恋愛も結婚もせずに、出産と育児をしたかったんです/『おひとりさま出産』七尾ゆずさんインタビュー【前編】

 交際中の彼氏(フリーター)と「結婚せず」、しかし「出産したい」と望んで妊活&妊娠、出産した一部始終を描いた七尾ゆずさんの実録マンガ『おひとりさま出産』(集英社クリエイティブ)。非婚・少子高齢化が問題視される現代日本の社会背景もあって、一巻発売時から大きな話題を呼びました。二巻では無事出産、三巻では育児の模様が描かれていますが、三巻で特に印象的だったのが、“子の父親”という存在の捉え方でした。

 子の父親であり七尾さんのパートナー・ミウラさんに、七尾さんは何も望みません。扶養を求めるでもなく(そもそも認知すら望みません)、かといって遠ざけるでもなく、互いにとって丁度いい適度な距離感を持って接しています。お二人のような関係がなぜ可能なのか。七尾さんは非婚出産・非婚育児の選択に後悔はないのか。七尾さんご本人にお伺いすべく、インタビューを申し込みました。

(聞き手・下戸山うさこ)

◎恋愛も結婚もずっと違和感を感じていた

――『おひとりさま出産』1巻では、38歳で「子供を産みたい」と決意し、彼氏・ミウラさんを説き伏せての妊活と妊娠成功、「非婚は不幸」という価値観を持つ実家の母の説得などなど、妊娠5カ月までの出来事が描かれていました。2巻では、年収200万以下ながら「出産までに貯金100万」を目標にアルバイト掛け持ち生活に奮闘する姿~緊急帝王切開での出産までが収録されています。そして5月末に発売された3巻では、貯金を切り崩しながらの「おひとりさま育児」生活、自宅で新生児と過ごしつつ漫画を描き投稿する日々が描かれて……3巻のラストは出版社から電話が入るという希望の見えるコマで締められていましたが、この電話こそが、『おひとりさま出産』連載中の「officeYOU」(集英社クリエイティブ)編集部からのものだったのでしょうか?

七尾 まさにそうなんです。娘が生後10カ月のときにこの連載が始まって、今は大体3年くらいになります。

――ということは、今はお子さん(ミライちゃん)は4歳?

七尾 はい、アクティブに生きてます。戦隊モノとか好きで見てますよ。もうご飯の食べこぼしとかもしないですしね、随分楽になりましたね。もうちょっと小さい頃は、本当にご飯の時間が嫌で嫌でしょうがなかった時期がありました(苦笑)、グチャグチャにされるから床に新聞紙を敷いて……。

――ありますよね、食べこぼし掃除問題……ミウラさんもお元気ですか?

七尾 元気なんじゃないですかね、たぶん(笑)。二カ月に一度くらい、うちに来てミライと公園に行ったりしてます。半年会わないこともありますけど。今はフリーではなくどこかで働いているみたいです。

――ミライちゃんは、ミウラさんを「お父さん」って認識している?

七尾 そうですね、「パパ」ですね。一応、ミライのパパは、ミウラひとりなので。私は、特にこれから、誰かと恋愛しようという気もないですし。パパは、今のところ何もしてもらってないですけど(笑)、つまりお金ももらってないし、たまにしか会わないから見せ場みたいなものもないですけど、ミライ的には「パパ大好き」って言ってます。私からミウラの悪口を吹き込んだりとかもしないし(笑)。うちの母は、なんか、父の悪口とかしょっちゅう言ってたんですね。

――離婚されてないし不仲でもなかったのに?

