「となりの脱会くん」特別編(後編)

宗教2世の私が、信者の親からもらった手紙――「話し合ったら最後」と思っていた父と和解できたワケ

2023/08/25 20:05
DJ2世 a.k.a 脱会くん(ライター)

「『カルト』と呼ばれる新興宗教の信者である両親の元に生まれた私は、子どもの頃からずっと(うさんくせぇ……)と思ってきた」――サイゾーウーマンで昨年、短期連載された「となりの脱会くん」。その筆者である「脱会くん」ことライター・DJ2世は、いまだかつてないほど「宗教2世」問題がクローズアップされたこの1年、自分が2世信者としての苦しみをどう乗り越えたかを、あらためて振り返ってみたという。無断で宗教を脱会してから、断絶していた親と、どう和解したのか。今回、寄稿いただいた。

(前編はこちら)

カルト宗教の信者である親から、ポストに怪文書が!

 親との対決が差し迫る頃、一人暮らしの自分の家のポストに1通の手紙が入っていた。差出人を見ると、父親の名前があり、私は覚悟を決めて封を開けた。父親は昔から言いたいことを私に直接言わず、手紙にしたためて一方的に自分語りをする習性があった。中には便箋が5枚ほど入っていた。父からの反撃である。

DJ2世 a.k.a 脱会くんによる「新興宗教の信者である親から届いた手紙」のイラスト画像
カ、カルトー!! これで胸を打たれると思ってるのかよ!(C)DJ2世 a.k.a 脱会くん

 読んで気分はよりどん底に。善意100%で書かれたものであろうが、「宗教2世であることがつらい」と言っている子どもに、宗教の道理で励ます文章をよこすとは……。やはりこの人たちとは分かり合えない。話し合ったら最後、もう二度と顔を合わせることはないだろうと覚悟を固めた。

ついに直接対決! オイラの人生はどうなっちまうんだい?

 ついに下宿先に父親がやって来た。話し合いなんていつぶりだろう。久しぶりに会ったが父親はまったく変わっていない。顔を合わせた瞬間から、涙をずっとこらえていたが、話し始めると同時にあふれてしまった。状況を聞かれた私は、ずっと宗教を信じてこなかったこと、宗教と触れている時間がずっと苦痛だったこと、限界を迎えて脱会してしまったこと、脱会してからもずっと生きづらいということを伝えた。

DJ2世 a.k.a 脱会くんによる「新興宗教の信者である親に『信じたことがない』と訴える自身」のイラスト画像
涙ながらに人生初! 宗教の悪口をめちゃ言う。親はなんと返すのか? (C)DJ2世 a.k.a 脱会くん

「そうか〜、大変だったね」

 父親の返答は意外にも穏やかだった。

「お前が霊的なものを求めていると思っていたから、今までそうしてきた。そんなことを考えていたなんて知らなかった。申し訳ない。これからできるだけ埋め合わせはさせてほしい」

 父親が言うには、信仰心の強い2人の子どもなのだから、息子もそんな家庭を望んで産まれてきてくれた存在なのだと信じて疑わなかったとのこと(何だそれ)。それが違うのだとわかれば、信仰を強制することはしない。その言葉を裏付けるように、それからは、お互いの思想に関して触れることなく、いち親子として接していくことになった。

 衝撃だったのが、うちの親はこんなにもちゃんと話し合いができるのだということ。てっきり宗教を否定したら、ブチギレて会話が成り立たなくなると思い込んでいた。親の中の優先度が「宗教<子ども」だとは考えてもいなかった。自分の不安をよそに、話し合いはスムーズに進み、あっけなく終わった。直接話すと意外と大丈夫だった。

 父親の言う「埋め合わせ」をどうしていくのがいいのか、お互いよくわからず、とりあえず定期的に一緒に晩ごはんを食べたり、一緒に映画を見に行くようになった。そうするとあら不思議、急速に自分のメンタルが安定していくのを感じた。深く落ち込むこともなくなり、周りの友達と比べることも急にしなくなった。何というか、生活に最低限度の自己肯定感を手に入れたような感覚があって、こんなに単純だったのかというぐらい、人生が驚くほど良い方向に進み始めたのである。

DJ2世 a.k.a 脱会くんによる「新興宗教の信者である親と和解し、父親と映画を見る自身」のイラスト画像
埋め合わせ=映画(C)DJ2世 a.k.a 脱会くん

脱会くんがいま生きやすさを感じていてよかった
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