コラム
オンナ万引きGメン日誌

ピンクレディーグッズを大量に盗んだ少年は、父親にボコボコにされた……ベテラン保安員が振り返る「昭和の万引き犯」

2020/05/23 16:00
澄江(保安員)

 この仕事を始めた頃、百貨店内にあったアニメやアイドルのさまざまなグッズを扱うお店で、ピンクレディーのブロマイドやポスターなどを大量に盗んだ中学生を捕らえたことがありました。捕捉して事務所に連れて行き、所持していた学生バッグの中を出してもらうと、下敷きや筆箱、ノート、鉛筆、定規、ブックカバーなど、その全てがピンクレディーで統一されています。所持金を確認する際に取り出した折り畳み財布にまで、ピンクレディーのお二人がプリントされているのを見て、スーパーアイドルの底力を見たような気持ちになりました。

「ピンクレディーのモノは、全部持っていたくて、我慢できなかったんです」

 熱狂的ファンとは、こういう人のことを言うのでしょう。被害品の中で微笑むピンクレディーと鬼気迫る少年のニキビ顔は、40年以上経過した現在も、色褪せることなく脳裏に焼き付いています。結局、盗んだ商品を買い取れなかった少年は、お店の人の判断で、自宅と学校の両方に連絡されました。当時は、子どもの万引きを教育のせいにする人が多く、非行の芽を早期に摘むという名目で、自宅と学校の両方に連絡するのが基本だったのです。この時は、連絡を受けて迎えに来た父親が、うなだれる息子を事務所で殴る蹴るしたあとに、商品を買い取って終結。いまならば通報しなければならないレベルの暴行でしたが、昭和の父親は、地震や雷、火事などと同線で恐れられていたこともあってか、咎める人は誰もいません。保護者が不在のため、仕方なく身柄の引き受けに来た生活指導担当の先生が、当該生徒をボコボコにしばいてしまうこともありました。昭和という時代の雰囲気が、保護者や教師による暴力を問題視することなく、許容していたように思います。

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