七尾 関西だから、人の悪口を平気で言うのかもしれません。顎が出てりゃポットと言って頭を押す、みたいな悪口を笑い飛ばす文化がありますからね。

――コミュニケーションですね。七尾さんのお父さんって、一巻でほんの少し出てきますが、子供としては「あんなお父さんいないでもいいやん」って感じだったと……。

七尾 父のことも多少描けたらなぁとは思ってるんですけど、今はまだそれじゃないそこじゃない、みたいな。

――なるほど。今日は、七尾さんが出産に際して「結婚」という制度を全然考えなかったのはどうしてか、ということをお伺いしたいのですが、お父さんの影響も少しはあるのかもしれないですね。さて七尾さんが妊娠を希望されたのは38歳の時と描かれていましたが、七尾さん同様に肉体的な出産可能年齢を考慮して「子供が欲しい」と思っている35~40歳前後の女性って大勢いらっしゃると思うんですね。だけど「交際相手がプロポーズしてくれない」とか「経済的に」とかで待ちの姿勢になっていたら、どんどん時間だけが過ぎてゆく。その点、七尾さんは「相手任せ」にするところ、他力本願なところが一切ないですよね。相手、つまりミウラさんが借金持ちで自由人(会社勤めなどしていない)という状態であろうと関係なく、「産むぞ」と自分で決めて着々と実行された。ここで、ミウラさんを七尾さんがどうこうして、変えて、入籍しようとか、そういう思いがよぎったことはなかったんですか?

七尾 ないですね。というのは、私、結婚に対しての幸せイメージとか特になかったんですよ。結婚が幸せだってイメージを自分が持っていたら、ミウラをあれこれ改造して自分の思う幸せイメージに沿った結婚をしようとあくせくしたかもしれませんが、そもそものイメージが特にない。また、幸せかどうかわからないけど、世の中の常識として、「子供を産むなら結婚でしょ」というのがあって、忠実に従わなきゃと思い込んでいたら、あるいは結婚に向けて奔走したかもしれません。出来たと思うんですよ、ミウラの親、彼が一番恐れているお父さんを丸め込めば。でも、それが出来なかった。

そもそも私が「結婚=幸せ」ってプラスのイメージを抱けないのに、「常識だから」ってそれに突き進むことは出来なかったですね。いや本当はずっとね、「結婚して、子供産まなきゃ」って思ってたんですよ。だから「恋愛しなきゃ、結婚しなきゃ」って、手順を踏まないと子供には辿り着けないと思い込んでいたんですけど……。

――けど?

七尾 けど、ある時、別に結婚しなくても、子供産んでもいいんじゃない? って気付いたら、すごいパーッと世界が開けたんですよね。……やっぱり人って、幸せのイメージを抱けない方向に突き進むことって出来ないと思うんですよ。子供欲しいなあ、でも結婚したくない、恋愛も苦手だからそれらをクリアしないといけないなんて憂鬱だなあ、って思ってたんです。でもそういう苦手要素を経ずにやりたいことだけをやってもいいじゃないか、と。

――苦手意識のある恋愛や結婚を省いてしまおう、と。苦手だなあと思いながらなんとか結婚に突入したとしても、上手くいかない可能性高いなって思っちゃいますよね

七尾 そうなんですよね。そこまで無理して結婚しなきゃいけないのかっていうのもあるし。このマンガにもちらっと描いたのですが、遠距離で交際していた男性と「結婚しよう」みたいな感じになったこともあるんですけど、でも、そこでもやっぱり自分が、無意識のうちに結婚を避けたのかもしれません。「このまま遠距離の別居婚なら結婚したいかも!」みたいな言葉でプロポーズにお返事したら、「ハァ? そんなんじゃ結婚する意味ないじゃん!」って断られまして(笑)。

――あははは。向こうからプロポーズしてきたくせに。相手の思ってた結婚は、遠距離別居じゃダメなんですね。

七尾 ていうか、別に「籍を入れる」とかは、全然、今からでもミウラに言われたら「あ、どーぞ」ってなるんですけど……。たぶん多くの人は、結婚ていったら、一緒に住んで、女性が家事して、旦那さんはちゃんと外で働いて、子供作って育てて、みたいな。そういうのが一般的だということは私もわかっていて、その当時の交際相手がそれを望んでプロポーズしたことも理解してたんですけどね。……どうしても、男の人と住んでっていうことにプラスのイメージが抱けないんです。

