『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』タニマチや太客、人脈で生きる歌手「27歳 流しの歌姫 ~夢のステージに立ちたくて~」

2022/05/30 19:06
石徹白未亜(ライター)

『ザ・ノンフィクション』あいの並外れた人脈構築力

 武道館のために流し生活を7年続けて1000万円貯めたこともすごいが、流しの活動を通じ、そこで「社長さん」たちというタニマチになってくれる太客との人脈を築いたことはさらにすごい。あいの「武道館」という夢は現実味に欠けるが、一方で「どんな小さな箱でもいいからまず単独ライブをしたいんです」では、社長さんたちも「じゃあ自分でやれば」となってしまうだろう。武道館だからこそタニマチがつくのだ。

 歌手志望で、YouTubeやTikTokで自分の歌動画をいくつも上げている人を大勢見かける。一方で、これは「やろうと思えば、誰でも、いつでも、すぐに、お金をかけずに、家でもできる」手軽なことだ。だから大勢がしていることであり、その中で頭角を現すのはとても難易度が高い。並外れた個性や魅力や歌唱力が求められ、デビューどころか、1いいね、1チャンネル登録をもらうのですら楽ではないだろう。

 一方で、「タニマチを見つける」という努力をしている歌手志願者となると、その数は激減すると考えられる。そもそも、歌手志望者はオーディションやコンテストを通じた事務所所属を目標にする人が多いと思われ、自費出版のような「自費武道館」は思いもよらない選択だ。「実現可能性」を別にして考えれば、あいの目のつけどころはユニークだ。

 大勢の歌手志願者が「人気を取らねば」と思う中で、あいは「人脈」に目を付けている。「人気」は結局のところ人頼りだが、「人脈」は自分の努力次第でなんとか増やすことができる。そして、人脈づくりはあいの長所であるめげなさ、物怖じのしなさ、人懐っこさが活用できる領域に思える。

武道館 (文春文庫)
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