあるだろうか。PTAを舞台にしたワーキングマザーの奮闘記。何に奮闘するかと言えば、理不尽な規律、女性同士特有のしがらみ、傍観者を決め込む男性たち、社会状況が著しく変化しているにも関わらず、全く変わろうとしない組織の実態などなど。しかし多分に昼ドラ的脚色がなされていることもあり、小学生息子を持つ当事者としては見続けるにはちとキツい番組でもある。

 『名前をなくした女神』(同)もそうだが、この手の話は「これだから女ってヤツは……」「ママ友こわいこわい」とか、女に付与されやすいイメージに帰着されがちだ。たぶん、その方がウケるから。ドラマ版『七敵』をトゥーマッチに感じる方は、どうぞこの原作本を。加納朋子著『七人の敵がいる』(集英社)には、女の嫌味と妬みの全面戦争だけでは済まされない、母親とその周辺社会とのヒリヒリする関係が存分に描かれている。

 主人公の陽子は大手出版社のバリキャリ編集者。夫はそこそこ家事や育児にも協力的で、近距離別居の義実家との関係も表面的には良好。目の前の仕事をなぎ倒すように片付けることから、陽子のあだ名は“ブルドーザー女”だ。家事・育児・仕事を持ち前のタフさで乗り切ってきた陽子が、子どもの小学校入学と同時に「PTA役員決め」という洗礼を受ける。そして、働く母たちが喉まで出かかっても決して発することの出来ない一言を吐き出してしまうのだ。

「そもそもPTA役員なんて、専業主婦の方じゃなければ無理じゃありませんか?」

 一般的に「PTA役員決め」では、沈黙を守った者が勝つ。下手に意見を述べれば、自分に火の粉がかかることを出席者全員が認識している。穏便に済ませるべく、保護者会の前にはこんなご丁寧なアンケートが配られるケースが多い。「今年アナタはPTA役員ができますか/できませんか? できない方の理由は何ですか? 今年度できないならできるのはいつですか? 最悪どなたもできない時は公平にクジ引きですよ、クジ引き!」。こんな文言が書かれた紙が、毎年やって来る。そうそう「児童数が少ないんですから、誰でも最低1回はやるんですよ!」という念押しも。

 陽子同様、幼稚園ではなく保育園を経由してきた母たちには、「PTA役員決め」は衝撃的な出来事だ。仕事や何かしらの時間的拘束をされてきた保育園母たちは、どこかで「子どもに十分にかまってあげられていない」という後ろめたさがあり、それが「せめて行事手伝いくらいは……」という気持ちにさせていた。参加しない母たちに対して何とも思わなかったのは、「何か事情があるのでは」と推し量れる仲間意識とともに、自分がいつ何時参加しない母になるやもしれぬという暗黙の了解があったように思う。

 しかし、保護者会及びPTAの役員決めでは、そんな甘えは許してもらえない。相手を慮るどころか、やるかやられるか(この場合はPTA役員)のせめぎ合い。小学校入学でようやくお見送りお迎えから解放されたと思ったら……思いもよらないところに「敵」がいるのだ。

 小学校入学を機に、PTAに代表されるような「任意という名の強制イベント」は、容赦なく母親たちを襲う。だからこその本書のタイトルは『七人の敵がいる』。PTAは1つのシンボルにすぎない。学童保育の保護者イベントでは会長パパの「男のプライド」に、勝手に自治会役員を引き受けてきた夫の「配慮の無さ」に、スポーツ少年団に所属するママたちの「女のネットワーク」に、今まで文句を言うこともなく面倒を見てくれていた義母の「思わぬ本心」に、陽子は戸惑い、怒り、そして立ち向かう。「今までずっと勝気な性格で通ってきて、強気な人生を送ってきて、いざとなれば喧嘩上等くらいの心構えで事に当たってきた陽子」にとって、女たちの「言わないけど察してよ」コミュニケーションも、男たちの的外れな「オレってイクメン」アピールも、理解の範疇の斜め上。もはや不可解な事象でしかない。この物語の面白いところは、陽子がそんな不可解な輩や出来事に真正面からぶつかろうとするところである。

 例えば第2章の「義母義家族は敵である」。陽子曰く義母・敏枝は「きわめて優秀な専業主婦」であり、保育園時代の陽子夫婦は突然のお迎え依頼から巾着類などの作り物に至るまで、おんぶにだっこ状態。「かわいい孫のため」自ら進んで面倒を見てくれているとばかり思い込んでいた陽子に、身内からまさかの攻撃。「お母さんを、あんまりこき使わないでくれる? もうけっこう歳なんだから」。義姉の口を借りて出た義母の本音。察しようとしない=女たちのネットワークに入ろうとしない陽子への、同性からの逆襲である。

 そこで陽子は初めて気付く。「PTAだの父母会だのの話を聞いたとき、母親だからとボランティアを強制されることを理不尽だと感じたものだ。なのに、義母に対しては『おばあちゃんなんだから』とボランティアを強制していた」。あふれる不満に愛情で蓋をさせるという点で、義家族・実家族への託児とPTAは正しく同じ類のもの。自分の中にもそんな「ズルさ」があったと気づいた気付いた陽子は、少しずつ周辺社会との再構築を始めていく。子どもたち同様、母親たちも「小学校」に入学し、友達(ママ友)との付き合いに悩みながら成長するのだ。言ってみればPTAは小学校入学とともに強制的に入らされる部活みたいなもの。仕事があろうが乳児がいようが要介護者がいようが関係ない。それまでの人間関係のひな型は一旦リセットされ、「小学生とその家族」という新たな枠で生きていくことを要請されるのである。

 さて、小学2年生になる息子を抱えた我が家庭。先日、年度初めの役員決めにどうしても出席できず、その旨をとある知り合いに伝えると「大丈夫。今年の役員はほぼ決まってるらしいから」と。なるほど、おくてなママには預かり与り知らぬネットワークにより宇宙の秩序は保たれているのである。「ラッキー」と思う一方で、釈然としない気持ちもある。女同士のコミュニケーションうんぬんではなく、最終的に母親同士のつながりを頼りにせねばならない組織の機能不全に、だ。もちろんそこには、長らくPTAや地域社会の問題を「オレには関係ない」と逃げ続けてきた父親の罪もある。

 専業主婦、働く母、どちらもが、かわいいわが子の健やかなる成長を一番に願っている。本来であれば戦うべき相手ではないはず。もしPTAが両者の関係を結果的に引き裂いているとするなら、こんなに虚しいことはない。しかしPTAの変革を先送りにしているのはほかでもない、「この6年間さえ何事もなく過ぎれば」という親たちの気持ちである。目の前の敵は本当の敵ではないことに気付いた陽子。さて、親たちのラスボスはどこにいる?
(西澤千央)

『七人の敵がいる』

PTA、学童、教師、夫に姑、我が子まで。上司より、取引先より手強いモンスターが次から次へと現れる!? 困惑、当惑、そして笑いと涙の痛快PTAエンターテインメント! ワーキングママ、専業主婦に、育児パパ、そして未来の子持ち候補たち必読小説。

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