――それって、20代の時の出来事が影響しているんですか? 第54話で明かされた衝撃の事実に、いち読者としてびっくりしました。交際した男性に暴力を受けて、軟禁状態から命からがら逃げ出したという内容の告白で。

七尾 そうですね、それが多分、影響しているんだろうなぁと思うんですよね、やっぱり(笑)。まあ、ああいう経験もあったので、どこか男の人と同じ家に住むのって怖いんですよね。子供を産んでから思ったんですけど、これから恋愛しなくていいと思ったら私すっごい、嬉しいんですよ。

――ああ、なんとなくわかります。

七尾 そう、だから、男の人と一緒に住んで、女として生きなくていいっていうことは、いやそれはあくまでも女としての「一部分」の要素でしかないですけど、一部分だけど、それをしなくていいっていうのが、解放されたって感じですかね。

――恋愛市場にいなくていいっていう点でも。

七尾 そうですね。やっぱり、どっちかっていうと、男の人と距離をとっていたいっていうか。いつでも逃げられる状態にしておきたいと言うのかなぁ、なんだろう、どうしても男の人とのべったりした関係は危険なことのような、危険に首突っ込みたくないみたいな……どうしても、男の人との関係において、そう思っちゃうんですよねぇ。

◎結婚を回避して良かったケース

――ミウラさんとは、妊娠決断の前から3~4年交際されてきたんですよね。

七尾 そうですね、そのくらいになりますかね。

――一緒に暮らしてはいないんだけども、家に招いたりはできるし、ある程度、ミウラさんのことを信用されているのかなと感じたんですが。

七尾 でも私、ミウラを信用はしてないと思うんですよ。

――ほぉ! ま、借金も増やしてますしね。

七尾 そうですね。子供を産んでから、子供に対する愛情と男の人に対する愛情が全然違うっていうのかな。

――種類が?

七尾 そうですね、種類が。あ、これが愛情っていうもんだったんだ! って。

――それまでの、男の人との関係で七尾さんが愛情と錯覚していたものは、何だったんでしょう?

七尾 うーん、でも、恋愛は出来たんですよ、「恋」というものですか? ドキドキしたり、楽しいな、一緒にいたい、とか。幸せというか。でも、男の人と付き合いだして感じる幸せって、初めてセックスした後の2~3時間。

――2~3時間! 短い!

七尾 そう、その間くらいしか、幸せって感じることがなくて、あとは、「この人、どういう人かな」ってずーっと疑って見て……男性不信ってやつなんですかね。この人、どういう人なんだろう、って、それを始めなきゃいけないんですよ、男の人と付き合ったら。なぜなら、私は大きな間違いを男で起こしてるので……。その、暴力を受けていたっていう。

で、男性への愛情表現としては、ミウラに対しても私はちゃんと、浮気もしないし、家に来たらお茶のひとつも入れさせたことないし、普通に、一般的に義務として、お付き合いする上で、正当なことをちゃんとしてると思ってたんですけど。それが、恋愛であり、愛情だと思ってたんですけど。

子供が産まれて、あ、そうじゃないんだっていう風に思いましたね。あ、私は男の人のことを愛してなかったんだ、と。ミウラのことも信用なんかしてないし、これは愛じゃなかったんだと。そう、だから、申し訳ないな、と。

──35歳を過ぎて、結婚はしてないけど、赤ちゃんは欲しい、どうしたらいいんだろうって状況の人は少なくないと思うのですが、七尾さんの場合は、男の人との相性が悪かったので、そういう道を選択せざるを得なかったというか、無意識にそっちを選んだと。

七尾 そうですね、多分、今、未婚率がすごく高くて、恋愛に対してそんなに、私のように積極的に思えない人は多いんじゃないかなぁと思って。私も恋愛して、結婚して、出産だと思ってたけど、この恋愛部分がうまく出来ない人間だったので、それでも子供が欲しいってなったときに、ここ(結婚)を飛ばしちゃったんですよね。

――馬力が出た!

