コラム
老いゆく親と、どう向き合う?

教師だった義父は、肩書を取ったら何も残らなかった――趣味も友達もない老人ホームでの姿

2022/07/17 18:00
坂口鈴香(ライター)
写真ACより

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

義父の人生って何だったんだろう

 「『いくら認知症とはいえ理解できない』母のことが大好きだった父……老人ホームで『母に激しい暴力を振るう』」でお話を聞いた真山昌代さん(仮名・57)が、その後の義父母の様子を伝えてくれた。

 義父母は同じ老人ホームに入居したが、義父が突然、義母に激しい暴力を振るうようになり、義母は同系列の別のホームに移った。義父と離れた義母は「冷蔵庫がしゃべる」「テレビが動く」などといったそれまでの認知症の症状がすっかり落ち着き、普通の会話もできるようになった。

 それだけでなく、それまで住んでいた自宅マンションに時折戻って、趣味のサークルに顔を出すまでになったという。遠距離ではあったが、そんな義父母の様子を見ていた真山さんは、感に堪えないように言う。

「教師だった義父は、定年まで真面目に勤め上げました。でも退職して教師の肩書を取ったら、何も残りませんでした。趣味もないし、地元に友達もいないので、地域の人と交わることもありません。認知症になって老人ホームに入るお金があったのはよかったし、私たちにとってもありがたいことでしたが、ホームの義父の部屋に入ると、義父の人生って何だったんだろうと思ってしまいます。部屋にあるのは、ベッドとテレビだけ。義父の1日は、寝て、食べて、テレビを見るだけ、ということです。ホームで誰かと親しく話しているのを見たこともない。だから、義母への暴力が始まったのかもしれないと思ったりもします」

 かたや義母は、義父と離れると、生き生きとした生活を取り戻すことができた。

義父と対照的な義母の部屋

「義母は昔から多趣味でした。ホームにいても変わらず、洋裁や手芸、絵画など、毎日忙しそうに手を動かしています。部屋の中にもいろんな作品があって、義母が毎日充実した生活を楽しんでいるのが伝わってくるんです」

 たまたま義母の趣味が室内でもできることだったのは、幸運だったのかもしれない。それでも、つい義父の部屋と比べてしまうという。真山さんは、パートで毎日忙しいわが身を振り返り、自分には義母のように老後打ち込めるものがあるのか……と考えてしまうと明かした。

 こうして、義父母の生き方について考えるようになったのには、理由がある。義父母の家に、しばしば行かざるを得ない状況が発生したからだ。

「義父母のマンションは、義母が時々帰ることもあってそのままにしているのですが、そのマンションで大規模修繕がはじまったんです。工事業者が室内に入ることもあるので、その時には誰かが家にいないといけません。これまでホーム選びをはじめ、そうした雑務を引き受けてくれていた義姉は体調がすぐれず行けないというので、私たちが行くしかなくなって……。本当は夫の実家のことだから夫にやってほしいのですが、夫も仕事があってそう休めないので、私と有給の取りやすい娘が交代で行っているんです」

――続きは7月31日公開

<経験談を募集しています>
 親の老化や介護にまつわる悩みや経験をお待ちしております。お聞かせいただいた話をもとに記事を作成いたします。こちらのフォームにご記入ください。(詳細は電話やSkypeなど通話アプリを利用しての取材)

 ※ご応募はこちら

坂口鈴香(ライター)

終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

記事一覧

最終更新:2022/07/19 12:56
アクセスランキング

今週のTLコミックベスト5

  1. 塩対応な私の旦那様はハイスペックな幼馴染!?~トロトロに甘やかされて開発される体~
  2. 交際ゼロ日で嫁いだ先は年収5千万円のスパダリ農家~20歳、処女を弄ぶ優しい指先~
  3. お花屋さんは元ヤクザ~閉店後の店内で甘く蕩ける~
  4. 体育会系幼馴染は世界一の溺愛男子~全人類の好感度がある日見えたリケジョの私~
  5. 淫魔上司は不器用な溺愛男子~インキュバスが魅せる激甘淫夢は人外の快感~
提供:ラブチュコラ
オススメ記事
サイゾーウーマンとは
会社概要
個人情報保護方針
採用情報
月別記事一覧
著者一覧
記事・広告へのお問い合わせ
プレスリリース掲載について
株式会社サイゾー運営サイト