『ここは退屈迎えに来て』特別対談 山内マリコ×中條寿子

田舎の幸せは「結婚」――東京に生きる女の子と地方の幸せのゴール


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――山内さんは、東京に出てきてよかったですか?
   
山内マリコ氏(以下、山内) はい。私は本を出す前にニート期間があって、しばらくくすぶっていたんですが、もしこれが地元だったら、確実に自殺コースだったなと思います(笑)。だからなんとかくすぶりも紛らわせて、やり過ごせた気がします。

中條寿子氏(以下、中條) なるほど。

山内 東京って、ちょっと非現実的な世界を生きている感じはありますよね。アメリカにおけるマンハッタン的な。その街から一歩外に出れば、まるで蜃気楼の中にいたと思えてくるような。どっちも極端ですよね。一極集中で都会すぎる東京と、フラットすぎ、テンション低すぎの地方。ちょうどいい、中庸の街って成立しないのかなぁ。

中條 地方都市がいいですよ! 福岡の中洲とか!

山内 確かに地方でも、そこそこ活気のある街なら全然オッケーなんです。好奇心旺盛な若い子の欲を満たしてくれて、楽しく暮らせる感じはあって。でも、そうじゃない街もすごく多い。特に2000年以降はどの街も中心街が寂れて、どんどん郊外型になって、街に文化的なものを求めてしまう層にとっては、耐えられないレベルに……。

――中條さんは、田舎に対する憧れってありますか?

中條 単純な憧れとは違うかもしれないけど、私は、どうしても読者と同じ立場にいたがっちゃう質なんで、田舎のキャバ嬢と同じものを見たいと思うし、意識して見てきました。例えばイオンの中にmoussy入っていることを知らない、見たことがないのは嫌なんです。普段も、千葉や埼玉など、わりと地方で過ごすようにして、都心にはあまりいない。やっぱり東京とは人の種類が違う気がしますね。

山内 田舎町のショッピングモールにいる人って、すごく気が抜けてて、家の延長線上みたいな顔をして寛いでますよね(笑)。売ってるものは似通ってきているけど、そこは渋谷辺りを歩いてる人の感じとは全然違う。

中條 でも東京の人は、楽しそうじゃない……。東京で人が心から楽しそうに歩いてる所って、秋葉原と新大久保くらいじゃない? 私には、青山あたりを歩いてシャンとする自分と、生まれ育った浅草で和む自分の2つが絶対に必要。ずっと、浅草からは離れないと思います。

山内 生まれ育った街と、それとはまた別の、居場所とか拠り所としての都会が必要っていうのは、すごくわかります。その2つを行き来してバランスが保たれている感じ。

――東京でも地方都市でもない、田舎に残り続けている女の子にとって「幸せ」とは何でしょうか?

中條 多分、結婚ですね。都会でも同でしょうけど、田舎の方が、結婚に幸せを求める傾向が強い。

山内 私も、悔しいけど結婚って答えてしまいます。特にギャルの皆さんは、男性とのラブが常に最重要事項っていうイメージがあります。

中條 それは不動ですね。キャバ嬢の場合は、幸せな家庭を築きたいというより、「結婚したら働かなくて済む」っていうのが、一番の理由。夜の仕事だと、みんな、ホント、いろんなことに疲れてるんです。

山内 そこに、「自分の店を持ちたい!」みたいな野望はないんですか?

中條 それ、一番疲れるパターンの人生じゃないですか。彼女たちにとっては、疲れないことが大切なんです。

山内 そんなに疲れているのか……(笑)。ただ、地方で結婚に幸せを求めすぎると、ヘビーな現実もありますよね。

――「小悪魔ageha」では「心の闇」特集が人気を集めていましたね。地方独特の悩みってありました?

中條 田舎だからって、悩みの内容が都会と違うということはなかったです。ただ、訳ありの子は多かった。カワイイ子を探して地方を巡った時、私が声を掛けると、「ようやく私にも新しい世界が開けた! ここから出して」って感じで、最初はすごく連絡取り合うんです。でも結局、事情があるから上京できない。離婚してシングルマザーだから、子どもを置いて来られない、ってことが少なくなかった。誌面に掲載できなかった、幻の女の子がたくさんいます。

――ところで、東京には、田舎暮らしに憧れる人たちもいますよね。

山内 そういえば、生まれも育ちも東京の子が話していました。「何もなさそうな田舎には怖くて行けない。私たちは東京に縛られて生きている」って。そういう子にとっての「ここではないどこか」は、きっと、ニューヨークくらいしかないのかも。東京と同規模の都市と考えると。根性のある子は外国に行くし、行かない子は、田舎と同様にある種の閉塞感があるんじゃないかな。

――本に書かれているのは、90年代に10代を過ごした中條さんや山内さん世代が感じた20歳前後の物語ですよね。いまの20歳前後の女子には、この世代が持っていた東京に対する憧れはあるのでしょうか?