七尾 そうですね、恋愛を幸せだと感じられない人、本当は、多いんじゃないかぁと思うんですけど、ま、でも、恋愛のドキドキとか恋は10代のときからあったけれど。あの、私の貧乏シングルマザーな状況を見て「なんでわざわざ、しんどい方にいくの?」とか言われることもあるんですけど、私は自分が幸せと思える方向を選んだんですよね……。でももちろん、結婚に幸せなイメージを持ってて男性とちゃんと愛し合ってその結果として子供が欲しいと思ってる女性にとっては、相手の事情とかで結婚せずに産むのって、きっととてもツライことだと思うんですけど、私は結婚を幸せだと思ってないし、むしろマイナスイメージすら持ってるから、そこを避けた方が幸せ。っていう風にね……。

――マイナスイメージというのは、例えばどういうことですか?

七尾 そうですね……男女間にマイナスイメージを抱いてしまうのは、自分でコントロールできる部分ではないんですよね。一般的に女が家事・子育てを背負うところが大きいとかは充分マイナスですけど、結婚しないってほどの大きなものではないと思うんですよ。やっぱり、過去のことがあって、恐怖心なんだと思います。それで結局、そのおかげというか、結婚しなかったんだけど、結婚しないという選択は今、正解だったなぁと思ってます。もしミウラと結婚してたら……。

――もし、そうなってたら?

七尾 私は借金もしないし、ちゃんと働いてつましく身の丈で生きていくけど、あの人はそれが出来ないので、今も借金ありますし、それを私が全部背負わなくちゃいけなくなって……。

――そうなりますよね、結婚ってそういうことですもんね、連帯保証人的なね……。

七尾 そう、だから、それを結果的に背負わなくてよかったから、今、ミウラに対しても、優しくできる。もしあれで結婚して一緒に住んで、家計を一緒にしてたら、私ボロカスに言ってると思います。

――そうですね、一緒に住んで夫と妻、父と母なのに、半年ふらっといないとかお金を家に入れないとか…

七尾 まぁ、半年ふらっといないのは別にいいんですけど。

――別にいいんだ(笑)。

七尾 そんなのは別に、帰ってこないとかは、そんなのはいいですけど、結局、借金を背負って、私、そんな借金して我慢できるタチじゃないので、ちゃんと返そうと一生懸命しちゃうから。

――それですごいストレスになってたでしょうね。

七尾 ……貧乏でも、楽しく生きていける2人だったらいいと思うんですけど、ミウラというマイナス要因がきちゃうと、貧乏から貧困に一気に落ちちゃう。結婚って、相手を背負う事でもありますからね。そうなると、娘にまで貧困が及んじゃう。

――そこで、ミウラさんじゃない男の人に乗っかろうみたいな発想もなかった?

七尾 ない。だって、恋愛しないことで、清々としてるのに。

――恋愛っていうか、お金持ちの男の人に寄生するっていう「女のやり方」です。

七尾 いやー私は能力が、低いんですよ。そこらへん。恋愛能力が。

――誘惑するみたいな能力とか、その気にさせるみたいな能力が?

七尾 絶対ない! 全然ない! そういう能力が高い人いるじゃないですか、恋愛で男性をその気にさせる能力。その一方で、全然何年も、ずっと彼女がいませんとか、彼氏がいないとか、恋愛の能力が低い人。私、完全に後者なんです。恋愛の匂いとか、ミライが生まれて4年も経ちますけど、全く、微塵も。

――ミウラさんとは、子作り以降、カップルっぽいことはしていないんですか?

七尾 してないですね。

――もう、作ってくれたから、いいよ、みたいな?

