芸能
[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

韓国人との「区別」、詐欺・セクハラ被害……映画『ファイター、北からの挑戦者』に映る “脱北者”の現実

2021/12/10 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

(c) 2020 Haegrimm Pictures All Rights Reserved

 では、「脱北者」はいつから現れたのだろうか? 北朝鮮から韓国への脱北(亡命)は、朝鮮戦争が勃発する直前から存在していたが、その様相が大きく変化するきっかけは、1994年の金日成(キム・イルソン)主席の死去であった。94年以前は、亡命者の数そのものが少なく、また軍人や外交官、留学生など北朝鮮の支配層やエリートたちの「政治的亡命」がほとんどだった。韓国にとってもこの時期の亡命者は「帰順勇士」と呼び、韓国の優越性を宣伝し北朝鮮を動揺させる格好の「反共材料」であった。

 それが金主席の死後、深刻な経済危機と、数十万(それ以上ともいわれる)もの餓死者が出たとされる食糧不足によって北朝鮮を脱出する一般市民が急増、韓国を目指す脱北者も増え続けた。

 ちなみに私の記憶には、一家5人で脱北を試み、中国朝鮮族を介して韓国政府関係者とつながり韓国入国を果たしたと大々的に報じられた、94年の「ヨ・マンチョル一家」の印象がなぜか強く残っている。反共教育で作り上げられた北朝鮮家族のイメージとは異なる、私たちと何ら変わらない「平凡さ」を感じて意外だったからかもしれない。

 こうして94年以降、それまでの政治的亡命とは明らかに異なる様相を呈したことで、「帰順勇士」という戦略的な呼び名も使えなくなり、代わりに「脱北者」という言葉が広まっていった。なお、否定的なイメージを与えるとの理由から2005年、当時の廬武鉉(ノ・ムヒョン)政権が「脱北者」から「새터민」(セトミン、新しい地に定着した住民)に呼び名を変えたのだが、これもまた差別的だと反発を受け、結局、公式名称は「북한이탈주민(北韓離脱住民)」に落ち着いた。世間では今も相変わらず「脱北者」と呼ばれている。

 脱北者が増えるにつれて、韓国社会への適応と定着が新たな問題として浮上した。そこで設立されたのが「하나원(ハナウォン)」という支援施設である。映画では具体的に描かれていないが、ジナもこの支援施設での教育を経て自立した設定になっている。韓国入りした脱北者は必ず、社会に出る前に3カ月間このハナウォンで「資本主義韓国の仕組み」と日常生活の基本を教え込まれるのだ。もちろん、国家情報院や警察による脱北の動機に対する取り調べを含めて「共産主義思想の払拭」も行われる。だがこの一方的な教育だけで、脱北者が韓国社会に適応し、定着できるわけはない。ハナウォンを出た脱北者たちは、教育の中とはまったく異なる韓国と出会うことになる。

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