コラム
高橋ユキ【悪女の履歴書】

「医者に診せてはいけません」フィリピン仕込みの“心霊手術”で破滅した、日本心霊学会の“神さん”【豚の血・心霊手術詐欺事件 後編】

2022/07/25 21:00
高橋ユキ(傍聴人・フリーライター)

 口コミを聞きつけて日本から心霊手術ツアーに訪れる客も絶えず、心霊手術と称した詐欺行為は順風満帆だった。このまま海外にいれば、彼女の運命も違っていたかもしれない。

 だが志摩子は1995年、逮捕前年に、日本に戻ることになった。バブル崩壊からの不況で、日本からの心霊手術ツアー客が減少したことも影響していた。

 日本での心霊手術に使う“手術室”は、日本各地のホテル会議室だった。警察による摘発を逃れるために、拠点を定めず場所を借り、転々としながら詐欺を重ねていた。ところが件の会社役員の妻が警察に相談に訪れたことから、彼女の詐欺人生に終止符が打たれることとなったのである。

「医者に診せてはいけません。薬を飲んだり、医者の手術を受けたりすると私のパワーが効かなくなります。それと私が治療をしていることを口外しないでくださいね。腕の悪い医者にねたまれていて医師法違反で捕まりそうなんです」

 志摩子は客にこう言い含めて“手術”を施していた。無論、詐欺が発覚しないための方便だ。しかし、すがる思いで彼女のもとを訪ねた者たちにとって、この口止めはかえって、心霊手術の神秘性を高めてしまったことだろう。

■参考資料
「週刊大衆」(双葉社)1996年11月18日号
「週刊女性」(主婦と生活社)1997年1月21日号

高橋ユキ(傍聴人・フリーライター)

傍聴人・フリーライター。2005年に傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。著作に『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)など。好きな食べ物は氷。

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Twitter:@tk84yuki

最終更新:2022/07/25 21:00
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