七尾 う~ん、なんだろう、自然とこうなったみたいな。自然とこう積み重なって……。

――ミウラさんがたまにおうちに来た時に、グイグイくることって。

七尾 ない。ハグされたりはあったけど。こっちはね、「なにやってんだよ」とか思いながら。

──ミウラさんに彼女の存在は感じない?

七尾 感じないですけど。でも、私、本当に何してるのか知らないので。

――知らないし、興味もない?

七尾 興味があった頃もあったけど、一人で子育てしていると大変なこともたくさんあって、子育てに熱中すればするほど、ミウラに対して、そういう風な感情を抱けないというか。

――七尾さんが熱出して倒れた時にミウラさんに、「ちょっと今倒れてるから、でも子供は元気だから、世話しに来てもらえないか」とかそういう電話やメールしたりは?

七尾 仕事が忙しい時に「今度の日曜日に仕事しなくちゃいけないんですけど、来れないですかねぇ」みたいなことを言ったことはあります。ごくたまーに、時間のあったときに来てくれたことはありましたけど、断られたことも結構あるし。最初の頃は、多少、助けてくれるんじゃないかっていう期待が自分の中にあったんでしょうね

――そりゃ、そう思いますよね、不仲なわけじゃないし。

七尾 そうですね、今はミライとコミュニケーションとってくれるだけで、それでいいやと思ってますけど。あれですね、寝込んだ時とかに母に「ほんまにアカンようになったら、言うたら行くからな」とは言われてます。

――関西から。

七尾 そうですね、でも今のところ入院するとかまで体調を崩したこともないし、ヘルプせずに済んでますね。

――妊娠中にめちゃくちゃバリバリとアルバイトをされていたのにも驚いたのですが、丈夫ですよね。産後4年間も本格的に体調崩されたことはなかったんですか?

七尾 ないですね。産褥期は母が一カ月まるまる手伝いに来てくれたので休めましたし、その後は保育園で流行ってる病気を娘からもらったり、具体的には手足口病で口内炎になって、水飲めないとか、そんなんはありましたけど、その程度で。入院したりとか、自分で面倒見れない程のことはないです。ありがたい。

◎認知を望まない理由

――3巻で、私が一番格好いいと思ったのは、テニスのお蝶婦人のコスプレをした「ヨーコさん」というキャラクターとの「認知」をめぐるやりとりです。「認知は金が絡むとな、必要なんや!」と、ヨーコさんが切々と説いてらっしゃいますけれども、つまり認知って相続に関する話なんですよね。

七尾 そうですね。私、なんで認知しなくちゃいけないのかっていうのが、イマイチよくわかんなくて。大体、相続の件と出生がきちんとわかるっていう二つの二本柱のようで……。でも、別に誰が父親かミライに隠すつもりもないし。

――会ってるし。

七尾 うん、国に証明してもらう必要はないんです。相続に関しても、もともと相続ってものが、遺産残す人の意思で……よくあるじゃないですか、骨肉の遺産争いが殺人事件に発展したり。子供同士が争ったり、愛人が出来てそっちに金がいくとか。

――実は愛人の子がいる! とか。

七尾 そうそう、なんか新しく、年取って嫁さんもらって「納得できない!あいつは遺産目当てなのよ!」とか。別に、年取った親が新しい女の人にお金をあげたければ、あげればいいんじゃないの? と思っちゃうんで。財産を作った人の意思ですればいいものであって、子供の権利である必要はないのではと、思ったり、これは勝手な意見なんですけど、そんなもんアテにするなよ、と思っちゃうところがあって。ただ、商売されてる方は違うと思うんですよ。

――そうですね、この店は誰が継ぐ、みたいな。

七尾 そうそう、でもそうじゃなかったら、好きにしたらいいんじゃないの? って。だから、ミウラがミライに、遺す遺産がもし今後あって、もし!

