対等な女性を見ると萎えてきて弱い女性に興奮します

◎枡野浩一 神様がくれたインポ/第六回
対等な女性を見ると萎えてきて弱い女性に興奮します

 セブンイレブンの「なめらか濃厚プリン」を朝食として喉に流しこみながら、ゆうべ自分で豆から淹れたコーヒーを電子レンジであたため直してから飲み、体調はだいぶマシになったけれど鼻がつまっていて頭がうまく回らないことを自覚しました。またシメキリです。ひらがなの「め」は出ないのにカタカナだとシメキリと書けるのはなぜなんだろうか。

 私の鼻がつまりがちなのは子供のころからです。「ふつうのひとは、かぜのときしか、はなをかまないのよ」と母に言われたときは衝撃でした。母のセリフがひらがななのは子供のころ、漢字の書き取りが苦手だったからです。耳鼻科にはだいぶ長い期間通い続け、大してよくなりませんでした。成人後に鼻の中の粘膜をレーザーで焼いたこともあります。「あなたは鼻のあなが曲がっているから奥のほうが焼けない」と怒られてしまいました。その上、鼻の通りはよくなりませんでした。

 呼吸がうまくできないと脳の血液に必要な酸素が不足し、集中力が落ちるそうです。思考が散漫なのはそのせいもあるのでしょうか。

 むかしオウム真理教というカルト宗教に興味を持ったことがあります。信者になった高学歴の男性が、「子供のころから悩まされた鼻炎がオウム真理教の教祖の教えによって一発で治った」と雑誌で語っていたからです。「鼻のあなから口まで細いヒモを通して粘膜をしごく」という方法だそうです。何度かチャレンジしてみたのですが通すのも無理でした。新宿二丁目のバーで仕事柄カテーテルをつかっているという女性が、わざわざ新品のカテーテルを一本プレゼントしてくれて、それをだましだまし鼻のあなに通してみたらわりと奥まで通せたけど口から出すのは無理でした。

 テクノミュージシャンの石野卓球さんにインタビューしたときその話をしたら、「そんな行為をするくらいなら俺は一生鼻づまりであることを選ぶ」と言われました。男らしい。

《仕事柄AV業界の方とお話することがよくありますが、酒を一滴も飲めないのに女の子とセックスするのが大好きで大好きでしょうがない、というAV男優を二人、知っています。二人とも、三十歳くらいに見える若々しい容姿で筋肉質で(鍛えているらしい)、肌の色も黒めです。》

 編集長から熱いメッセージが届いていました。編集長の体調はいかがでしょうか。三十歳くらいに見えるということは、実際はそれよりは年上なのでしょう。私も四十七歳には見られません。考えてみれば四十七歳なのだからインポなのは当たり前なのかもしれない。どこかで自分はまだまだ若いと思ってるのか。薄暗いバーでは二十代にまちがわれることすらあり、年齢を言うのがめんどうくさいです。

 「実際より若く見える」ということは「本当は歳をとっている」ということです。世間では本当の年齢にしか価値がない。なぜなら人は「世代が近くて共通の話題があるかどうか」とか「賞味期限内か」とか、そういうことをはかるために年齢を知りたいだけなのです。暗がりで二十代だと思われたり、サングラスをかけてファミリーマートで缶ビールを買おうとしたら未成年とまちがわれて身分証を求められたりした四十代に用はないのです。

 先週の原稿を書き上げた木曜日の深夜、新宿二丁目のバーで男前のゲイ男子と話をしました。「のぞきが好きな枡野さんは自分の肉体に自信がないんでは。鍛えたりしたら、やることに興味持てるんでは」と言われました。

 それはそうかもしれません。酒を一滴も飲めないのに女の子とセックスするのが大好きで大好きでしょうがない男なら鍛えるのかも。男の子とセックスするのが大好きで大好きでしょうがない男も鍛えるのかも。男前ゲイ男子は話し方も男らしく、ワイシャツを腕まくりしてビールを飲んでいて、筋肉質なのは鍛えているからなのだろうと想像がつきました。

 私の知るかぎりゲイ男子はマッチョです。男っぽさに価値があることを知っているから。ゲイではない男は社会人になって数年たつと、「スポーツをやっていた学生時代はたくましかったんだろう」的な体型になりがちなのに、わりと年齢を重ねても勤勉にジムに通っている。世間の人がイメージする「女っぽいゲイ」も当然いますが、私の知り合いのゲイは肉体的にも精神的にも私よりマッチョな人が多い。単に「恋愛対象が同性」なだけ。男男した男。

 そのバーで私は二村ヒトシさんにプレゼントされたタイトな黒いセーターを着ていました。筋肉がないことは一目瞭然だったのでしょう。じつは八年くらい前に加圧トレーニングに通い、一時的に筋肉質になっていたことはめんどうなので話しませんでした。週に一回。一回につき一万円もかかるトレーニングでした。指導員がけっこう活躍中の格闘家だったりハンドボール選手だったりしました。エグザイルに加入してもおかしくない彼らのカチカチの筋肉には目が釘づけでした。会費が払えなくなって退会しました。のちにジム自体がつぶれてしまったと風の噂に聞きました。

