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 その映画のHPやチラシには「本作品には制作過程において検討を重ねました結果、この問題に迫るため誤解を恐れずあえて過酷な描写をしたシーンがございます」とあり、メディア関係者向けに行われた試写会では、事前に「気分が悪くなった人は退室を」と伝えられ、そうなった人の相談に乗るべく精神科医が待機していたと聞きます。

 映画『月光』が、先週末に公開されました。性暴力を圧倒的なリアリティでもって描き、それがいかにして被害者の尊厳、希望、生きる意味……というより「生」そのものを打ち砕くかをあぶり出す作品として、公開前から大きな話題を呼んでいました。「過酷な描写をしたシーン」とは、性暴力シーンにほかなりません。あいまいな表現で「何が行われていたか」を観る側に想像させるのでもなく、何かのメタファーでそれを伝えるでもなく、正面きってレイプシーンをスクリーンに映し出す。しかもそれは、観た人が心身のバランスを壊すほどの迫力。見ておかなければという気持ちと、見るのが怖いという気持ちが私のなかで拮抗しましたが、見ようと決めたのは、誤解を恐れずにいうと、そのレイプシーンに興味があったからです。

◎強姦された女性は喜ぶ、というファンタジー

 かつて、「フィクションで描かれる『性犯罪』はどうあるべきか、どう受け取るべきか」というコラムを書きました。レイプシーンが含まれる映像作品は少なくはありません。一般映画では数が限られますが、AVや成人映画にはゴロゴロ転がっています。もちろん、描かれる意味は対照的です。性暴力をこの世で最も卑劣かつ醜悪な犯罪のひとつとして描くか、その暴力をファンタジー化して観る人の性的興奮を喚起するか。

 ファンタジー化とは「抵抗していたオンナも、突っ込みさえすれば喜びだす」というもので、女性には信じがたいものですが、エンタメとして(つまり成人映画やAVで)描かれる性暴力シーンは多くがこれに当たります。この手の鬼畜ジャンルを好む人も、「現実とファンタジーの区別くらいつくよ~」と反論するかもしれませんが、そう言い切れない人もいるのではないでしょうか? 女性を被害者ではなく、レイプを肯定する共犯者にしてしまうという意味でも非常に罪深いです。なかには、ガチのレイプシーン……女性が快感を得ることもないまま傷つけられ貶められるのを観て興奮する人もいるでしょう。人の性嗜好はそれぞれですし、この嗜好を持つ=性犯罪者ではありませんが、それでも私はソチラの方々と人間的なおつき合いをしたいとは思いません。

 映画『月光』で描かれる性暴は、2人の女性に対して行われるものです。思いもかけない人物からある日突然ふるわれる性暴力、日常的にくり返される性虐待。ですが、ほかにも「この人も被害に遭っている/遭っていたのでは」と思わされる女性らが登場します。夫が娘に性虐待をしていることを知っている女性も、本来なら娘を救わなければならない立場ではありますが、自身が性的に傷つけられた被害者でもあります。夫が若い女性とばかり浮気をしている妻も、性的に傷ついています。

 この映画の女性たちは「自分で自分を大切にする」「それができてはじめて、他者にやさしくできる」という、人が社会で生きていくための根源となる感情が欠けています。一体、誰に奪われたのか。暴力を受けている最中のことがフラッシュバックし恐怖に泣き叫ぶ人は苦しみのただ中にあると一見してわかりますが、みずからの傷に気づくこともないまま自尊心を欠如させている女性もいて、その苦しみもまた一言では語り尽くせないことが伝わってきます。

◎レイプシーンのおぞましさ

 肝心の性暴行シーンは、誤解を恐れずにいうと(とこの記事で書くのは2度目ですが)、安心しました。なぜなら、そこにはおぞましさしかなかったからです。ファンタジー化も消費要素も赦しも一切なく(赦しについては前述の記事で触れました)、脚色をしてことさらドラマを加えるのでもなく、ただただその残酷さを切り取っています。私たちはレイプという性犯罪に恐怖しますが、それが娯楽として消費されることにも恐怖しているのだと気づきました。

 そのリアルさゆえに、レイプ被害を疑似体験(人によっては追体験)してしまい、心身に異常をきたす人がいるのも納得です。加害男性から圧倒的な悪が漏れ出ているわけでもなく、むしろ「俺がこうするのは当然のこと」「だってお前ら女は、俺らにこうされるための存在だから」といわんばかりの態度で女性を犯している様子に、絶望を感じました。

 性犯罪がテーマになると、必ず女性の落ち度をあげつらう自己責任主義者がワラワラと出てきますが、彼らはこのシーンを見て「だって彼女たちは抵抗していないじゃないか」「ほんとうにイヤなら、もっと抵抗するはず」というかもしれません。でも、肉体以上に心を殺されてしまった女性に、抵抗という大きなエネルギーを要するリアクションが、どうやったらできるというのでしょう? 暴行のさなかに殺されてしまった心は、その後も何度も何度も殺されます。性被害は「魂の殺人」であることはだいぶ知られるようになってきましたが、「魂の、くり返される殺人」であると付け加える必要があると感じました。

 映画には終わりがありますが、「それでも生きていく」と決めた彼女たちの人生には終わりがありません。エンドロールを見ながら、何度も何度も心と体に振り下ろされる刃(やいば)から一日も早く救済されることを祈らずにはいられませんでした。

■桃子/オトナのオモチャ約200種を所有し、それらを試しては、使用感をブログにつづるとともに、グッズを使ったラブコミュニケーションの楽しさを発信中。著書『今夜、コレを試します(OL桃子のオモチャ日記)』ブックマン社。

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