[サイジョの本棚]

「10年続く店は1割」の飲食業界で、豆腐メンタルの一人旅で。静かに道を拓いた人間に迫る

2015/08/02 21:00

■『ニューヨークで考え中』(近藤聡乃、亜紀書房)

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 絵画やコミック、エッセイなど多彩な才能を持つ近藤聡乃による、初のコミックエッセイ『ニューヨークで考え中』。28歳でニューヨークに渡り、初の海外一人暮らしをスタートさせた著者の、2012年から15年春までの生活が等身大につづられている。

 1話2ページという一息で読めるスタイルで描かれているエピソードの多くは、さりげない日常の1コマ。「英語で感動を表現するのがなんだか恥ずかしい」「薄切り肉がなくて料理の幅が狭くなる」「コインランドリーに行くのが面倒」など、「ニューヨークに住むアーティストの日常」というイメージからは少し離れた、どちらかというと地味な生活の様子だ。しかし、日本とは違う風土への好奇心と、少しの郷愁が入りまじった著者の視点は、“ガイドブックよりすすけている、けど落ち着く”ニューヨークの自由な雰囲気を私たちに身近に伝えてくれる。

■『旅したら豆腐メンタルなおるかな?』(小久ヒロ、イースト・プレス)

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 引っ越しや旅行など、人は、場所を変えることで新たな視点を得ることがある。『旅したら豆腐メンタルなおるかな?』は、人に対して過剰に萎縮してしまう「豆腐メンタル」な著者が、ドイツ、福島、台湾、タイと一人旅を強行することで、傷つきながらも、少しずつ日常を生きるコツを体得していくコミックエッセイだ。

 “笑わない自由”があるといわれるドイツで著者は「空気読めなくても人間生きていけるな」と悟り、台湾で知り合った現地のマダムの「失敗しても、自分の人生はすばらしいと笑えばいい」という言葉に、自分の人生を認められるようになっていく。それは、理屈で説明されて得られるものではなく、言葉が通じにくい非日常の環境で、自力でコミュニケーションを図り、時には失敗しながら得たものだからこそ、彼女自身の中で力強く響いたのだろう。

 ユーモアをまじえながらも、旅先でコミュニケーションに失敗してどん底まで落ち込んだり、通じ合って喜んだりする著者の姿が、私たちが知らず知らずのうちに抱えている、空気を読みすぎる“豆腐メンタル”も解放し、彼女の成長を追体験させてくれる。
(保田夏子)

最終更新:2015/08/02 21:00
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