新生児に膣液を塗る、精子で子宮頸がん治癒…背筋も凍るスピリチュアル物件

2017/08/29 20:00

後半は妙に涼しく「もう秋!?」なんて錯覚すら覚えた今年の夏、皆さまはどうお過ごしでしたでしょうか。夏らしいことをした人もそうでない人も、夏の風物詩〈怪談〉で、この季節を締めくくってみてはいかがでしょう。と言っても〈謎物件〉をウオッチングするのが当連載ですから、幽霊や因縁の登場しない〈ふんわり怖い実話オンリー〉ではありますが。

◎第1話「恐怖の菌活…新生児に膣液を塗る」

 トップバッターは、「新生児に母親の膣液を塗る」という、謎の菌活からご紹介しましょう。なぜそんなことをするのかというと、次のような〈仮説〉が元になっているようです。

・普通分娩で生まれる赤ちゃんは、産道(膣)を通る過程で母親の膣内にいる細菌に触れる。それが赤ちゃんの腸内細菌へいい影響を及ぼし、環境へスムーズに順応するための免疫が作られる。
・そのプロセスを経ないで生まれてくる帝王切開の赤ちゃんは不利! じゃあ膣液を塗ってあげればいいんじゃない?

 非常に雑な説明で恐縮ですが、数人の医師が共同で書いたそんな感じの論評が元ネタとなり、海外のごく一部で行われるようになったのが、〈vaginal seeding(膣液の植え付け)〉です。ところがこの処置に科学的根拠はなく、健康効果どころか母親の膣液経由でB群連鎖球菌(通称・溶連菌)や単純ヘルペスウイルス、クラミジア、 淋菌などの病原体に感染する可能性があると、ほかの医師から「待った!」の声が上がっているそう。詳しい内容は、昨年3月に掲載されたヨミドクターの記事「『膣液を新生児に塗りたくる』に医師が待った!」で詳しく紹介されていますので、ご興味のある方はご参照を。

 イルカを立ち会わせる水中出産やら胎児に音を届ける膣内スピーカーやら、海外の育児出産ネタはなんとエクストリームなことよ。なんて半笑いになっていたら……国内にもいたよ、真剣に検討する人が! 帝王切開が予定されているという女性のブログでは、こんな記事がアップされていました。

・膣液を新生児に塗るなんて、ちょっとびっくりするけど、免疫力が上がるなら大切な処置! 
・日本の病院ではやってないから、自分でこっそり筆で膣液を塗るか考え中~。
・予防接種はしないと決めているので、自然に多くの免疫を獲得できるようにしたいんですよね。

〈元看護士〉のプロフィールを、信じたくない発言しか見つけられない! 実行したかどうかは書かれていなかったため不明ですが、産後のバタバタで興味が蒸発したことをお祈りしておきましょう。ほかには、NPO法人日本ホリスティックビューティ協会顧問という肩書を持つ女性のブログにも、同ネタが登場。仮説を引き合いに「じゃあ膣液を新生児になめさせたらどうなるのか? 塗布よりは効果がありそう!」という魔改造案件です。伝言ゲーム的に変なアイデアが上書きされ、さらなる悪魔合体が行われる予感でいっぱいです。

◎第2話「尿や精子が病気を治す!? 珍レメディ」

 「症状をおこすものは、症状を取り去る」という考え方(類似の法則)をベースにして、ある成分を極端に希釈したものを砂糖玉に配合した〈レメディ〉を飲むと、病気が緩和されるという超有名物件ホメオパシー。K2シロップ事件をはじめ(ご存じない方は検索を!)、公立中学校の養護教員が保健室でレメディを生徒に配っていたなどいろいろな出来事がありますが、今回ご紹介したいのは、ぶっとび度500%の〈自作レメディ〉です。

「ホメオパシー的ガン治療??父の尿の膿のレメディー6c手作りしてみました」という記事()をアップしていたのは、自然療法のセミナーなどを行っているホメオパスの女性。末期の膀胱がんである父親の尿からは、膿が排泄されていたといいます。それならば、その膿で作ったレメディを飲めば、体が「こんなに膀胱に膿が溜まっているわ! 排泄してしまわなければ~!」と反応すると考えたホメオパス。さらなる応用編として「鼻くそが出まくるんだったら、鼻くそのレメディーを作ればいいし」「アトピーで皮膚が零れ落ちるんだったら、皮膚のレメディーを作ってもいいです」だそうです。成分がほとんど残っていないほど希釈されているとはいえ、嫌すぎるんですけど。

 排泄物からレメディを作ろうという発想は珍しくないのか、〈夫の精子で作るレメディ〉なる物件もあります。「子宮頚がんを治した方法」というタイトルの記事から、赤字部分だけ抜粋しましょう。

「私の子宮頚がんは、夫の精子を非自己であると認識したため、異タンパクが入ることで細胞が異変を起こし始めたのではないか?とホメオパシーの考え方の基本である『同種の法則』が閃いたのでありました」

