[サイジョの本棚]

「10年続く店は1割」の飲食業界で、豆腐メンタルの一人旅で。静かに道を拓いた人間に迫る

――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン(サイ女)読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します!

■『葬送の仕事師たち』(井上理津子、新潮社)

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 私たちは死んだら、どんな段階を踏んで棺に収められ、どのように焼かれ、弔われていくのか。誰もが関わる業界でありながら、その実際はあまりにも知られていない。『葬送の仕事師たち』は、そんな日本の葬送業に携わるさまざまな職種――葬儀社のスタッフや、遺体を生前の姿に近づける復元師、火葬場技術員――に取材したノンフィクションだ。

 時に理解のない人々から心ない言葉を吐かれることもある葬送業という仕事。著者が冷静に描写する、事故や闘病で緑や黒色になった肌の色を元に近づけるエンバーマーの技や、火葬場で「ご遺体を綺麗に焼いてあげるための」手順は、どれも熟練した高度な技術と遺族の前で遺体と向き合う精神力が必要とされ、真剣に取り組まなければ決して長くは続けられないものだ。

 強い信念やあこがれを持って業界に入った人もいれば、最初は「生活のために割り切って」職に就いた人もいる。しかし、インタビューを受けた人々は皆、厳しい環境を超えるやりがいを感じ、中途半端な中傷には揺るがない誇りを静かに持っている。著者のインタビューを通して、共通して何度か語られる「人は誰でも死ぬからこそ、生きている私たちができることをする」という彼らの仕事観は、仕事と私生活の人生を当たり前のように分けて考えがちな現代の私たちに、新たな視点を加えてくれるだろう。

■『シェフを「つづける」ということ』(井川直子、ミシマ社)

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 夢を持って海外に出たい、と考える人のための情報はあふれているが、海外に踏み出した人の「その後」を知る手段は少ない。『シェフを「つづける」ということ』は、2000年代にシェフになるために、イタリアへ料理修業に渡った15人の若者の約「10年後」を追ったルポルタージュだ。

 ミシュラン三つ星を獲得する人気店のオーナーシェフとして仕事を続ける人、一度開店した店を閉めて次の道を進む人、海外で店を立ち上げる人――。15人の進路はそれぞれで、はたから見れば「シェフになった人」や「自分の店を出せた人」が夢をかなえた勝ち組のように見える。しかし実際は、「10年続けられる店はたったの1割」という飲食業界で、成功と失敗を判断するわかりやすいゴールラインはなく、現在進行形で進み続ける彼らの「途中経過」が浮かび上がってくるだけだ。

 それを象徴するのが、帰国後もシェフとして順調な道を歩んでいたが、33歳で病に倒れ、車いすでの生活を余儀なくされた伊藤健氏。シェフの道は断念し、紆余曲折の末、料理教室を開きながら、社会貢献に携わる道を選んだ彼には、1つの世界を突き詰めて続けていくこととはまた違う、新たな道を見つけた人の清々しさがある。

 「僕は料理しかできないから」とシェフを続ける人の格好良さも、別の道にシフトした人のしなやかな強さも両方が描かれている本作。どちらも上下なく魅力的に見えるのは、10年前に一歩を踏み出したように、今も前を向いて自分の道を切り拓き続けているからだろう。その姿は、シェフという職業の枠を超えて、将来が見えなくても走り続ける人々を勇気づけてくれる。

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