「タレント本という名の経典」

壇蜜の過激なセックス観から浮かび上がる「できる中堅一般職OL」像

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『蜜の味』/小学館

――タレント本。それは教祖というべきタレントと信者(=ファン)をつなぐ“経典”。その中にはどんな教えが書かれ、ファンは何に心酔していくのか。そこから、現代の縮図が見えてくる……。

 グラビアなど、脱ぐ仕事を生業とする人は、果たして本当にエロいのだろうか。グラビアがオトコの欲望を満たす「仕事」である以上、「演技力」が重要なのではないか。

 現在大ブレイク中の壇蜜は、そんな疑念を抱かせる1人だ。基本はノーパン、初の主演映画『私の奴隷になりなさい』での初日には、観客に脱いだパンツを投げてみせ、『5時に夢中!』(TOKYO MX)ではМ字開脚を披露する。壇蜜は、本当に本人が言うように「24時間ハァハァしてる変態」なのだろうか? 壇の初エッセイ『蜜の味』(小学館)は、その答えを知る手掛かりとなるだろう。

 本書は壇の少女時代から、グラビアでブレイクするまでの道程が記されている。初体験の相手に「何を考えているかわからない子」と言われた壇だが、確かに少々変わっていて、文章も筋が通っているような、いないような、独特の浮遊感を持つ。

 壇はいつの時代も「絶対こうでなくては」という理想を持たないようだ。それは男性や性に対しても同じで、「相手に期待しない」「(何人かの男性と交際しても)心からワクワクする気持ちになることは少なかった」「(初体験は)単なる通過儀礼で、それによって自分がどうにかなるものでもない」と、ひどく冷めている。それは金銭についても同じで、「お金のない恋愛はつまらない」と現実的な意見を述べている。壇にとって人間関係の大部分は「与える・与えられる」で割り切れるもので、その理由を、お金を与える・与えられることによって、2人の関係はますます良好なものとなるからだと語っている。

 ところが壇は、セックスへの奉仕には意欲的で、「自分ができることで彼が喜ぶことの代表と言えば、それはセックス」「好きな男性とのセックスは『大』以外なら何でも飲みます」とハードな自論を展開している。また仕事にも意欲的で、「必ず全裸でカメラの前に立ち、そこから衣装をつける」という、通常とは逆パターンの方法で撮影に臨むのは、自身の体をあくまでも「素材」として捉えているからだと語る。人気が出ても脱ぎ惜しみするどころか、ますます露出を高める壇は、セクシータレントの鏡と言えるだろう。

 しかし、不思議なことがある。それは壇が仕事で会った女性たちから、たびたび「清楚ですね」と言われることである。「日本一セクシーな32歳」が唄い文句の壇が、セクシーの反対側にある「清楚」という言葉で、しかも同性に言われている。これは一体どういうことなのだろうか。

 結論から言おう。壇は「女スイッチ」をうまく扱える人なのである。

 女の世界で禁忌なのは、自慢と自信である。例えば男に褒められた時、うれしさを自分の胸にしまっておかずに、「○○さんに褒められた」と周囲に吹聴して、さらなる賛同を得ようとするのが女の自慢の典型例だが、この自慢欲が起動している状態を「女スイッチオン」状態とする。

 自慢とは言葉によってなされるとは限らない。合コンなど男の集まる場所で、日頃と打って変わって露出の高い格好をして、男の視覚に訴えるのもまた自慢である。貧乳の人は胸の谷間を強調しないし、脚に自信がなければミニスカートは穿かないからだ。

 そんな「女スイッチオン」の状態は、女に警戒心を抱かせる。それはスイッチオンの状態が「いざとなったら、あなたを出し抜きますから」という核兵器保有宣言だからである。しかし、女子校生活の長い壇は、この手の女の機微を熟知しているようだ。企業の受付嬢という女だらけの職場にいた頃、ダウンジャケットとデニム、メイクも最低限というカジュアルな格好で通勤し、たまに合コンに誘われれば「どんな格好で行けばいいんですか?」と尋ねていたそうだ。突飛な格好で合コンに行くと、幹事の評判にかかわることもあるので、何とも賢明な判断である。合コン時も「面白い子ウケ」して、先輩たちに可愛がられたそうだが、このように「自分だけモテよう」「いい思いをしよう」としないことが「女スイッチオフ」で、永世中立国的スタンスと言えよう。

 男を視覚で魅了し、女スイッチを操って同性との余計な摩擦も避ける。そんな世渡り上手な壇だが、悩みもある。それは 一般的にはセックスをすると、充足感が得られるはずなのに、壇は自分が空っぽになったと感じ、それを埋めるために、コンビニで菓子パンを買って食べてしまうのだという。

 壇蜜は変態なのか。セックスで空っぽになるとは、どういう意味なのか。

 その答えに関連すると思われるキーワードは、壇自筆の後書きでやっと見つけることができる。それは「採算を取ることに重きをおく私」というフレーズである。『5時に夢中!』でのトークの際も、「採算」と口にしていたから、ほとんど口癖なのだろう。採算が取れるとは、利益があがるということで、主にビジネスで用いられる言葉である。ということは、壇の頭の中は、性欲としてのエロではなく、ビジネスとしてのエロでいっぱいでハァハァしているのである。

 「見返りを求めない」「相手に期待しない」でもセックスは徹底的に奉仕する、お金が2人の関係を良くする、そして自分は「素材」――。上述した壇の理論をビジネスにあてはめてみよう。会社や上司に期待しない、でも仕事はしっかりやる、だって給料をもらっているんだし、自分は会社の「歯車」なんだから。そう置き換えると、たちまち筋が通ってくる。そう壇は、仕事熱心な中堅の一般職OLなのである。

 普通の会社員ほど、ビジネススキルとしての「女らしさ」は重要である。なぜなら男社会の日本企業で、女の査定をするのは男だからだ。かといって、極端に色気をふりまけば、今度は社内の女性陣に嫌われる。仕事において、人間関係は重要なものであり、同性を敵に回して得することはない。そこで「女スイッチ」が重要となってくる。取引先、男性上司、女性の同期や後輩と、関係性に応じて「女スイッチ」を駆使し、誰よりも実務に詳しく、面倒な仕事もこなす。できる中堅OLは、みんな「女スイッチ」の扱いがうまいと言っても過言ではないだろう。そう考えると、壇の「セックスで空っぽになる話」もわかりやすくなる。セックスで空っぽになって菓子パンを食べるのは、仕事を一気に片付けて手すきになったOLが、頂き物のおやつをツマむのと一緒なのである。

 壇はこれからどこに向かうのだろうか。一発屋になりそうな気配もあるが、壇にとって大事なのは「採算」なのだから、どの仕事をしてもそれなりに結果を出すだろう。しかし、やはり壇でないとならない仕事をお勧めしたい。それは尼である。壇蜜という芸名は仏教用語から来ているし、日本一有名な尼僧・瀬戸内寂聴も出家前は性の深淵を覗いた1人であった。エロスを追求する壇にも十分その資格はあるはずだ。男の欲望を受け止めてきた壇が、黒髪を下ろして尼となり、女の業を包み込む。寂庵ならぬ蜜庵の誕生が今から待ち遠しい。
(仁科友里)

どこのオフィスの片隅にもいる壇蜜

しぃちゃん

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