中條 私たちの世界のことを話すと、3.11以降、若いキャバ嬢は歌舞伎町を憧れの場所にしなくなったし、新しい女の子が東京に入ってこなくなりました。それに、今、みんなは芸能人になりたいわけじゃなく、地方でちょっと有名になれれば満足なので、ブログで情報発信できる現在では東京に出る必要性も薄れたみたい。

山内 私も、もし自分が今10代だったら、東京には来てないかも……。あとは経済状況も、この10年でだいぶ変わりましたしね。若い女の子が上京するには、ある程度実家の後ろ盾が必要ですが、今は不景気すぎて子どもを東京に進学させる余裕もないって聞きました。私たちの世代だと、『NANA』(集英社)みたいに「ギター1本持って東京に行けば、なんとかなる!」っていうノリも、ギリでアリだった。でも今は、「そのギターを質屋に持っていけ!」って時代。夢が暴落中。

――中條さんは、若い子を取材していて、10年前と今とで違いを感じますか?

中條 全然違いますよ! まず、買うものの値段がまったく違うし、欲がない。「エルメスって何?」みたいな。私たちの世代は、バブルじゃないけど、ブランド物志向って、まだあったじゃないですか。

山内 ありましたね。高校生の女の子がすごく高いヴィヴィアン(・ウエストウッド)のバッグを持ってたり。

中條 今はキャバ嬢でさえ、ブランド物を持ってない。毎日出勤してたくさんお金を稼ぐより、限界まで働かないで、生活費ギリギリの給料をもらう方がいいんです。服はトップスとパンツとベスト、ベルト全部セットで3,500円くらいで買える。コスメも100均でいい。

山内 すごい! デフレの申し子たちですね。いいもの食べたい、遊びたいという欲求もない?

中條 うん。そもそも、お金がある時代の豊かさを知らないから。私たちもバブル世代のお姉さんたちに「カワイソー」って同情されてたって、「最初から知らないから、別にいいんですけど」って感じだよね? 

山内 ほんとそうです。上を知らないから、枯渇感もない。

中條 それと同じ。私はいいと思うんです、その子たちの幸せがそこにあるのなら。

――日本自体に希望が少ない中、誰もが「ここではないどこか」を探すのは必然のように感じますね。

山内 そうですね。でも「ここではないどこか」にも、ゴールは見だせてないのが正直なところです。今回、若い読者に「話、丸投げですよね?」ってツッコまれたのですが、ほんとその通りなんです。希望のない状況を打破した気持ちになれる一瞬で、パツッと終わらせてあります。その先は、何も提示できませんでした。2012年の日本の現状から這い上がるレールなんて見当たらない。それなのに丸く収まったようなことは書けなくて。

中條 もう、「ここではないどこか」は、永遠のテーマですよね、住みたい場所が自由に選べちゃう今だからなおさら。

山内 女性も選択肢が増えたら、すごく悩みが増えたじゃないですか。家庭と仕事と、どっちを取ればいいんだろうって。日本は両立できるケアが十分じゃないのに。それと同じなのかもしれません。

――おニ人は今後、どんなものを作っていきたいですか?

山内 今度は、何かしら希望を提示できる本を構想中です。こんな時代だからこそ、楽しみながらスイスイと世間を泳いでいく女の子を書きたいですね。中條さんは?

中條 大殺界があと1年あるから、それが明けるまでは何もしないって決めてます。

山内 へぇ! ギャルの皆さんって占い信じます?

中條 私は、まっすぐ信じて生きてます。そういう子は多い。心の支えですね。そうだ、山内さん、もし閉塞感を感じた時は、連絡ください。一緒に場末のキャバクラに行こう! 元気出ますよ!

(取材・文=城リユア)

東京から地元に戻ったライター、都会に出てから自分の人生が始まると思っている大学生、16歳でセックスをすると決めている高校生など、地方都市に生まれた女の子たちの姿を描く8つの物語。

しぃちゃん

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