 加圧トレーニングをしていると言ったら、アダルトビデオ界隈の仕事をしている生粋のスポーツマンに鼻で笑われたことがあります。「加圧という人工的な手法で鍛える」という行為を見下す価値観があるのでしょうか。そもそも球技や格闘技などもやらないのに筋トレをするということ自体、恥ずかしいこととされているのかもしれません。新宿二丁目でも筋トレでつくった筋肉を「養殖」と称して下に見る文化があるようです。生まれつきの美人を尊び整形美人を馬鹿にする意識ですか。その感じ方のマッチョさにもう私は疲れます。

《1回目から通読してみると、成長過程で女性へのトラウマが潜在的に植えつけられたような気もします。私には姉妹がいないんですが、そこは全く同じで、兄貴がほしいという願望も全く同じでした。そしてそれは同性愛的な要素を含んでいました。》

 そんなコメントが前回の原稿に付けられています。フェミズニズムで語られるところのいわゆる「ホモソーシャル」は、同性愛嫌悪と女性嫌悪をあわせ持つとされています。が、《別にホモソーシャルはホモセクシャルと対立するわけではなくてその境界は曖昧である》と、作家の小谷野敦さんが2011年7月15日のブログ『猫を償うに猫をもってせよ』に書いていました。女性嫌悪を持つのは、ホモソーシャルのさなかにいる異性愛の男だけでなく、ホモセクシャルつまり同性愛の男もではないか。という指摘と私は読みました。

 私は女嫌いなのかもしれません。鼻づまりのせいで姉の意地悪をまた思いだしました。

 中学生くらいのころだったでしょうか。私は眠る前にふとんの上で「鼻の通りをよくする体操」というのをやっていました。何かの雑誌に書いてあったもので、あおむけに寝て足を高く上げたり下げたり、みたいな動作。男が自分のあれをくわえてみようとするときがありますが、そういうポーズもやります。それをたまたま目撃した姉は「そんなことで運動の代わりになると思ったら大まちがいなんだからね」と言いました。運動の代わりになるなんて思ってもいなかったのですが。鼻がつまって苦しいからやっていたのですが。昔から「痛くない腹をさぐられる」経験が多くて、そのたびに悲しい気持ちになりました。

 私はのちに『僕は運動おんち』という小説を書いたほど運動が苦手です。姉だけが父に似てスポーツ万能でした。姉は入院して学校を長く休んでいたことがありますが、その時期も体育は五段階評価の四だったそうです。私は一回も休まなくても体育は二しか貰ったことがない。体育が二でも長期療養していないことの有り難さ、それを実感するのは大人になってからです。当時は長期療養して体育を休みたかった。体育の時間は頭の中で数字を数えて一秒一秒が過ぎるのを待ちました。「体育は遊びだから楽しみだ」と無邪気に喜んでいる、将来エグザイルになっていく同級生のことがうらやましくてなりませんでした。

 運動神経が私寄りだった妹とは気が合います。あ、前回、妹が私のことを「お兄様」と呼んでいることを書きました。私が頼んでそうしているわけではありません。子供のころ妹は私を「おにい」と呼んでいました。ある時期から「お兄様」に切り替わったのは半分はシャレだったのだろうと想像しています。半分は優しさ。『僕は運動おんち』で主人公のことを主人公の妹がお兄様と呼ぶのが嘘くさいと、たくさんの人に言われましたが、お兄様と呼ぶ妹は実在します。嘘くさい運動おんちのエピソードもほぼ全部が実話でした。あれがでかいというところはフィクションです。

 さきほどのコメントには続きがあります。

《枡野さんもEXILEに交じって乱交願望と書かれていますが、もしかしてEXILEに輪姦されたい願望が潜在的にあるのでは? お気を悪くされたら申し訳ありません。》

 いえ、まったく気を悪くしません。このあいだ二村ヒトシ監督と公開で話したときも似たようなことを言われました。枡野さんはエグザイルたちと輪姦する妄想の中で、エグザイル兄貴たちに対して興奮しているの? と。そういうふうに言われると違和感があります。

 昔から物腰がやわらかく「女みたい」「女の腐ったようなやつ」と言われ続けて成長した私ですが、自分のことを同性愛者だと思わなかったのは、自分を慰めるときイメージするのが女性のおっぱいだったりしたからです。

 この連載を始める日、もう女性にモテることは金輪際あきらめる覚悟を決めたから正直に言いますが、私は女性がかわいそうな目にあっていると興奮します。しあわせそうな女性を見るとしょんぼりします。精神の根底において「女は自分より強くて怖い存在だ」と感じているらしく、せめて性的ファンタジーの中だけでも女を下に見たいのだと思います。

 もっともっと若かったころは「自分が女に虐げられる」というイメージでも興奮しました。男女が対等であるようなイメージだと萎えます。力関係の上下がないとだめなのです。

 力関係の上下がないと立たない話に関しては、二村ヒトシ監督も同意してくれました。

 とはいえ私のお尻の穴をエグザイル兄貴の色黒でカチカチのものにつらぬかれたいかどうか? と考えると、話がまた鼻づまります。

(つづく)

■枡野浩一/歌人。1968年東京生まれ。小説『ショートソング』(集英社文庫)ほか著書多数。短歌代表作が高校の国語教科書(明治書院)に掲載中。阿佐ヶ谷「枡野書店」店主。二村ヒトシさんとのニコニコ動画番組『男らしくナイト』(第1回は9/24夜)、中村うさぎさんとのトーク企画『ゆさぶりおしゃべり』(第1回は10/7夜)など、最新情報はツイッター【@toiimasunomo 】で。

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