 がんの原因は、夫の精子。だから夫の精子のレメディを作ればがんが消えるよね! ということのよう。で、完治したそうです。その他楽天では「般若心教のレメディ」などの販売されていますから。ホメオパシー界も、単体で十分、百鬼夜行状態です。

◎第3話「子どもに断食…もはや虐待行為!」
 お次は『子どもを守る自然な手当』(農文協)で発見した物件です。表紙にレイアウトされているタイトルに加え、「農薬 食品添加物 大気汚染 放射能 ダイオキシンetc環境には不安がいっぱいだから…」というキャッチコピーから掲載されている内容はお察しですが、中でも驚いたのは「子どもの断食」です。

これからの日本で生き残るためには〈放射能物質だけでなく、他のあらゆる有害物質もできるだけからだに取り込まないようにする〉〈あらゆる有害物質を定期的にきちんと解毒、浄化する知識技術習慣〉が必要だからだそうです。ちょっと食べ物を断つつだけで、よくわからない〈有害物質〉とやらが体からきれいさっぱりなくなることそのものが、まず理解できませんけど。同書で紹介されていた子ども断食の方法は次のようなもの。

・1日3食のうち、1食か2食を抜く。食べるのは野菜中心で、穀物は抜く。
・食事のかわりに、果物は好きなだけ食べさせる方法でもOK。デトックス効果の高いにんじんジュースはマスト。
・生の果物を食べながら、空腹時にクレイ(粘土の粉)を果汁や水にまぜて食べさせる方法もある。
・実行は、〈月の満ち欠け〉に合わせて行う習慣をつけるといい。さらに風邪をひいたときは必ず断食。
・断食にあわせて、浣腸を使って腸内洗浄も推奨!

 この記事で指導している断食療法家は「やった子どもとやらない子では、大きくなったときに雲泥の差が出ると思います」と語っていますが、「親にへんな体験をさせられた」という経験値としては確かに突出することでしょう。定期的に、圧倒的な栄養不足にさせられるという点も、成長面で悪い結果にならないといいのですが。

 余談ですが、温熱刺激療法師という山田温子氏の書いた「子どもの手当は妊娠中に始まる」というコラムもひどかった~。「妊娠中養生してもらえたお子さんは、とびきりかわいいです。元気な子は、かわいいのです」。本当にこの界隈って、母乳の子はかわいい! 自然出産の子はかわいい! と型にはめたように同じことを語りますね。きっとこの手の自然派さんって、〈手をかけた達成感がないと、子どもをかわいいと思えない呪い〉にかかっているんじゃないでしょうか。

◎第4話「乳にキャベツ、股にはこんにゃく」

 自然派な〈お手当〉の世界では、乳腺炎になったら〈キャベツ湿布〉というお手当が有名です。キャベツの葉は体を冷やす作用があるので、それを利用しようという話ですが、そもそもの〈冷やす〉ってたぶん食べ物を陰性・陽性で考えるマクロビ的な概念なので、要は科学的根拠なし。それ以前に、キャベツの葉って速攻ぬるくなりませんかね!? 健康被害という点からは、キャベツサラダからリステリア感染症になり死亡した例もあるようですから、乳児が口をつける乳にはりつけるのは、あまりよろしくないと言えるでしょう。

 キャベツ湿布は母乳育児シーンのほか、幼児の発熱時にも活躍しているようで、SNSなどで「#キャベツ湿布」と検索すると、キャベツの葉を帽子のようにかぶせられている子どもの写真がずらっと出てきます。これは正直、畑のコロボックルのようで、ちょっとかわいい。

 母乳育児支援サイトではキャベツのほか、豆腐、サトイモ、糊、ジャガイモなどで湿布する方法も詳しく紹介されています。でも、その一番最後に母乳分泌制御ブレンドなるハーブティ販売のサイトへ誘導されるリンクが張られておりますから、これは食材湿布がたいして効果がないと言っている証拠でしょう。

 食材湿布ではこんにゃくも定番のようで、桃子さんとの対談記事で紹介した『ちつのトリセツ』でも、会陰マッサージをしたあと〈あたためたこんにゃくを股にあてておくとさらに冷えが取れ、生理痛の改善になります〉とありました。トンデモ記事が多いwebサイト「IN YOU」でも、こんにゃく湿布を「体内の毒素を吸い出してくれるとっても優秀なもの」として紹介。「こんにゃく湿布に使ったこんにゃくは体内の毒素をたくさん含んでいるので、使用後は絶対に食べないで!」と注意書きが掲載されていますが、体内の毒素は全く吸収されていないこと間違いなしなので、〈スタッフが美味しくいただきました〉でいいんじゃないでしょうか。

◎番外編1「子どもの利益のために、体罰を!?」

 かの有名な、戸塚ヨットスクールの校長・戸塚宏氏が顧問を務めているといえば、一定の年代以上の人はこの団体が「異常」であることがすぐに分かるでしょうか。「学校教育の場で体罰を禁じたことが、戦後教育の大きな欠陥である」と謳う、体罰の会なるものが存在しています。Q&Aコーナーによると、体罰は教育であり、与える側の心構えとして、頭の中や口で「進歩、進歩」と唱えながら行うとよいと語られています。