__もし! 逆転があってね。

七尾 何かこれからの人生で逆転があって、ミウラに遺産が出来たとして、ミライに残したいと思ったら、残せばいいものであって、と思っちゃったり……。でも、今のところ借金しかないですし。それに、認知するってなったら、ミウラが一番恐れている彼の親に、子供を作ったことがバレてしまうかもしれないんですよね。

認知にメリットがあるかな? って思うと、ない。相続でしょ? 誰が父親か教えてくれってことでしょ? 両方とも、私にとってそんなに魅力的な話じゃないし。それと感情の面が乗ってくると思うんですよ。私はこの人の子供産んだのに、あの人は知らんぷりしてみたいな。認知さえしないの? みたいな、私バカにされてる! とか、踏みにじられてる? といった感情面で「認知」を求めるとか。私とミウラの関係の場合、そこら辺がないので。

――結婚や認知をしてくれないから私なんて愛されてないのねウワァーン、みたいな感情の動きはないわけで。

七尾 ないない(笑)。

――あと感情の面でいうと、戸籍の父親の欄が空欄なんて、みたいな? 世間的なね。

七尾 ね。ただ、空欄で子供が悲しいっていうのは、自分のルーツがわかんないってことだと思うんですよね。大体今まで認知しないっていったら、不倫とか、不倫じゃなくても、相手が、子供が産まれたことに対してよく思ってないケースがイメージされるじゃないですか。子供のこと認めたくない、責任持ちたくない、とか。ま、ミウラもそうですけどね、責任持たないというところでは。でも子供のこと認めてるしかわいいみたいだし。それで、そういう感情の、多分、こじれにこじれて、お互いの関係も悪くなって、二度と会わない、もうあんな父親。お父さんのことなんかしゃべりたくないとか、あんなロクデナシと関わる必要はないとか、そういう色んなドロドロした感情が乗ってるから……空欄というのには、そういういろんな意味が詰まってるんだと思うんですけど。私の場合はそこらへんが乗ってないので、空欄を埋めなきゃならないとは思えないんですよね。

◎もし「パパがほしい」と言われたら

――ミウラさんが家にやって来るとき、ミライちゃんと二人で何やってるんですか? どんな風に遊んでるんですか?

七尾 どんな風に? 普通にボールで遊んだり。公園行ったり。まるで親のようなこと言ってますよ。単身赴任……単身赴任の人はもっと会うか。会えないパパにたまに会うくらいのノリで、娘のほうが「パパ好きー」っていくので、ミウラにしても普通に「お~、いい子にしてたか~」みたいな、「ちゃんとご飯食べてるか~」「ダメだじょー、ママのいう事聞かなきゃ~」とか。まるでパパのような。パパだけど。そういう感じで、ひとりで産んでますけど、結婚して、円満離婚された方と同じような感じなのかなーと思うんですよね、そのあたり。

――ミウラさんは七尾さんのこと、どう思ってるんだろうって、思いました。

七尾 どうなんでしょうね、私も不思議なんですよね。でも、強引に言ったら断れないタイプだと思うんですよ。ひとりで産みたいっていうのも断れなかったし。どっかのお店で「これをもうひとつ買うと、これもついてきますよ」とか交渉されたらあっさり買わされちゃうタイプなんですよ。え、なんで?みたいな。

――いらないよね、みたいな。お人よしなのかなぁ。失礼ですけど、ミウラさんを主夫として養うっていう選択肢は頭をよぎりました?

