『いびられ嫁の復讐』ブックレビュー

万古不易のイビリ連鎖を断ち切る、高らかなる宣言書『いびられ嫁の復讐』

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『いびられ嫁の復讐』(講談社)

 義理とは、人として守るべき正しい道のことを言う。一方で付き合い上しかたなしにする行為のことも言う。結婚して新たにできた家族親族を「義理の~」と表現した日本人は本当に頭が良い。夫の親から見れば「夫に従い、夫の両親を敬う」のが嫁の正しき義理道、嫁にしてみたら「結婚して自動的に加入させられた」義理家族。二つの意味の間をグラグラと揺られながら、ニッポンの嫁姑問題は解決をみることなく先延ばしにされてきたのである。

 とは言うものの、21世紀のこの世。「何このお味噌汁のしょっぱいこと! 私を殺す気かい?」「あ~らお義母さま御免なさ~い。ハイお砂糖」なんてやり取りは、サラリーマンが頭に巻くネクタイぐらいに風化していると思っているそこの貴女! 確かに嫁共感番組『ど~なってるの?!』(フジテレビ系)、姑応援番組『午後は○○おもいッきりテレビ』(日本テレビ系)が終了し、伝統的な嫁姑のやり取りは一時期私たちの視界から消えた。しかし、たとえ『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)が終わっても、積年の恨みツラみがそう簡単にグランドフィナーレを迎えるはずはない。姑の嘆きはAMラジオの人生相談へ場所を移し、嫁の復讐はさらにアングラ化する。その代表格であるのが2ちゃんねるの人気スレ「義実家にしたスカッとするDQ返し」である。

 総書き込み数は22万超え。ネチネチ姑、セクハラ舅、目障り小姑たちからの日常化する嫌がらせに対し、ウルトラC級の返り討ちを果たした嫁たちの武勇伝が日夜綴られている。その一部をコミック化したものが今回紹介する『いびられ嫁の復讐』(講談社)だ。

 新婚旅行についてくる、腐りかけの食品を送りつける、授かった子どもは堕ろせと強要……面白おかしく描かれているものの、姑の鬼の所業たるや想像するだけでもゾッとするものばかり。それに加えて寝込みを襲おうとするハレンチ越えてレイプ魔の舅、嫁を奴隷のようにこき使い罵詈雑言を浴びせかける小姑、さらにはそれら全てを見て見ぬふりする夫(コイツが一番許せんな)が、か弱き嫁に襲いかかる。登場する嫁のほとんどが「これが嫁ぐというもの」と台所の片隅で涙をぬぐう日々を送るのだ。……ある時までは。

 賞味期限ギリ平成のカルピス、ドロドロのホウレンソウ、溶けた大根etc.、イヤゲモノを週一で送ってくる姑。夫に助けを求めるも「好意で送ってくれているものを何だその態度は!!」と逆ギレされる始末。ここで返り討ちのゴングは鳴る。嫁子さん(スレ中の嫁ネーム)はまず「高かったんだから食べてよ、ちゃんと!」とのたまう姑に「いつも高級食材をありがとうございます。貧乏人の私にはもったいないので今後……全部夫に処理させますから」と宣戦布告。それからは自分には普通の食事、夫にはイヤゲモノ食材をふんだんに使った特別料理を提供。逃げた場合は弁当に詰めて会社まで。腹を壊したと訴える夫に「……今まで私が買ってきたもので食中毒なんて起こしたことないんだから、考えなくても分かるよね」と凄む。夫、自業自得。

 ネットという文明の利器を使いこなす世代ならではのハイテクな返しも満載。ICレコーダーは必需品(しかも複数所持)、部屋には隠しカメラ、時には嫁イビリ動画を編集し親族たちにお披露目パーティー。「死ね死ね」うるさい姑に、スタント用のワイヤーを使って自殺を自作自演するツワモノまで。もちろん血のりでのダイイング・メッセージも。駆使するのは機材だけではない。セクハラ舅を撃退するために一本背負いを習得し、姑フレンドたちの前での「あぁお義母さま、殴らないで」という迫真の演技を披露する。もはや”仕返し心技体”。

 こうなると仕返しもエンターテインメントである。もちろん見ている分には、であるが。そして究極の返し技が”緑の紙(りこんとどけ)”。義実家との没交渉、絶縁を得れば勝利(改心はほぼなし)の返り討ちであるが、一方で夫の立ち位置や思考が白日の下に晒されるため最終的に緑の紙に行きつく可能性も高い。夫がそれを望むというよりは、何もしてくれない夫に失望するパターンがほとんど。世の夫たちは妻が夜な夜な2ちゃんに張り付いている時点で危険を察知して欲しいと切に願う。

 ちゃぶ台を囲む3世代家族という、昭和のノスタルジーを求める現代人は多い。しかしあの風景も、嫁たちの相当な我慢の上に成り立っていたはずだ。子育て、夫の世話、親の介護……それが義理=正しい道だと信じて。だからこそ、嫁にも同じことを求める。自分が信じ耐えてきたことを間違いだったなんて、誰も思いたくないもの。そこに現代嫁たちは”DQ返し”という楔を打ち込むのである。この連鎖、ここでくい止めたしと。

 ”DQ返し”により、嫁姑の闘争が終結したかどうかは、ここに登場する嫁たちが姑になるまで分からないだろう。しかし「嫁いびりなんて、絶対しない」と言いきれるか。異なる価値観で生きてきた嫁を受け入れることが出来るのか。本書を読んでスカっとすると同時に、自分が着々と姑に近づいているという事実に少し狼狽するのだ。
(西澤千央)

『いびられ嫁の復讐』(講談社)

嫁いびりは昭和の話ではありません! ネチネチ姑、セクハラ舅、夫も小姑も……。だけど、嫁にはネットという武器があった。「2ちゃんねる」超人気スレッド「義実家にしたスカッとするDQ返し」待望のコミック化!

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