コラム
“中学受験”に見る親と子の姿

中学受験塾のトップに君臨……「神童」と呼ばれた息子が、最難関私立でつまずいてしまったワケ

2020/07/12 18:30
鳥居りんこ(受験カウンセラー、教育・子育てアドバイザー)

 中1の時は、それでも楽しそうに通っていたらしいのだが、中2に進級し始めたあたりから、健君に元気がなくなってきたのを、美恵子さんは感じ取っていたという。

 やがて1学期の期末考査が行われたが、成績は見るも無残。夏休み明けの2学期になると、健君は登校することができなくなったそうだ。

 美恵子さんが「原因はイジメなの?」と聞いてみるものの、健君は「違う」と力なく答えるだけで、布団を被って寝てしまう。体調不良かと疑い、内科医に連れていくも、「問題なし」という診断結果で、美恵子さんはほとほと困ってしまったという。

 美恵子さんいわく「朝からずっと沈んでいて、夕方近くになると、ようやく元気になる」という“謎の病”を発症したかのようだったとのこと。しかし、カウンセラーの先生のところに行っても原因はわからなかったそうだ。

 そして健君は学校に行けないまま、中2の3月を迎えることになった。そんな中、健君の従弟に当たる大学生の勇気君(仮名)がやって来て、健君を東南アジア旅行に誘ってくれたという。

「健、暇なら、俺に付き合え!」

 旅が趣味でもある勇気君は、自転車で日本1周旅行をしたり、北米大陸をキャンピングカーで縦断したという人物。一人っ子の健君にとっては兄貴分である。久しぶりに会う真っ黒に日焼けした勇気君に魅せられたのか、健君は意外にもあっさりと了承し、2人は機上の人となったのだそうだ。

それから約1カ月あまりたった後、健君が帰国。身長を追い抜かれたことに美恵子さんは、まず驚いたという。

「どうだった?」と聞く美恵子さんに、健君は「土埃舞う道で市井に生きる人たちの喧騒を聞いていた」と答えたらしい。

そして、健君は中3に進級、何事もなかったかのように、クラスに復帰した。

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