『潜入ルポ 中国の女』刊行記念インタビュー

エイズ村、売春宿……男女差別と社会格差の中で生きる『中国の女』

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『潜入ルポ 中国の女』(文藝春秋)

「男の子を産まないと、一人前の女じゃないから」

 エイズに侵され死に瀕しながらも、男の子を産むために3度出産した女性は言った。中国の貧しい農村、文楼村は村民の半数がHIVキャリアの「エイズ村」と呼ばれている。生きるために自らの血を繰り返し売った結果、不潔な器具がウイルスを拡大させた。

 フリージャーナリスト・福島香織氏の『潜入ルポ 中国の女 エイズ売春婦から大富豪まで』(文藝春秋)は、タイトルの通りエイズ村の女性や売春婦、ゴミ拾いから富豪にのし上がった女性など、現代中国に生きる女性にクローズアップしたルポである。

――本書で一番強烈だったのは、「農村で女に産まれるくらいなら、牛や馬に生まれた方がまし」という言葉です。エイズ村に生きる女性の過酷過ぎる人生はもちろん、別の女性は実兄の結婚資金ために遠くの村に売り飛ばされています。中国で、ここまで男尊女卑が激しいとは知りませんでした。

福島香織氏(以下、福島) 一般的に、中国は男女平等の国だと言われます。その根拠は、男性が小まめに家事をする、日本の国会議員に相当する全国人民代表は女性の数が多い、米経済誌「Forbes」が選んだ富豪ランキングに中国人女性が何人も入っているなどの理由からです。ただ、都市でも立場の弱い女性に対するセクハラは多く、相談を受け付ける専門のNGOもありますし、「東北男は酒を飲んだら必ず女を殴る」と言うくらいドメスティックバイオレンスも多い。現実的には平等ではないと私は思います。さらに人口13億人の約半数が住んでいる農村では、「嫁がいないから買ってくる」「男の子を産んで一人前」という世界。職がなければ女性は体を売るしかないという現実もあります。

――中国では都市戸籍と農村戸籍があり、農村戸籍の人は移動や職業選択の自由がない、事実上の「身分差別制度」だと書かれていますね。生きるために仕方なく体を売る女性は多いのでしょうか。

福島 売春を生業とする女性は600万人、潜在的に売春しうる水商売の女性まで含めると1,200万人に上ると言われています。日本では性風俗産業に従事する女性に対して比較的寛容ですが、中国では売春をしている女性はものすごく軽蔑される。売春で逮捕された女性は街中を引きずり回され、市民からヤジや石を投げつけられていました(「市中引き回し」は2010年禁止になった)。体を売った女性の家族は「恥だから故郷には帰ってくるな」と言いながら、彼女が稼いだお金で長男が住む家を建てる。中国では毎年25万人~30万人ほど自殺者がいますが、男性よりも女性、特に農村の女性が多いと言われています。原因は男女差別や生活苦です。

――都市の人はそういった農村の状況は知っていますか。

福島 たぶん知らないでしょう。私が取材した話をすると、都会の比較的豊かな人たちは「信じられない」と言う。「その人たちと一緒にしないで」という感覚もあります。中国で一見、男女差別がないように見えるのは、男女差別以上に貧富の差や都市と農村の社会格差の方が大きいからでもあるんです。なので女性でも、権力やお金を持つ人は圧倒的に強い。例えば、農村から出稼ぎにきた男性が都市の富裕層の女の子と恋をして結婚するという例はあまりありません。むしろ、農村から出稼ぎにきた女の子が、日本の駐在員男性と出会って結婚した例の方は耳にしたことがあります。

――一人っ子政策も女性の産む権利を侵害するものですよね。

福島 一人っ子政策はもう廃止してもいいという人口学者はたくさんいるのですが、経済ロスを恐れてなかなか転換できないようです。今は、一人目が女の子か障害を持っていたら二人目を産んでもいい、一人っ子同士は二人まで産んでいいとされています。でも、都市の人は、子どもは一人だけで教育にお金を掛けたいようです。一方で、農村では貧乏なのに子だくさんで戸籍のない子もいる。人口抑制のための強制堕胎問題なども起きている。政策を批判する弁護士はいまだに投獄されています。

――男女差別に社会格差、非常に過酷な状況の中で、農村の女性は何を希望にして生きているのでしょうか。

福島 それは日本以上に多様ですね。「男の子を産むこと」と言う女性もいれば、100歳になるあるおばあさんは、「生きていてうれしかったことはない」と言う。売春をする女性たちは「お金が欲しい」と言う。実際、若くて容姿がきれいで、ちょっと気が利くとかなり稼げるんですよ。それが逆に、窃盗や強盗のターゲットになり命を狙われる要因にもなっているんです。自分自身も違法である売春をして、被害に遭っても訴えることができないから。なので「日本人と結婚したい」と言う女性もいる。気の強い女性なら「お金を貯めて故郷でレストランを開きたい」とも。でも、そういった夢は夢のままで終わることが多いですね。

――チャイナドリームのチャンスは減っているということでしょうか。

福島 改革開放の1980~90年代は、富める人が少なく、みんなが平等に貧しかったので、そこから法の網の目をかいくぐってのし上がった人もいます。そして、権力を持った人たちは、貧しい人は貧しいままで利用するために法律を整備していくわけですから、だんだん難しくなります。

――今後、中国が日本のように総中流になることはあるでしょうか。そのとき女性たちはどうなると思いますか。日本の女性のように「どう生きるか」について考えるようになるのでしょうか。

福島 まず、中国の13億人が総中流になるとは私は思いません。中流も富豪も増えていくとは思うんです。しかし、その人たちと農村の格差は年々開いていっている。農村復興、再分配を強化しようという声もあるけれど、先ほど言ったように法律をつくる人たちは既得権益層なので本気では取り組まない。現実として水や食糧、エネルギーのことを考えたら、農民の中流化は当面置いておこう、それよりも都市の就職問題をなんとかしなきゃ、となってしまいます。都市の女性はすでに日本人女性のように「自分探し」をしていますよ。あるフェミニズムのシンポジウムでは、「主婦かキャリアウーマン、どちらが幸せか」といった先進国みたいな話をしていました。まだそのレベルの話じゃないだろう、と思いながら聞いていましたが。

 北京の知人にこの本を郵送したところ、中身が抜き取られ封筒のみが到着したという。「郵便事故のわけがない」と福島氏は笑う。中国当局にとっては”不都合”な本に書かれた、「リアルな女の人生」をぜひご一読いただきたい。
(亀井百合子)

福島香織
1967年奈良市生まれ。大阪大学卒業後、産経新聞社に入社。上海・復旦大学に語学留学後、2001年から産経新聞香港支局長に就任、02年から中国総局(北京)に異動し、08年まで常駐記者を務めた。09年に退社、フリージャーナリストとして活動。著書に『中国のマスゴミ ジャーナリズムの挫折と目覚め』(扶桑社新書)などがある。

『潜入ルポ 中国の女』

エイズで死に瀕する妻の上に毎晩夫が乗っかってくる、という記述に言葉を失いました。

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