映画『不惑のアダージョ』監督インタビュー【後編】

「更年期までは女として選択を迫られる」リミットに惑う独身女性の答えとは

huwaku02.jpg
映画『不惑のアダージョ』より

(前編はこちら)

――30代で独身だと、ひとりでやってきた自分に自信を持つ半面、焦りがあるのも事実ですよね。『不惑のアダージョ』に出てくるシスターも、自分の強い意志で潔癖を貫いてきたはずなのに更年期を迎え揺れている。

井上都紀(以下、井上) 結婚していないことを何かのせいにしようとするけど、結局は自分に問題があるんですよね。じゃあ今から婚活を始めるかというと、「婚活なんて……」って小馬鹿にしてしまう。「結婚は好きな人とするものだ」、という憧れがいつまでたっても消えないんですよ(笑)。好きなことをやって生きてきたのに、誰かのせいにするなんてでいたくな話だと思います。ただ、30代になってから、恋愛することに本当に不器用になってしまいましたね。もう若くないっていう自覚もあるし、結婚や出産が頭によぎるから浮かれた恋愛に浸ることもできない。

――ほかの動物のように、本能的に男性を求めることができないんですよね。

井上 恋人が欲しいとは思うけど、「わざわざこんな37歳の面倒くさい私を選ばなくても」って自分ですら思ってしまうんです(笑)。相手に申し訳ないなと。こんな生活をしてちゃ、家庭を大事にできるかも分からない。自分という人間を面白がってくれる人じゃないとダメだろうって思うと、そうするとなかなか難しいですよね。疲れて帰ってきて、家にこんな可愛げがない女がいたんじゃ、男の人もしんどいだろうと……。

――ごはんを作って待っててくれる家庭的な女性のほうがいいだろう、と自分を卑下してしまう。

井上 そう。結局自分をがんじがらめにしてるのは古風な考えを持っている自分なんですよね。受け入れてくれる男性だっているかもしれないのに。昭和の家庭のイメージが自分をがんじがらめにしているんです。

――『不惑のアダージョ』は40歳の女性の話ですが、30代でも十分に共感できる話ですよね。

井上 試写で見てもらうと、一番響くのは実は30代だったんですよ。私が感じてるものを投影した映画だから、私と同じ世代の人たちがとても共感してくれた。こういうことを考えないようにして毎日を生きてる人が、作品を見てショックを受ける。パンドラの箱が開いたような。

――まだ若いつもりだったのに、現実を突き付けられるという。

井上 だから、もう少し逆算して生きていきましょうというメッセージも込めています。でも、計算しても全然うまくいかないんですよね……。そんな計画的にいくわけがないんですよ(笑)。

――30代以上の独身女性が抱える心の葛藤って、もやもやして思春期の悩みに近いものがありますよね。

井上 でも思春期でも戸惑いませんでした? 初潮が来たとき、「女の人ってこんなに大変なの?」ってびっくりしましたもん。面倒くさいと思いつつも、生理って月に1回くるタイムリミットまでの警告なわけですよね(笑)。生理痛は、出産を想像させるというか、あれは男の人には分からない現象だと思う。

――生理は警告なんですね(笑)。長期間にわたって毎月ご丁寧に教えてくれる。

井上 それでも毎月のことだから慣れてしまうんですよ。せっかく警鐘を鳴らしてくれてるのに。昔は、ほとんど少女のうちにお嫁に行かされてましたけど、今ならその意味が少し分かるんです。女の人が意志を持つ前に結婚したほうが、生き物としては道理に合ってるんだなと(笑)。20代、30 代と年をとっていくうちにやりたいことや楽しさを見いだしてしまったら、それを捨ててまで家庭に入りたいとはなかなか思わなくなりますよね。やりたい仕事と子育てを両立してる女性には一番憧れるけど、彼女たちは人の倍以上努力してるってことも分かるし。

――だからこそ、私は努力してないなと感じる。

井上 今の自分は「努力なんてできません」、って言ってるようなものなんですよ。そこを自分で分かってしまっている。「疲れた~」ってひとりで帰ってきて、夕飯は牛丼買って帰ればいいや、独身って楽しいな、ってやってるわけだから(笑)。結局ラクを選んでしまってるのかなと思います。ただ、結婚して子育てをしている人も、「私これでよかったのかな」って思う瞬間はあるかもしれない。私の姉がそうなんです。「もっと仕事バリバリやれたんじゃないか」とか、ドラマを見て、「こんな恋愛したかった」とか。でもそれを聞いて、「自分で選んだ人生じゃん」って私は思ってしまう。お互いにないものねだり。どこまで努力をするかしないかで、女の人生は分岐するのかもしれないですね(笑)。

――見た人それぞれにテーマを投げかける映画だと思いますが、井上監督自身は撮り終わってなにか変化はありましたか。

井上 まだいろいろ迷ってますよ(笑)。「次の映画に取り組むからには、しばらくはプライベートを封じ込めて進むしかないのかな」と思うけど、リミットは目前だし。このもやもやとした気持ちはずっと消化できないですよね。消化できるとしたら、更年期を迎えて、閉経した後。もっと先かもしれない。「これでよかったんだ」ってようやく肯定できるところ。30 歳から更年期を迎えるまでの期間っていうのは、女の人生の中で、無意識に選択を迫られるときなのかもしれないですね。脳みそと体がせめぎあう時期。たぶん、ここが終わったら解放されてもっとやりたいことが出てくるのかもしれません。

井上都紀(いのうえ・つき)
1974年、京都府出身。武蔵野美術大学油絵科卒業。2008年制作の短編映画『大地を叩く女』が、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2008オフシアター部門でグランプリを受賞。初の長編映画となる『不惑のアダージョ』がロッテルダム国際映画祭2010にてタイガーアワード長編コンペティション部門に入選したほか、多くの映画祭で称賛を得ている。

『不惑のアダージョ』
11月26日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー
監督・脚本・編集/井上都紀
出演/柴草 玲 千葉ペイトン 渋谷拓生 橘 るみ 西島千博
厳粛な教会で心穏やかに神職を捧げる、ひとりのシスター。40歳を迎えた彼女は、誰にも言えない体の変化を感じていた。戸惑う日々を送る中で経験する、3人の男性との出会い。彼らとの出会いを通じて、シスターが見出したものとは?

・公式サイト

【『不惑のアダージョ』公開記念イベント決定】
「おとなの女性のほんとうのところ」シリーズ番外編
12月9日(金) 開場:21:15~ 開演:21:30~
場所:Liaison (渋谷区宇田川町10-1 パークビル4F)
ゲスト:ピンク先生、GRACEさん、井上都紀監督
映画チケット半券持参の女性の方、入場無料 (1ドリンク サービス)
詳細は公式サイトでご確認ください。

『「婚・産・職」女の決めどき』

あれもこれも欲張りなんです、女って。

amazon_associate_logo.jpg

【この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます】
深澤真紀氏の至言「結婚=自意識の発表会」ではなく、制度として参加すべき
「結局女は遊べない」、大久保×鳥居 ×ブリトニーが語る”女の性欲”
美と男、自己実現に表現欲求……もがく女たちの現代の肖像

今、あなたにオススメ



サイゾーウーマンのSNS

  • 「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

関連リンク