 去年は戸塚ヨットスクールが新たにはじめた幼児教育がテレビに登場し、1980年代の死亡事件の頃から、何も変わってない……! と世間をザワつかせました。最近の若い親御さんたちは、きっと「戸塚ヨットスクール」の事件をご存じないのでしょうけど、教育の外注先はよ~く吟味したほうがよさそうです。

◎番外編2「精通を白いケーキで祝おう〜」

 清潔にして病気を予防するために、男児の性器の皮を親の手で早めにむいてあげましょうという〈むきむき体操〉。以前より賛否両論ありますが、メリットデメリットの情報がだいぶまとまってきているように思えます。そこへ、新たな燃料が投下されていました。泌尿器科医の岩室紳也氏の著書『ママもパパも知っておきたい   よくわかるオチンチンの話』(金の星社)に登場した、「男の子に精通があったら、白いケーキでお祝いするのもいいでしょう」という提案です。

 このアドバイスは初潮を赤飯で祝う風習があるのだからという話の流れですが、もちろんネットでは大荒れで、まとめ記事も登場。まとめられたのは2015年でしたから、そろそろ無事にみなさまの記憶から消去されたかしらと思いきや、プレママ雑誌『Pre-mo(プレモ)』 2017年 02 月春号にも掲載されていました。岩室ドクター(もしくは編集部?)、よっぽどこのネタお気に入りなんですか?

◎番外編3「トンデモ有名人らも大暴走中!」

 トンデモ有名人の間でも、新物件は続々発生しています。子宮系女子のトップである子宮委員長はる氏の元夫は、子どもの虫歯ネタが炎上して児童相談所に通報されるという事態に。現在2歳になる子どもの虫歯を気にしてあげているまではよかったのですが、「あらゆるヒーリングと調整を試みてみます」「歯医者に行かずに虫歯を治す方法など詳しい方はコメントくだされ」とブログに書き、ありていに言えば医療ネグレクト状態を披露。元妻の子宮委員長も追い打ちをかけ「虫歯になったって入れ歯も差し歯もある!」「親の責任という宗教だよね!」という記事を書き、結果、児童相談所へ通報された模様です。元夫は「子どもを巻き込むな!」と激オコなご様子でしたが、規格外の子育てをネタにしているあなたたちが、元凶なのですが~。いやほんと、何でもいいから治療してあげてください。

 親が死んだら悲しいよね~大変だよね~と子どもを脅す『ママがおばけになっちゃった』(講談社)が代表作である絵本作家のぶみ氏も、夏の新物件を発表。完全大人目線での作品づくりは相変わらずブレがなく、この夏発売された新作『このママにきーめた!』(サンマーク出版)は〈胎内記憶〉がモチーフです。

 日本における胎内記憶研究の中心人物・池川明医師によると、〈子どもは親を選んで生まれてきた〉〈親を幸せにするために生まれてきた〉とのことですが、虐待を受けても自己責任という理屈になりかねない、反吐が出そうなほど身勝手な理屈です。そういえば、ドラマ化された漫画『あなたのことはそれほど』でも、胎内記憶ネタが登場していました。育児放棄している母親が、「あんたが私を選んだんだから、自己責任だよ!」というような言葉を子どもへ言い放つシーンの醜悪さよ……。いくえみ先生は、気持ち悪い人間を書くのが本当にお上手です。

 独自の経血コントロール術を布教する〈おまたぢから〉考案者・立花杏衣加(たちばな あいか)氏も絶好調です。メルマガによると、自分の親に子どもを預けたらマクドナルドや福島への墓参りに連れて行かれた!と大騒ぎです。

「ショートニングフライの遺伝子組み換えポテトフライに精製塩や調味料アミノ酸などで味つけられたものを食べさせられちゃ困るのよ・・・・。さらに福島へ墓参りに連れてったことにも追い打ち」

とぼやき、3年味噌汁なるものを1日2回1週間くらい飲ませようか、きゅうりときゃべつを3年味噌つけて舐めさせるか、お風呂はエプソム塩で……と思いつく限りの毒素対策をズラズラ(「あいか家事件と線量とケア No218」より)。「おまたはキュッと子宮とおっぱいはふわふわで!」というのが、このメルマガのキメ台詞となっていますが、塩分摂りすぎて頭も価値観もガッチガチって印象です。

 そして最後にトンデモオブトンデモの内海聡医師にご登場いただきましょう。Facebookに投稿していたのは、「星座による、病気のなりやすさ」というロマンチックだかなんだかよくわからない記事。内海氏曰く、「オカルトと片付ける方がオカルトです」とのことですが、こういう医師がいること自体は、間違いなくオカルトでしょう。

 この百鬼夜行報告、本当~に永遠に終わりませんので、本日はこのへんで! いつかトンデモ物件百物語をやりたいものです。同志のみなさま、集まりませんか?

最終更新:2017/08/29 20:00
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