七尾 いや~結婚したくないしさっきの借金の話もあるからまず考えなかったですけど(笑)、でも、思いますよね。主婦が「あーあ私にも奥さんがいたらいいな」ってよく言うけど、確かにそりゃいいわって。ご飯作って、子供のお世話してくれて。うーん、でも考えたことなかったなぁ~貧乏だし。私が養うの? ミウラを? ミウラは何も出来ないしな。家事? 育児? 洗濯? 絶対私がする! ってなっちゃう(笑)。でも、もったいないと思うのは、男の人って育児にあんまり参加しないイメージがあるけど、それを男の仕事じゃないとして除外しちゃうのは、絶対もったいないなぁと思って。子供と接してたら、楽しいこと、幸せなことがいっぱいあるのに、その旨みを女の人しか味わえないってもったいないですよ。

私は子供が産まれて、一緒に生きることが出来て、本当に「あ~なんて産んで良かったんだぁ」って思ってるんで。こんな幸せな気持ちを、男の人にも感じて欲しいです。まぁ、でも、ミウラを養って主夫業をしてもらうというのはないですねぇ。……彼だって彼の人生を生きたいでしょうし、押し付けるのは失礼ですしね。人の人生に口出しするのもよくないし、苦手というか、下手なので。

──ここから先、ミライちゃんがママである七尾さんの結婚や再婚を望むようなことがあったらどうですか? たとえばミライちゃんが「お父さんがほしい」と。そしてミウラさんが「ごめん俺結婚するから、もうミライのパパは出来ないわ」となったとしたら。

七尾 ああ、そうなったら、私は恋愛はする気はないので、もうそこら辺はすいませんっていうしか。 戸籍上、何も証明するものがないわけですし。でもですよ、仮に戸籍に証明してもらって、「戸籍上はミライのパパだから、会いに来なさいよ」って言ったって意味はないですよね。

――言ったって、来ないものは来ないですからね。

七尾 そうそう、それはもう、ミライにごめんねって正直に言うしかないです。でもそれは多分、結婚して離婚されてる方も同じだと思うんですよ。

――個人の事情を話すのも恐縮なんですが、私は離婚して子供を育ててるんですけど、子供は「パパはいつも仕事が忙しいので、違うところに住んでいます」って認識してるんですよ。父子はわりとしょっちゅう会っていて、会えば普通にしゃべってるんで、まあ単身赴任の父親みたいな形なんです。離婚していることはまだ子供に説明できていなくて、というのも「なんでパパとママは喧嘩してないのに、一緒に暮らせないの?」ってなっても、今は理解してもらうことが難しいのかなと思って。だから「パパは常に仕事場にいる人」みたいなことになっています。

七尾 ああ、うちも「お仕事忙しいんだ~パパ、でもね、ミライに会いたいって言ってるよ~」とか言って。

――そうすると、パパはパパだっていう認識だから、他のパパが欲しいとか、新しいパパがほしい的な感じは、今のところはうちはないのですが。七尾さんのところもそうなのかなって。

七尾 そうですね、うん。まあ私は恋愛も男性も苦手ですけど、未来に関しては男の人に対して悪い感情、パパに対して悪い感情を抱かずに、ちゃんと円満に育てていきたいなと思うんです。

――この先、ミウラさんが姿を消す可能性もあるなと思うんですけど(苦笑)、借金が膨らんじゃってとか。

七尾 失踪しちゃう、あり得る、あり得る。その時は、そう言うしか。パパはね、海外に行っちゃったんだよ、とか言いますかね。

――将来的に、ミライちゃんもこの漫画読めば、いろいろ納得すると思います。

七尾 どうだろう、漫画読ませるかなぁ。DVとか描いたから読ませたくないです。

――バレますよ、だって、家に置いてありますよね。

七尾 はい、ミライの前で仕事やってます、狭い部屋なので。

――もう間もなく、文字を認識し、これは絵があるぞ、面白そうだぞって興味持つかも。小学生くらいになったら完全に読めちゃう。

七尾 考えてないんですよねぇ、ママがどんな漫画を描いてるって言うかとか。

――うーん、一条ゆかりとかにしますか。ママはね、こんな華麗な。

七尾 その割には貧乏アパートだね、みたいな(笑)。

<インタビュー後編では切実なお金の問題に迫ります!>

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